“国枝の後継者”車いすテニス・小田凱人 全豪制覇ならずも全仏に期待したい「理由」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、全豪オープンテニス、車いすの部で初出場・準優勝。国枝慎吾の後継者として世界中から注目を集める16歳、小田凱人選手にまつわるエピソードを紹介する。

“国枝の後継者”車いすテニス・小田凱人 全豪制覇ならずも全仏に期待したい「理由」

車いすの部男子シングルス決勝で厳しい表情を見せる小田凱人(共同)=2023年1月28日 写真提供:共同通信社

すべての四大大会とパラリンピックで優勝する「生涯グランドスラム」を達成した車いすテニス界のレジェンド・国枝慎吾が「世界ランク1位」のまま現役引退を電撃表明してから1週間。その国枝のプレーに感銘を受けてテニスを始め、「国枝の後継者」として全豪テニスで大きな注目を集めたのが弱冠16歳の小田凱人だ。

四大大会史上最年少優勝の期待もかかるなか、迎えた決勝戦。第3シードの小田は第1シードのアルフィー・ヒューエット(英国)と対戦し、3-6、1-6でストレート負け。それでも、将来性ばかりの16歳は、この悔しさを次に生かすと宣言し、早速、前を向いている。

『本当に悔しい。また何度もこの舞台に戻って来て今度は必ず逆の(優勝した)立場でスピーチしたい』

~『スポニチアネックス』2023年1月29日配信記事 より

現在の四大大会最年少優勝記録は、今回敗れたヒューエットが2017年の全仏オープンで記録した「19歳」。実はこのヒューエット、小田にとってはある意味、因縁の相手と言える。

昨年(2022年)11月、年間上位8名だけが出場できる年間チャンピオン決定戦「NEC車いすシングルスマスターズ」で初出場・初優勝の快挙を果たし、史上最年少での年間チャンピオンになった小田。このとき決勝で破った相手がヒューエットだった。

だからこそ、今後のヒューエット戦は難しいものになる、ということは小田自身が予言のように言葉にしていたこと。昨年12月、ニッポン放送『ニッポンチャレンジドアスリート』に出演した際、こんな発言をしていたのだ。

『来年ここから日本の16歳がくるだろうなと思わせるような試合ができたんじゃないかなと思っています。全選手、僕への対策を考えてくるだろうから来年勝つことも難しくはなってくるでしょうけど、その対処ももちろんできていますし、次の新しい自分の武器というのも今つくっている段階なので、来年が楽しみな気持ちが大きいです』

~ニッポン放送『ニッポンチャレンジドアスリート』2022年12月、小田凱人インタビュー より

結果的に、今回の全豪ではその「新しい武器」の発揮とはいかなかったものの、小田の四大大会挑戦はまだ始まったばかり。「四大大会史上最年少優勝」の更新という意味では、5月、全仏オープンが次のチャンスとなる。

むしろ小田にとって、全仏オープンこそが偉業を残す上で最もふさわしい大会、という見方もできる。理由の1つは、昨年5月、はじめて出場したグランドスラムが全仏だったこと。今回の全豪まで、小田にとってはすべて「初出場」という難しい挑戦だったのだ。

だが、今後の四大大会はすべて、一度は経験したことのある勝手知ったる舞台。もともと、史上最年少14歳11ヵ月でジュニア世界ランキング1位になるなど、注目される立場でこそ力を発揮できる小田だけに、次の全仏にはますます期待したくなるのだ。

そしてもう1つの理由。それは、小田凱人の「凱」はフランスの首都・パリの象徴である「凱旋門」にちなんで名付けられたものだから。さらにフランス・パリといえば、来年(2024年)には「パリパラリンピック」も控えている。パラリンピック前哨戦としても、全仏オープンでの戦いは大きな意味を持つことになるのだ。

そのフランス、そしてパリへのこだわりについて、ニッポン放送『ニッポンチャレンジドアスリート』ではこんな言葉も残している。

『凱旋門というものがあるくらいなので、もちろんフランスに行くときは特別な思いがありますし、初グランドスラム、初パラリンピックがパリになるので、本当にすごいなと自分でも思います。だからこそ勝たないと。勝つことで話題性も出てくると思いますし、そういうチャンスを誰かが与えてくれたんだろうなと信じて戦うのみ』

~ニッポン放送『ニッポンチャレンジドアスリート』2022年12月、小田凱人インタビュー より

2012年のロンドンパラリンピックで金メダルに輝いた国枝慎吾の勇姿をテレビ越しで見た瞬間、「自分もこうなりたい」と車いすテニスで世界を目指す決意を固めた小田。そんな彼にとって、パラリンピックは夢の舞台であり、まさに原点の場所。そして、パリ開催となれば、これほど運命的なことはない。四大大会史上最年少優勝へ、そしてその先に見据えるパリパラリンピックへ。小田凱人が挑む「パリの戦い」がいまから楽しみだ。

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