放送法をめぐる行政文書「議論するべきは放送とは何なのかということ」 過去に問題となった自らのプロデュース番組を引き合いに鈴木哲夫が提言

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ジャーナリストの鈴木哲夫が3月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。総務省が公表した放送法をめぐる行政文書について解説した。

放送法をめぐる行政文書「議論するべきは放送とは何なのかということ」 過去に問題となった自らのプロデュース番組を引き合いに鈴木哲夫が提言

参院予算委で答弁する高市早苗経済安保相=2023年3月3日午前、参院第1委員会室 写真提供:産経新聞社

高市大臣、放送法めぐる行政文書について関与を全面否定

放送法が定める「政治的公平」の解釈をめぐる総務省の行政文書について、当時総務大臣だった高市経済安全保障担当大臣は3月8日の参議院予算委員会で、次のように述べた。

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高市経済安保担当大臣)放送法に関して、法解釈などにかかることについて安倍総理と電話でお話ししたことはございません。ありもしないことをあったかのようにつくることを捏造と言うのではないでしょうか。その意味では、ありもしないことだったものですから、私は捏造という少し強い言葉を使ったかも知れませんが、これが事実であれば、私は責任を取ります。しかし、これは事実ではありませんから。

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飯田)小西洋之議員の質問に対する答弁でしたが、最近はこの話題で持ちきりですね。

鈴木)少なくとも、いままでの流れで言うと、これはきちんとした行政文書です。行政文書とは、各役所がその後の政策を検証するためにも必要になるので、しっかりと残す文書のことです。

飯田)行政文書とは。

鈴木)通常、そこにデタラメなことは書かれていないはずですが、高市さんからすると、「私はやっていないのに書かれているのはおかしい」と。文書の真偽の部分がポイントになっています。

飯田)そうですね。

鈴木)いま総務省が精査しているところです。高市さんが「事実であれば責任を取る」と言ってしまったこともあり、注目されています。

当時の放送に権力が介入してきたことが大きな問題

鈴木)この問題の本質は、事実かどうかとか、高市さんが嘘をついているのかどうかではなく、この文書には「当時の放送に権力が介入してきた」ということが書かれているのです。その問題が最も大きいと思います。

飯田)放送に権力が介入してきたと書かれている。

鈴木)放送と政治について、安倍政権の時期に官邸が介入し、「放送はコントロールするべきだ」と言ってきた。また、そのような流れが一時期できた。この問題をもう一度みんなでしっかりと考えるべきなのです。

飯田)放送と政治について。

鈴木)飯田さんも放送側にいますよね。私もメディアで仕事をさせてもらっている以上、放送とは何か、報道とは何か、放送の自由とは何かを考えたり、その信念を私たちは持っているではないですか。

飯田)持っていますね。

鈴木)時の権力がそのときどきで、「これを放送してはダメだ」と介入するのはおかしい。それをしっかりと検証し、「もう1度、基本を考えよう」ということがポイントだと思います。78ページの行政文書ですが、飯田さんは読まれましたか?

飯田)読みました。過去の事例もいろいろと出てくるのですよね。

鈴木)出てきますよね。当時の磯崎元総理補佐官によると、TBSの日曜朝の番組は偏っているとされています。

飯田)あるいは当時、平日夜10時ごろから放送されていたテレビ朝日のニュース番組なども。

鈴木)それらが偏っていて、政権批判ばかり並べているではないかと。番組のなかでも公平性を取らなければダメだと言っています。

鈴木氏がプロデュースした2011年のBS11の番組の事例

鈴木)その事例の1つに、BS11(イレブン)という放送局のある番組も偏っていて、過去にBPO(放送倫理・番組向上機構)で問題になりました。その番組は、実は私がプロデューサーだったのです。

飯田)そうだったのですね。事例に出ていたのは本当に大昔ですが、椿事件などいろいろなものが出ていて、確かにBS11も入っていました。

鈴木)当時、自民党は野党でした。そのため、番組でも自民党がほとんど取り上げられない。私は常に政権の反対側にいるタイプなので、それはおかしいと常に思っていました。

飯田)当時、自民党は野党第1党でしたから。

自民党の参議院議員だけが出る30分の番組を制作 ~視聴者は政策をきちんと聞きたい

鈴木)自民党としては、自分たちの政策をもっとしっかり訴えたい。「わかった、ではやろう」ということで、私は30分の番組をつくりました。この番組には自民党だけしか出ていません。自民党の参議院議員だけが政策を主張する番組でした。

飯田)自民党議員だけが出る番組。

鈴木)司会も山本一太さんと丸川珠代さんでした。私が思っていたのは、視聴者は政策などをきちんと聞きたいだろうということです。それを30分の番組のなかで、すべての政党を出してバランスよく喋っていたら、一政党につき、せいぜい2~3分程度になってしまいます。それで一体何がわかるのでしょうか? そのため、30分すべてを自民党にしたのです。

放送法をめぐる行政文書「議論するべきは放送とは何なのかということ」 過去に問題となった自らのプロデュース番組を引き合いに鈴木哲夫が提言

※画像はイメージです

公平性を考え1週間のなかで自民党、民主党、公明党、共産党もそれぞれ30分の番組を制作 ~それが放送倫理に違反しているとBPOに引っかかる

鈴木)しかし、1週間という単位で考えて、そのなかで自民党の30分があるようにしました。民主党(当時)も30分、公明党も30分、共産党も30分と、みんなが喋ることができ、「しっかり政策を聞こう」という公平性を考えて番組をつくっていたのです。しかし、それがBPOに引っかかってしまった。そのために聞き取り調査がたくさんあって、最終的に放送倫理に違反しているという結論を出されてしまいました。

政党が何を訴えているのかを理解するには30分の枠が必要 ~1週間のなかで各政党も同じように放送することで政治的公平性は担保できる

鈴木)磯崎さんに責められたのです。あのような番組をつくってはダメだ、偏っていると。しかし、私は偏っていてもいいと思っていました。そうでなければ、視聴者は自民党が本当に何を訴えているのかわかりません。同じように、自民党の番組だけで終わるのではなく、1週間のなかで他の政党も同じだけの時間を取って番組をつくる。それを目指していたのです。BS11の局もそれでいこうということで、新しいことをやろうという思いがありました。

飯田)これなら政治的公平性も担保できると。

「違反だ」としたが、評価し、「今後も視聴者のためにチャレンジして欲しい」と意見を付けたBPO

鈴木)そしてBPOに引っかかってしまい、やはりダメだとなった。「一番組できちんとバランスを取れ。これは違反だ」と言われました。しかし、BPOの意見書の最後に「終わりに」と書いてあって、「確かにこれは違反だという結論を我々は出したけれども、政治的な公平性をこのような形で担保しようとしたのは評価していいことである。政治番組をどのようにつくっていくのか、視聴者のためにもぜひいろいろとチャレンジして欲しい」と、BPOは最後に意見を付けてくれました。言葉は悪いですが、私はそのとき「勝った」と思いました。

飯田)その部分は、完全に主張を認められているではないかと。

公平性は局が決めること ~それぞれの局が公平になるようバランスを取り、勇気を持って自分たちの番組をつくるべき

鈴木)公平性というのは、それぞれの局が勇気を持って進めなければいけません。日本の放送局は認可制なので国の縛りはありますが、「このような番組をつくるのだ」という公平性は局自身が決めることですし、1週間のなかでバランスを取るという方法もありだと思うのです。

飯田)そうですよね。

鈴木)放送局がしっかりと覚悟を持って、今後も取り組まなければいけないということが、今回の問題の本質ではないかと思います。飯田さんの番組でもバランスを取っていますか?

飯田)1日の放送、あるいは1つのコーナーを切り取られたら、バランスを取っているかと言うと、そうではない場合もあるかも知れません。

1週間のなかで公平性のバランスを取ればいいのではないか ~そこに介入してきたのが当時の官邸だった

鈴木)しかし、別の曜日にまったく意見の違う人をゲストとして出し、その人にも徹底的に深掘りして、きちんとバランスを取っていく。それの何が悪いのでしょうか? 私はそのようなやり方は正しいと思います。しかし、それはダメだと言ってきたのが、当時の安倍政権、官邸でした。

飯田)しかし、官邸のなかでも山田秘書官などの名前が出ていましたが、「政府がこのようなことを言ってはまずいのではないか」というような意見も出ていました。

鈴木)そうです。

飯田)また、1つの番組だけではなく、全体で見て欲しいという意見が主旨なのだということは、当時の総務官僚の方々も死守しようとしていました。実際問題として解釈変更ではなく、補助的説明ということになっていたので、踏みとどまったことにもなったのかどうか。

鈴木)高市さんは当時、一番組でも極端な例は気を付けなければ、という答弁をしているのです。今回の高市さんの件が捏造かどうか、議員を辞めるのかどうかということも大事だとは思いますが、本質的に大切なのは、放送とは何なのかということです。

アメリカには第三の独立機関がある ~日本は国が認可して局もそちらを気にする関係になってしまっている

鈴木)アメリカなどは、基本的に第三者の独立機関がありますが、日本の場合は完全に国が認可して、何となく局側もそちら側を気にしてしまう関係になってしまっています。そのような状態で、いい番組などつくれないではないですか。

放送法とは何なのか、国はどこまで介入していいのか、放送の自由とは何なのかを整理する機会にするべき

鈴木)放送法とは何なのか、局側が番組をつくるときの覚悟や思いは何なのか。そして国はどこまで介入していいのか、あるいは放送の自由があるのだから介入してはいけないのか。これらを整理する機会にしないといけないと思います。

飯田)おっしゃる通りですね。特に政治的公平性を突き詰めていくと、選挙の直前に各党同じ時間ごと、2分であれば2分で、10政党があったら20分で1コーナーがすべて潰れてしまうようなことになってしまう。

鈴木)さらに酷い場合は、全員30秒のバストショットで「いいところだけを言う」というような。それはもう広報ですよね。番組とは言えません。

アメリカでは撤廃されている放送法第4条

飯田)それで論点の深掘りができるのかと言うと、「できないよね」という話になってくる。そのようなところにこだわって、全体として政治マターに触れる番組は少なくなってしまい、時間も短くなってしまった。とかく批判されるBPOも2016年の参院選のあとに、「これはいちばんまずいことなのではないか」という問題提起をしています。1つの番組やコーナー内の公平性ではなく、全体で見ましょうという意見も出てきていますよね。

鈴木)BPOは私に対して、「終わりに」の部分で「頑張れ」と言ってくれた。そこにBPOの良識も私は見ました。それらを整理する機会にしなければいけません。

飯田)これを武器としてしまうのは……政治の世界は闘争なので、どうしてもそうなるのかも知れませんが、我々には別の論点を提示することも必要かも知れません。

鈴木)私はそうあるべきだと思います。

飯田)もしかすると、そのなかには放送法4条の「政治的公平性はアメリカではもう取っ払っているのだからいいだろう」と思う人も出てくるかも知れない。

鈴木)それも議論すればいいし、きっかけにしなければいけません。

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