元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が1月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。経済3団体の新年祝賀会に出席し、経営者に賃上げを要請した岸田総理について解説した。
岸田総理が経営者に賃上げを要請
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岸田総理大臣は1月5日、経済3団体の新年祝賀会に出席し、看板政策「新しい資本主義」の柱に位置付ける「成長と分配の好循環」の中核が賃上げだと強調。「能力に見合った賃上げこそが企業の競争力に直結する時代だ」と述べた。参加した経営者らに対し、今年の春闘で物価上昇率を超える水準の賃上げを要請した。
安倍元総理が経済政策の一環で訴えていた賃上げ ~その継続
飯田)総理は経済3団体の新年祝賀会のあと、「連合」の新年交歓会にも参加しました。賃上げについては以前から言われていることですよね。
松井)もともとは安倍政権の後半に言われていたことです。安倍さんはもちろん保守の人なのだけれど、実際の経済政策については、懐かしい言葉になりますが「一億総活躍社会」など。
飯田)ありましたね。
松井)やや民主党系よりの、センターラインから左側、要するに働く人たちの生活をどうよくしていくか。地方創生も含めて、東京だけでなくいろいろな地方が活性化して欲しいなど、いろいろなことを仕掛ける一環としておっしゃっていました。
飯田)経済政策の一環として。
松井)岸田さんは「新しい資本主義」という看板を掲げていますが、安倍さんが言ってきたことと変わらないと思います。ある種の継続であり、それ自体は正しいと思います。連合が野党の支持基盤だというようなことは関係なく、労使双方に対して言う。
「連合」の民間経済団体系へ訴えることはいい ~国民民主を引き入れて「自公国」という可能性も
松井)連合のなかには2つの流派があって、1つは官公労と言われている公務員の人たちです。もう1つは民間の経済団体で、いまで言うと国民民主党などに近い。昔は日本社会党と民社党があり、これは仲がいいのか悪いのかよくわからないのですが、労働組合もそうです。特に民社党系の労働組合である自動車、電力、鉄鋼機関などには、保守的な人が多いです。
飯田)かつて同盟系と言われましたね。
松井)労使協調でストライキなどは打たず、「いかに会社側も栄え、労働者にきちんと分配していくか」という方針です。そこに訴えることはとてもいいし、おそらく国民民主党の玉木さんのような動きと軌を一にしている。もっと言うと、麻生さんは公明党があまり好きではないように私は感じるのですね。ですから玉木さんを引き込んで……昔は「自社さ」というものがありましたけれど。
飯田)ありましたね。
松井)自公の連立ではなく、自公国と言うべきか。むしろ民間の労働組合、自動車やゼンセン同盟など。ゼンセン同盟というのは流通や繊維などですね。そういうところは全部保守系なので、賃上げも要求し、組織にするという気持ちもあるのではないでしょうか。
どこまで企業経営者の心に響くか
松井)いまの日本経済から言っても、きちんと給料が上がるような経済をつくり、成長路線に回復させていくという発想自体はいいのです。
飯田)給料を上げてという。
松井)ただ、どこまで企業経営者の心に響くのか。いまは人手不足の時代でもありますから、余裕のあるところは給料を上げて、いい人材を取る方向に舵を切り始めています。しかし、それだけの余裕が中小企業にあるのかと言われれば、なかなかないですし、最低賃金をどのように上げていくのかも考えると難しい。
飯田)最低賃金についても。
公務員や公共勤務をされている方の処遇について野党を巻き込む
松井)官公労サイドで言えば、これはより左派の労働組合ですが、「公務員の給料を上げるのか」と。深刻な問題として教員不足などがあります。公務員と言うと、中央官僚のイメージがあるかも知れませんが。
飯田)霞が関をイメージします。
松井)人数的には学校の先生が多いのです。
飯田)なるほど。
松井)あとは警察・消防など、自治体職員ですね。
飯田)現場を持っているような。
松井)「この人たちの給料を上げるのか」ということになってくると、原資が税金ですし、それこそ財務省もいい顔をしない。民間の給料が上がらないのに公務員を先に上げるのはおかしい、順序が違うという話になる。
飯田)そうなりますね。
松井)一時、福祉関連のヘルパーさんについて、介護ケアの手当を上げていくという話がありました。その人たちは必ずしも公務員ではないけれど、公務員や公共勤務をされている方々の処遇をどうするのか。おそらく民主導だけれど、今後はどこまで合わせて考えていくのか。
飯田)公務員や公共勤務をされている方々の処遇。
松井)場合によっては野党も巻き込んでいく。今回、旧統一教会をめぐる被害者救済法に関して野党を巻き込みましたけれど、そういう動きをここでも出すと、政界再編も含めていいのではないでしょうか。
飯田)野党も。
松井)国民からすれば「いまの野党は何をやっているのだ」というところがあるわけです。彼らは自民党に対し、どういう立ち位置を取るのか。場合によっては野党も2つに分かれていく気がします。そういう意味では少し注目しています。
岸田総理は小渕元総理のいいところを取り入れるべき ~他を利する人柄が滲み出ていた小渕元総理
松井)(岸田さんは)少し言葉が大げさなのです。安倍さんの「異次元の金融緩和」の場合は、本当に安倍前・安倍後で変わりました。だから異次元という言葉に相応しい。しかし、「異次元の少子化対策」と言われても、メニューは何があるのだと。
飯田)年頭会見でそのような話がありましたが。
松井)異次元や新しい資本主義などという大仰な言葉を使うよりも、岸田さんが地味な人であるならば、昔の小渕さんのように地味に進めた方が、かえって印象がいいのではないかと思います。
飯田)小渕さんは「冷めたピザ」などと批判もされましたが、地道に政策を積み上げて、支持率があとから回復してきた稀有な総理です。
松井)経済を上げなければならないから、堺屋太一氏を経済企画庁長官に就任させて、「株を上げろ」とパフォーマンスをした(その後、株価が上昇)。
飯田)そうですね。
松井)亡くなったから言うわけではないのですが、小渕さんは利他というか、他を利するような人柄が滲み出ていました。ですから、自ずと小渕さんのことを立てようとする人が出てきた。
飯田)小渕さんの周りで。
松井)岸田さんは(小渕さんと)似ているし、おそらくそういう狙いがあるのではないかと思いますが、いまひとつ利他的な感じがしないのです。
飯田)岸田総理の場合。
松井)今後の広報対策として、小渕さんからアイデアをもらうといいと思います。
霞が関で「楽な総理大臣」と思われている岸田総理
松井)岸田さんの本来の「人柄がいい」ところが、霞が関に伝わっていないのです。「本当は権力欲がすごいらしいよ」というようなことがまことしやかに言われているので、もし本当にいい人であれば、岸田さんが自分の腹に持っているビジョンを示すべきです。
飯田)総理のビジョンを。
松井)次の演説でもしっかりとした演説をして欲しいです。安倍さんは演説に力を注いでいました。菅さんはそこまで演説を重視せず、どちらかというと「巧言令色鮮し仁」「言葉ではなく実行力だ」という感じでした。
飯田)菅さんは。
松井)それはそれで1つのスタイルなのですが、岸田さんには「こういう社会を目指したい」ということをもう少し語り、統合性を持っていただきたいですね。「立派な人なのだな」という印象になれば、周りの動き方が変わってくるのだけれど、いまはやや使われてしまっている。「与し易し」と思われているような気がします。
飯田)霞が関からすると、「この人だったら全部聞いてくれるから」と。
松井)久しぶりに楽な総理大臣が出たと。
飯田)楽な総理。
松井)いい意味での緊張感を持たせたり、霞が関の人たちが心酔したりするような総理になって欲しいですね。安倍さんがそうでした。霞が関では国際会議などで安倍さんに同行した局長クラスが、みんな安倍さんのファンになって帰ってくるのですよ。
飯田)ファンになって。
松井)一緒に酒を飲んだりすると、「安倍さんは国際社会のなかでリスペクトされているよ」と。「接してみると意外と心配りがあって、逆らうと怖いけれどね」と言うのです。岸田さんはまだしばらく務めるでしょうから、そういうところをもう少し醸し出していただきたいと思います。
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