数量政策学者の高橋洋一が3月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。経済指標次第では利上げのペースを加速させる用意があるとするFRB議長の発言について解説した。
FRBパウエル議長が「利上げのペースを加速させる用意がある」と議会証言
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3月7日、米連邦議会上院での議会証言に臨んだ。パウエル議長は根強い物価上昇圧力をふまえ、今後の経済指標次第では「利上げのペースを加速させる用意がある」と述べた。
飯田)2023年1月の消費者物価指数の値、あるいは雇用統計の数字などが想定よりも強かった。それはそれで結構なことだと思うのですが。
高橋)景気過熱ですね。
予想以上に景気が強く、失業率が低下するアメリカ ~通常は4%
高橋)消費者物価の話だけをしてしまうのだけれど、一緒に失業率も見なくてはダメなのです。2022年12月は(アメリカの失業率が)3.5%でしたが、3.5%は低すぎるのです。2023年1月には3.4%になっていて驚きました。通常だと失業率は4%くらいです。
飯田)4%。
高橋)4%を少し切るくらいがいいのです。だから一時的に利上げし、失業率が少し上がって3.7%くらいになったのですが、逆に強くなってしまいました。要するに、予想以上に景気が強くて過熱している状態です。
インフレ率が高くなりそうだということで利上げのペースを加速する
高橋)ですから、失業率が少し下がるか下がらないかのレベルでずっと進むと思います。そうなるとインフレ率だけ高くなりそうなので、利上げのペースを加速させるという話です。勝手に利上げするわけではありません。過熱しているかどうかが大事です。
飯田)理由があるのですね。
高橋)過熱しているときは、雇用統計を見ているのです。雇用統計は少し遅れて出るというか、過去の数字なのですが、景気の動きを見ながら進める。過熱していると判断されれば、利上げしていくのです。あえて日本に例えて言うと、「失業率が2%を割っている」という感じです。
人手不足の状況 ~賃上げしなければならないので物価が上がる
飯田)アメリカの場合は、雇用慣行が日本とまったく違います。
高橋)アメリカの(失業率)3.5%は、日本のイメージだと1.5%という感じです。2%を少し割る。あり得ない数字ですし、人手不足で大変だというレベルになります。
飯田)職を求めている人は全員就職できるし、それだけでなく、人が足りなくて大変な状況。
高橋)人が足りず、求人が何倍にもなってしまうような感じです。
飯田)当然、そうなると賃上げしなければいけませんね。
高橋)猛烈に上がるというレベルです。
飯田)賃上げするということは、またコストが上がる。
高橋)また物価が上がるので、変なスパイラルに入ってしまうパターンになるかも知れない。それはやめようということで、利上げの話が出ているのです。
失業率3.4%という数字は約50年ぶり
高橋)日本では、雇用関係なく「利上げ」と言う人がいますが。
飯田)物価だけを見て、「これだけ上がっているから利上げしなくては」と。
高橋)物価ももちろん過熱状況の判断にはなりますが、より雇用を見るのです。そうすると、失業率が低すぎる。3.4%という数字は約50年ぶりと言われているので、「これはないだろう」という話です。
飯田)なるほど。
高橋)一時的かも知れないと思う反面、過熱しているのは間違いありません。
失業率が3.4%まで下がり、利上げのペースを上げることを考えなければならない
飯田)アメリカの中央銀行にあたるFRBですが、前回の政策決定会合では利上げペースを少し緩め、それまで0.5%の利上げだったものを0.25%にしました。しかし、また戻して0.5%にするのでしょうか。
高橋)わからないですね。そのときは、確か失業率3.7%くらいだったと思うのですが。
飯田)1月末くらいでしょうか。
高橋)いちばんいい状況に近いのかなと思います。社会科学の場合は精密科学ではありませんので、ぴったりこの数字というわけではなく、幅がありますが。
飯田)そうですね。
高橋)いい状況でしたので、そこをキープしたい。景気過熱ではなく、いい状態をキープしたかったのでしょうが、さすがに失業率が3.4%までいくと、何とかしなければならないということです。
フィリップス曲線 ~物価が上がるほど失業率が下がる
飯田)高橋さんはかねてから指摘していますが、アメリカの場合はFRBの政策目標として、物価の安定および雇用の安定があるため、雇用を見るのだと。日本も本当は一緒のはずですよね。
高橋)どこの世界でも一緒です。「フィリップス曲線」があって、物価と雇用、失業率は裏腹の関係になっている。要するに、インフレ率と失業率がいつも裏腹の関係になっているので、インフレ率だけを見ることはないのです。どちらかと言うと、失業率の方を重視して見ます。
飯田)フィリップス曲線、フィリップスカーブとも言われますが、簡単に説明すれば、物価が上がるにつれて失業率は下がるということですね。
高橋)そうです。
飯田)グラフ上に点を打つと、そういう構造になっている。
失業率はある程度下がるとそれ以上下がらず、インフレ率だけ高くなる
高橋)ただ、失業率はある程度下になると、下がらなくなるのです。
飯田)失業率は。
高橋)それ以降はインフレ率だけ高くなってしまう。そういう状況になってはいけないので、引き締めを行うのです。これは基本中の基本です。
アメリカは失業率の下限の4%を切っているので引き締めなくてはならない ~日本はそこまでいっていない
飯田)そのポイントを、インフレ非加速的失業率と言います。頭文字を取って「NAIRU(ナイル)」と呼ばれますね。
高橋)英語で「Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment」と言われます。インフレを加速させない失業率の下限のことです。アメリカのNAIRUは4%を少し切るくらいですから、いまはNAIRU以下になっているはずです。そのため、インフレを加速させるという感じなのです。
飯田)だからこそ引き締めなくてはいけないという、全体のロジックが立ってくる。
高橋)こういうものは経済学の講義を行えば簡単なのですがね。
飯田)日本のNAIRUも、だいたいどのくらいかなと考える。
高橋)1%前半くらいです。だいたい日本はいま2.8%くらいであり、おまけに雇用調整助成金で数字は見かけ上少なくなっているのです。実際だと3%くらいでしょうか。そこまではなかなかいかないから、引き締めというのはいまの日本でする話ではありません。
飯田)本来であれば、あまり景気がよくないので、解雇されてしまうかも知れない人に対し、補助金として雇用調整助成金が入っている。
高橋)それで何とか止めておけるのです。いまは積極財政と金融緩和というのが、経済学のセオリーです。
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