話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、バスケットボールNBAの歴代最多得点記録を更新したレブロン・ジェームズと、チームメイトの八村塁にまつわるエピソードを紹介する。
「キング」の異名で呼ばれるNBAロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズが、まさにバスケットボールの歴史において「キング」の座に立った。
2月8日(現地時間7日)、サンダー戦で38得点を挙げたレブロンは、キャリア通算得点が「3万8390点」に到達。伝説のセンター、カリーム・アブドゥル・ジャバーが持っていた従来のNBA歴代最多得点記録「3万8387点」を34年ぶりに塗り替え、NBA得点ランキングの1位に君臨したのだ。
「バスケの神様」マイケル・ジョーダンは2度の引退を挟んだとはいえ、通算「3万2292点」。その神様の後継者と呼ばれたクラッチシューター、コービー・ブライアントは「3万3643点」。毎年コンスタントに得点を重ね続けた鉄人、カール・マローンが「3万6928点」……。
歴代レジェンドでも届かなかったジャバーの壁を越えたレブロンは現在38歳。この年齢になっても、今季の平均得点は30点とキャリア平均を上回るペースを見せ、衰えを感じさせないのだから恐れ入る。このまま順調にいけば、前人未到の4万点突破も夢ではない。
そして今回の偉業達成で嬉しいのは、八村塁がこの歴史的な試合にチームメイトとして出場していたこと。しかも、14得点6リバウンドを記録。38得点のレブロン、27得点のウエストブルックに次いでチームで3番目に多い得点をマークする活躍ぶり。試合には敗れたものの、歴史的なスーパースターの隣にいて遜色ない数字を残している。
レブロンと同じユニフォームを着ていれば、今後も刺激的で歴史的なシーンに出くわすことは多いはず。それらを肌で感じ、自らの血肉として欲しいと願うばかりだ。
これまでにNBAチャンピオンに4度輝き、MVPも4度受賞。五輪では2008年北京、2012年ロンドン大会で金メダル。史上唯一の「3万得点、1万アシスト、1万リバウンド」の達成などなど、歩んできたキャリアはまさに偉業だらけのレブロン。
八村がレイカーズにトレード移籍してからだけでも、1月27日にはNBA全30チームから40得点以上を獲得する史上初の偉業を達成。今月(2月)1日には通算アシスト数で歴代4位に到達。こうしたレブロンの偉業達成の瞬間を間近で目撃できることは、八村のキャリアにも少なからず影響を与えるはず。
歴史的瞬間に限らずとも、チームメイトとして普段の練習からレブロンと接することで学ぶこと、経験できることも多大にあるだろう。なぜなら、レブロンの偉業は天賦の才だけに頼ったものではなく、「キングでありながら誰よりも努力する」という姿勢の賜物だからだ。
例えば2020年。自身4度目、レイカーズ移籍後は初めてのNBA優勝を成し遂げた際、レブロンはこんな言葉を残している。
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『チャンピオンになって最初に考えるのは、この1年でどれだけの努力をしてきたか。どれだけの犠牲を払い、どれだけ自分の技術のために時間を費やしたか。それを考えると満足感が得られる。チームメートの喜ぶ姿を見るのと同じぐらいにね。報われると信じて努力し、その結果が分かる。これはプロバスケットボール選手に限らず、どんな職業の誰であっても、努力を積み重ねた結果を知るために生きているのだと思う』
~『バスケット・カウント』2020年10月13日配信記事 より
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努力の重要性を知っているからこそ、NBA入りを目指す自身の息子に対しても、こんな厳しい言葉を放つ。
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「息子に将来の夢を尋ねると、彼は『NBAでプレーしたい』と言う。もし彼がその夢を実現したいのであれば、もっと努力しなければならない」
~『バスケットボールキング』2023年1月9日配信記事 より
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そしてこの「努力」の重要性は、レイカーズに脈々と受け継がれている哲学で、チームレジェンドの故コービー・ブライアントに由来する「マンバ・メンタリティ」そのものでもある。
勝負がかかった場面で狙ったシュートを外さないことから、同じく狙った獲物は逃さない猛毒蛇「ブラック・マンバ」の異名で呼ばれたコービー。そのスーパープレーの数々の源泉となったものこそマンバ・メンタリティだ。コービーが契約していたNIKE社の公式サイトに、その意味が記されている。
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『マンバ・メンタリティとは、毎日、すべてのことにおいて「もっと良くする」を目指すことです。コービーはマンバ・メンタリティについて「常に最高の自分になろうと努力を続けること。昨日よりももっと良い自分になろうとし続けること。」と話していました』
~NIKE公式サイト より
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レブロンがレイカーズにやってきたのは、コービーが引退して2年後。それでも、NBA屈指のエース同士としてコートで対峙することで影響を受けた部分もあるだろう。チームに受け継がれ、そしてスーパースターだからこそ知る「努力」の重要性を、八村はこれから先、ますます実感できるのではないだろうか。
レブロンの歴史的偉業を通じて、八村の未来に思いを馳せることができるのも、大いなる喜びだ。