ウクライナの国営通信社ウクルインフォルムの編集者・平野高志氏が2月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナの現状について語った。
ロシアによるウクライナ侵略から1年
2022年2月24日に起きたロシア正規軍によるウクライナ侵略から1年が経とうとしている。先の大戦後で最大規模の軍事攻撃となり、これまでに多くの犠牲者を出し、世界市場も揺るがしている。現地・ウクライナの人々はこの1年をどう見てきたのだろうか。
電力も安定し、一時期のような状況からは脱しているキーウ
飯田)この1年を振り返って、いまのキーウあるいは国内の様子はいかがでしょうか?
平野)状況は「場所による」としか言いようがないのですが、キーウについて言いますと、ロシア軍が近郊から撤退して10ヵ月~11ヵ月ほど経っていますので、脅威はかなり去っている状況です。生活は昨年(2022年)の夏前くらいから、ビジネスや通常生活の基盤は回復しています。
飯田)夏前ごろから。
平野)昨年の秋からはミサイル攻撃や無人機攻撃で電力インフラが壊され、停電もあったのですが、一方で物流などは生きています。国内の食料供給もできているので、スーパーなどはもので溢れかえっていますし、病院や学校なども機能しています。
飯田)そうですか。
平野)電力インフラについては、停電の問題が大きくありましたが、それ以降は国際社会から防空システムの提供がありました。皆さん発電機を購入したので、一時期、報道されていたような大停電にはなっていません。
飯田)一時期のような大停電はない。
平野)最近はロシア側が発射するミサイルの数も少なくなり、間隔も長くなってきているので、電力供給も安定しています。悲惨な状況からは脱することができていると言えますが、それは国際社会の支援のおかげであり、ウクライナ軍のおかげであり、皆さんの努力のおかげだと思います。だいぶ安定しています。
米バイデン大統領の訪問が大ニュースとなった現地 ~国際社会からの武器提供がウクライナの人々の高い士気を維持させている
飯田)先日の米バイデン大統領の電撃訪問について、現地の方々はどのように受け止めていらっしゃいますか?
平野)アメリカの大統領がウクライナに訪問すること自体が2008年以来で、2014年以降は1度も訪問がありませんでした。このタイミングでの訪問は大ニュースであり、大賑わいでした。
飯田)ウクライナの方々は高いレベルの士気を維持していらっしゃると思いますけれど、その部分は変わらないですか?
平野)2022年末に防空システムであるパトリオットの提供があり、年が明けてからは戦車レオパルトやチャレンジャー2の提供が決まりました。「士気が下がるかも知れない」というタイミングでしたので、「国際社会が見放していない」ということが明確にわかるメッセージになっています。
飯田)国際社会からの武器などの提供が。
平野)領土奪還については、冬の間はうまくいっていませんでしたが、士気が下がるようなことはなく、むしろ士気を維持できるような出来事が続いていると思います。
実は「チーム・ウクライナの一員」だと思うロシア系ウクライナ国民の人がほとんど
外交評論家・宮家邦彦)ウクライナ人とロシア人の関係は特殊だと思います。徐々にウクライナのナショナリズムが強くなってきていると思うのですが、ウクライナ国内のロシア系の人たちと、ウクライナ人の方々の間で、気持ちの変化はあるのでしょうか?
平野)「ロシア系」という言葉がまず、曖昧でわかりにくいと思うのですが、「民族的ロシア人であるウクライナ国民」のことですよね。
宮家)そうですね。
平野)その方々にあるアイデンティティを聞いたときに、約80%の人が第1アイデンティティとして、「自分はウクライナ国民だ」と思っているのです。つまり、ロシア系の人々との関係ではなく、むしろロシア系と言われる人も「ウクライナ(国民)というアイデンティティが強い」というところが大切なのだと思います。
宮家)それは戦争が始まったあとで強くなったのでしょうか?
平野)2014年以降に強くなったのだと思います。私たちがロシア系と呼ぶなかにはいろいろな人がいますが、むしろ「チーム・ウクライナの一員だ」と思っている人がたくさんいるのです。それをあたかも「ロシア側にシンパシーを持っているのではないか」という誤解、偏見を私たちが持ちがちなところは、ロシアのプロパガンダに狙われる可能性があると思います。
改善に向かっている汚職対策改革
宮家)戦争の陰でわからないことの1つが、汚職の問題等で人がずいぶん変わっていますよね。ウクライナがNATOに入るなりEUに入るなりする場合には当然、通過しなければならない改革なのですが、どのような状況でしょうか? 改善に向かっているのですか?
平野)2014年からの大きな課題で、G7で改革をサポートするグループがウクライナ国内につくられています。汚職対策改革の動きは、着実に進んでいる部分と、抵抗勢力によって邪魔されている部分がありますが、それでも進んではいます。
飯田)進んでいる。
平野)細かく見ていくと着実に前進し、効果を出しています。最近では「トランスペアレンシー・インターナショナル」の「腐敗認識指数」ランキングでウクライナの順位が上がるなど、結果は出ています。
飯田)なるほど。
平野)他方で、「これで十分か」と言われると、まだまだやらなければいけないことがたくさんあります。戦争のなかであっても、昨年、ウクライナはEU加盟候補国の地位をいただきましたが、EU側から汚職対策の改革として「これと、これをしなければなりません」と大きな課題を明示されているのです。
飯田)EUから。
平野)ウクライナは頑張って履行しているところですので、きちんと実行はしているのですが、やはり改革には時間が掛かると思います。
汚職について対応し、ゼレンスキー大統領から留任してよいとお墨付きをもらったレズニコフ国防相
飯田)国防省のなかで汚職があったのではないかと言われていました。レズニコフ国防相については、一部では更迭と報道されましたが、現在は留任となっています。一連の手当をしたからこその留任という受け止め方でよいのでしょうか?
平野)レズニコフ氏自身に汚職疑惑があったというよりは、責任問題で辞めさせられるのではないかという話でした。しかし、報道を受けたあとにレズニコフ氏は、次官級の人を総入れ替えするなどして人事を変更し、省内の内部調査に民間の優れた団体などを招待して調査させ、対応を取りました。その結果、ゼレンスキー大統領から「留任してよい」というお墨付きをもらったようです。
飯田)東部でロシアの攻勢が強まっているというNATO事務総長の指摘などもありますけれど、ウクライナ国内ではどんなことが言われていますか?
平野)ウクライナ側も反攻の用意をしていることは、ウクライナの人々はよくわかっていますので、それほど慌ててはいません。これから入ってくるレオパルト2などの戦車を使って反攻しますし、ロシア側の攻撃は始まっているようですが、バフムトもここ数日は押されていないので、不安視するような声は出ていません。
G7議長国としてサミットで平和を語るのであれば、岸田総理はウクライナを訪問するべき
飯田)国際社会あるいは日本に対して、どのようなことが求められるでしょうか?
平野)まずは「日本の首相にウクライナに来てもらいたい」ということがいちばんではないですかね。
飯田)岸田総理に。
平野)G7議長国として平和についてサミットで語るのであれば、いま平和を勝ち取るために命を懸けて戦っている人たちの姿を見ずに平和を語ると、どうしても言葉が空虚になってしまうと思います。
飯田)ウクライナの方々の姿を。
平野)戦争から避難した人たちも助けなければなりませんが、侵略に立ち向かっている人も、日本は支えなければいけない。平和を語るのであれば、ウクライナを訪問し、戦争のなかで生きている方々をきちんと見るべきだと思います。日本から見ているだけではわからないのではないでしょうか。
飯田)イタリアの首相が訪問し、「私が来て見ることによって変わるのだ」と話していましたが、そういうところが重要ですよね。
平野)そうだと思います。広島出身の首相だからこそウクライナを訪れ、ウクライナの人々を見て痛感してもらいたいですね。
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