思い出の宮崎で始まる立身出世 侍ジャパン・戸郷翔征「飛躍の原点」
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、3月開催の「2023ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)」野球日本代表・侍ジャパンに選出が決まった読売ジャイアンツ、戸郷翔征にまつわるエピソードを紹介する。
栗山英樹監督が「中心になる選手たち」と語った12人の侍たち。事前に参加を表明していた3人のメジャーリーガー、大谷翔平、ダルビッシュ有、鈴木誠也に加えて、昨季(2022年)のセ・パMVPであるヤクルト・村上宗隆、オリックス・山本由伸を中心に国内組からも9人がまず選出された。
話題の中心は記者会見にもサプライズ登場した大谷翔平であるのは間違いないが、個人的に気になったのは投手陣で選ばれた巨人の戸郷翔征だ。
『自分が侍ジャパンの一員になれることを想像するだけでも身震いがしています。侍ジャパンのユニフォームを着られることを誇りに思い、今後の野球人生に生かすためにも自分ができる精一杯の投球をしたいです』
~読売ジャイアンツ公式サイト(2023年1月6日配信記事より 戸郷のコメント)
本人も恐縮するように、投手陣では21歳の佐々木朗希に次ぐ若手からの抜擢となった。ただ、高卒4年目の昨季は154奪三振で最多奪三振のタイトルを獲得するとともに、リーグ2位の12勝、防御率はリーグ5位の2.62という安定感を発揮。さらに、昨年11月に行われた強化試合で侍ジャパンに初招集され、4イニングを1安打無失点、無四球7三振の好投を見せたことを考えれば、至極順当な選出とも言える。
その上で、なぜ戸郷の侍ジャパン入りが感慨深いかと言えば、話は5年前の2018年の夏、戸郷の宮崎・聖心ウルスラ学園高校時代のエピソードにさかのぼる。このとき18歳だった戸郷は、年代別とはいえ侍ジャパンのユニフォームを着た高校代表選手たちの“調整役”として登板。そこから、同世代をごぼう抜きにしての「WBCを戦う日本代表トップチーム入り」を果たしたからだ。
振り返れば高校時代の戸郷は、2年夏(2017年)の甲子園出場を果たし、初戦の早稲田佐賀高戦で完投勝利も経験。ただ翌2018年、3年夏の宮崎大会は準々決勝で敗れ、2年連続での甲子園出場とはならず。大会後に結成されたU18日本代表にも当然ながら選出されなかった。
このときのU18日本代表は、夏の甲子園で優勝して春夏連覇を果たした大阪桐蔭の根尾昂(現・中日)、藤原恭大(現・ロッテ)。その大阪桐蔭に決勝で敗れたものの旋風を起こした金足農業の吉田輝星(現・日本ハム)。その他、報徳学園の小園海斗(現・広島)、1学年下からは星稜の奥川恭伸(現・ヤクルト)らが選出され、「歴代でも屈指の好選手揃い」と評価は高かった。
そんな若き侍ジャパンがU18アジア選手権に挑む直前、サンマリンスタジアム宮崎で行われたのが戸郷擁する宮崎高校選抜との壮行試合だ。この試合で宮崎選抜の2番手でマウンドに上がった戸郷は5回1/3を投げ、2失点したものの9奪三振を記録。藤原恭大、根尾昂らから三振を奪い、当時の自己最速149キロも計測して大いに評価を高め、その後の秋のドラフト会議で巨人の6位指名を勝ち取るきっかけとなったのだ。
あの宮崎での快投劇こそ、まさに飛躍のはじまり。あのとき宮崎選抜だった男は5年の間に大きく飛躍を遂げ、同世代で真っ先にWBCへの出場資格を勝ち取ることとなった。
そして今回、侍ジャパンが事前合宿を行うのは思い出の地、サンマリンスタジアム宮崎。立身出世の第2章のはじまり、と考えればこれ以上ふさわしい場所はないだろう。
投球数制限が設けられるWBCでは「第二先発」や「中継ぎ」など、さまざまな起用が想定されるのが今大会での戸郷の立ち位置。過去の大会を振り返っても、その役目こそ世界一を目指す上で重要な役回りとも言える。
先述した昨年11月の強化試合で好投を見せた戸郷に対して、栗山監督はこんな言葉を残している。
『WBCでは2人目に投げる投手が肝になるという感覚がある。(ブルペンでの)作り方も含めて、戸郷投手がどこでもできるというところを証明してくれた。素晴らしかった』
~『ベースボールキング』2022年11月10日配信記事 より
期待に応えるため、母校・聖心ウルスラ学園のグラウンドで自主トレをスタートさせている戸郷。まさに宮崎から始まる世界一への道のり。残りの代表メンバーが誰になるのかも含め、楽しみは尽きない。