政権交代可能な野党になれない立憲民主党の「残念な部分」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月1日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。衆議院本会議を通過した新年度の予算案について解説した。

政権交代可能な野党になれない立憲民主党の「残念な部分」

立憲民主党大会を終え、記者会見する泉健太代表=2023年2月19日午後、東京都千代田区平河町の都市センターホテル 写真提供:産経新聞社

新年度予算案が衆院通過、年度内に成立へ ~過去最大の114兆円余り

一般会計の総額が過去最大の114兆円余りとなる新年度予算案は衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、参議院に送られた。新年度予算案は憲法の規定により、衆議院を通過して30日経てば参議院で採決が行われなくても自然成立するため、年度内に成立することになる。予算案は3月1日から舞台を参議院に移して審議が行われる。

国民民主党が予算案反対へまわった理由 ~賃上げ税制の税額控除の対象が不十分

新行)予算についてはどうご覧になりますか?

佐々木)私が注目しているポイントは、国民民主党が「予算案反対」へまわったことです。前回は賛成にまわって、「野党なのに賛成するとは何事だ」と、とても批判されたのですが、今回は反対しました。

新行)今回は予算案に反対です。

佐々木)さっそく立憲民主党などは「野党共闘だ」という話になっているのですが、私は「野党共闘」という議論と、立憲民主党や国民民主党が「予算案に反対している」という議論は、レイヤーがズレれていると感じています。

新行)ズレている。

佐々木)国民民主党がなぜ反対しているかと言うと、今回は「賃上げ税制」があるからです。いま物価が上がってインフレ状態になっていますが、なかなか賃上げにつながらない。もともとアベノミクスで行ってきたリフレ政策は、物価が上がるに伴って賃上げも期待できるというロジックでしたが、物価が上がっている割には……エネルギーが高騰しているわけですが、なかなか賃上げに結びつかない。

新行)物価が上がっているのに。

佐々木)「従来の給料を一定額賃上げした企業に対しては、税額控除します」というのが「賃上げ税制」なのです。その税額控除の対象を、今回の予算案では「法人税に対して税額控除します」という話なのですが、国民民主党は、それだけでは不十分だと。対象を法人税だけではなく、法人事業税や固定資産税にも当てはめなさいと言っているのです。そこが認められなかったので、「予算案に反対」と言っているわけです。

新行)賃上げ税制の税額控除の対象を広げろと。

固定層の支持者の手前、防衛費増額に慎重な姿勢を取らざるを得ない立憲民主党

佐々木)一方、防衛費の問題が議論されていて、防衛費を国内総生産(GDP)の2%まで上げますよと。これに対しては、国民民主党は反対しているわけではなく、立憲民主党と日本維新の会が反対しています。

新行)国民民主党は反対ではない。

佐々木)要するに、そもそも「GDP比2%という数字ありきではいけない」と。「なぜ2%にするのか、ロジックがないではないか」ということと、もう1つは「増額分の一部を増税で賄う」と言っていることに反対しています。

新行)立憲民主党と日本維新の会は。

佐々木)確かに増税に関して言えば、世論調査でも国民の多くが反対している。ですから増税ではなく、国債で賄いましょうという意見が出ていて、その議論はもちろん有効だと思います。しかし、「GDP比2%はないだろう」という意見は、どうなのでしょうか。基本的に立憲民主党は防衛費増額に対し、一貫して慎重姿勢なわけです。

新行)立憲民主党は。

佐々木)結局は支持者のなかで、いわゆる護憲的な、従来の防衛費の枠を超えたくないという人もいる。「軍事費増額は、イコール戦争する国になっていくのだ」という意見が多いので、どうしても慎重にならざるを得ないのです。

現在の日本が置かれた立場では「防衛費増額は当然」とする世論調査の結果も出ている ~そこまで広げることができず政権交代可能な野党になれない立憲民主党

佐々木)一方で、「ロシア・北朝鮮・中国の核保有3ヵ国に囲まれる日本としては、防衛費をある程度増額するしかない」と。しかも、アメリカも昔のような強大な国ではなくなってきているので、それほど頼れない。アメリカと手を組んで日本を守るには、自国でトマホークの購入などをせざるを得ないので、「防衛費増額は当然だ」というような世論調査の結果も出ています。

新行)そうですね。

佐々木)「どこまで防衛力強化に慎重な姿勢を貫くのか」というところは、とても悩ましい。言えば言うほど、従来の立憲民主党の固定層である支持者には「そうだそうだ」と言われるかも知れませんが、それ以外のところへの支持は広がらないのです。

新行)新たな支持者獲得にはつながらない。

佐々木)そうなると、政権交代可能な野党にはなれないという問題があります。「岸田首相は信頼がおけない」と言われながらも、自民党がいつまでも支持率を高めていて安泰、というような状況が健全だとは思いません。

新行)自民党だけという。

佐々木)ある程度、代替可能な政権野党が出てくる可能性を期待しているのですが、防衛費の問題に引っかかり、固定層に固執して支持を広げられないのは、立憲民主党の残念な部分だと思うのです。

「反自民」ということだけでは票は集められない

新行)防衛費をめぐる考え方は、国民民主党と立憲民主党で違いますものね。

佐々木)日本維新の会もそれぞれ違うので、「何を軸にして野党共闘するのか」ということです。これもよく言われているのですが、理念なきままの野党共闘では意味がありません。しかし、いまの自民党に対する対立軸は何かと考えると、なかなか難しいと思います。

新行)まったく考え方や価値観が違うのに、政権交代を目指して共闘するというのは、少し違いますよね。

佐々木)烏合の衆と言っては言い過ぎかも知れませんが、政権交代を目指したかつての民主党もそうですし、1993年の細川護煕さんなどの連立与党の時代もそうでしたが、結局すぐに瓦解しています。

新行)そうでしたね。

佐々木)そういう状態が見えてしまったので、有権者も「反自民」だけでは票を入れませんよね。日本は、そうではない新しい軸、政治哲学を考えなくてはならない時代にきているのですが、メディアも含めて政治報道は政治哲学のような方向ではなく、政局で「誰かと誰かがくっついた」というような話ばかりしている。そこがダメなのだろうなと思います。

野党は「第3の道」が何なのかをもう1度考えなくてはならない

新行)よく、「対決型」と「提案型」と言いますが。

佐々木)いまの立憲民主党の泉健太さんは提案型を打ち出していますが、選挙に負けているので、「やはり提案型はダメだ」と支持者は言っているのです。しかし、対決型を続けて、反自民で広範囲の支持を得られるのかと言えば、それもないわけです。もう1度「第3の道は何なのか」を考えなくてはなりません。

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