驚異的な成功率 バスケ日本代表「3ポイント戦略」の「本当の狙い」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回はW杯アジア予選を5連勝で終え、夏のW杯本番を見据えるバスケットボール日本代表にまつわるエピソードを取り上げる。

驚異的な成功率 バスケ日本代表「3ポイント戦略」の「本当の狙い」

アジア地区2次予選・日本-バーレーン。第3クオーター、試合を見詰める日本代表のトム・ホーバス監督(左端)=2023年2月26日、群馬・高崎アリーナ 写真提供:時事通信

サッカーW杯の勢いに続けと、今夏に日本をはじめ3ヵ国共催となるバスケットボールW杯へ強化を進める男子日本代表。そのアジア地区予選2月シリーズで日本代表は、イラン、バーレーン相手に見事2連勝を収めた。

バーレーン戦の終盤では、ともに同じポイントガードで普段は並び立つことのない富樫勇樹(千葉ジェッツ)と河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)の「Wユウキ」を同時出場させてファンの興奮を誘うシーンも。そんなチーム状況を代表キャプテンの富樫はこう振り返る。

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『約2年間ホーバスHCのもとでやってきて、今日2日間で成長した姿を見せられた。この予選をいい形で終われてよかった。(河村との同時コートイン)同じポジションで一緒にコートに立つことはほとんどないので、彼が出てきた時はちょっと笑ってしまったけれど、このサイズの選手が2人コートに立って走り回るのはバスケの魅力。これからも2人で引っ張っていけたらと思う』

~『The Sporting News』2023年2月26日配信記事 より

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アジア予選全体を通じても、5連勝と波に乗る日本代表。もともと開催国枠でのW杯出場が決まっているとは言え、八村塁や渡邊雄太らNBA組を欠くなかでもチーム状態が明らかに上向きであることを感じさせてくれた。

そのなかでも徹底されたのは、トム・ホーバスHCが就任時から掲げていた「3ポイント重視」の姿勢だ。

イラン戦では19歳の現役大学生、この日が代表デビューの金近廉(東海大)が6本の3ポイントを含む20得点でこの試合のトップスコアラーに。富樫、河村をはじめ他の選手たちも要所要所でキッチリ3ポイントを沈め、全96点中、半分以上の51点を3ポイントシュートで獲得。チーム成功率45.95%は極めて高い数字と言える。

続くバーレーン戦では須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)が9本放った3ポイントのうち6本沈める高確率で20得点。チーム全体としてもイラン戦での17本成功とほぼ同じ16本の3ポイント成功を収め、ホーバスHCの狙い通り、日本の大きな武器になってきたのは間違いない。

そんな3ポイントの意識の変化について、今回活躍した須田は以前、こんな言葉を残している。

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『3ポイントに関してはトムさんのバスケットっていうところで、役割が明確になっているのが僕はやりやすいと感じていて。シンプルなマインドで戦える迷いのなさが確率につながっていると思っています』

~『バスケットボールキング』2022年8月10日配信記事 より

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このように2年間かけて3ポイントのマインドを変えてきたホーバスHCは、今回の代表2連戦を終えた直後、その成果をこう評した。

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「世界に『日本は3Pが入る、怖い』というイメージを植え付けられたと思います」

~『月刊バスケットボールWEB』2023年2月27日配信記事 より

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ただ、その「怖さ」の持つ意味は3ポイント単体にあらず。その真の狙いについて、同じように3ポイントを武器に東京五輪銀メダルへと導いた女子日本代表HC時代の言葉から汲み取ることができる。当時の女子代表ではゴール下の番人であるはずのセンターの選手にも積極的な3ポイントを求めていた。その意図をこう明かす。

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『日本のセンターがアウトサイドに行ったら外に行かざるを得ない。そうすれば日本にとってはペイントエリアが開いて、3Pシュートだけでなく、ドライブもできるわけです』

『私がいつも選手に言うのは「3Pラインには力があるよ」ということ。あのラインの外に行ったら相手が怖くなる。でも、ラインの中に入ったらそこまで怖くない。やっぱり3Pシュートは、それだけ相手に与えるイメージが強いものなんです』

~『バスケットボールキング』2019年5月31日配信記事 より

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夏に迎えるW杯、そして来年(2024年)のパリ五輪で世界の強豪との対戦を見据え、日本にとって長年の課題であるインサイドでも勝負できるようにする……そのために、ここまで2年をかけて「3ポイントが強い日本」を形づくってきたわけだ。

もちろん、この変化は代表活動だけで実現できるわけではない。それぞれの選手のBリーグでの成績を見ていくと、3ポイントへの意識の向上、そして技術の精度が上がっているのが明確にわかる。

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■河村勇輝のリーグ戦3ポイント成績
昨季B1(32試合)88本中22本成功/成功率31.8%

今季B1(37試合)262本中91本成功/成功率34.7%(※2月末時点)

■須田侑太郎のリーグ戦3ポイント成績
昨季B1(41試合)133本中39本成功/成功率29.3%

今季B1(38試合)223本中78本成功/成功率35.0%(※2月末時点)

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河村は3倍近く、須田も倍近い本数の3ポイントを放ち、そのなかで成功率も高めているのだ。このメンバーに加え、今季NBAで3ポイントが絶好調の渡邊雄太もW杯本番では代表に加わる予定だ。渡邊は今季、3ポイント成功率で一時NBA全体のトップにランクイン。その後、負傷離脱で試合数が足りずランキングからは外れているが、それでも成功率48.2%は、リーグ1位のマルコム・ブログドンの46.5%を上回っている。

躍進が続いた女子代表に比べ、世界大会で華々しい活躍がまだできていない男子日本代表。その殻を破ることができるかどうか。「もっともっといいバスケットを見せたい」と語るホーバスHCの下、さらなる進化にも期待したい。

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