サウジとイランが「国交正常化」しても「友好国」になったわけではない

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。対面で行うことで一致したサウジアラビアとイランの外相会談について解説した。

サウジとイランが「国交正常化」しても「友好国」になったわけではない

北京でイラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長(右)と握手する中国の王毅・共産党政治局員(中央)、同席したサウジアラビアのアイバーン国務相[イランメディア提供](中国・北京)=2023年3月9日 AFP=時事 写真提供:時事通信

断交中のサウジアラビアとイランが近く外相会談へ

サウジアラビアのファイサル外相とイランのアブドラヒアン外相が電話で協議し、対面での会談を近いうちに実施することで一致した。2016年に断交したサウジとイランは、3月に中国の仲介で7年ぶりに外交関係を修復すると発表していた。

外交関係を正常化したからと言って、友好国になったわけではない

宮家)誤解が多いのですが、人間でいえば口もきかなかった2人が、ようやく口をきいただけの話なのですよ。外交関係を正常化したからと言って、別に友好国になったわけではありません。

飯田)違うのですか?

宮家)敵国のままです。

飯田)劇的に仲がよくなったような感じもしますが。

宮家)まったくそうは思いません。正常化というのは「口をきく」だけの話です。男女に例えれば、これまでは「口もききたくなかった」のが、今は「お話しはする」というだけであって、デートでどこかへ一緒に食べに行ったりするわけではないのです。

飯田)友好関係ではない。

宮家)勘違いしないでください。これが第1点。

中東に対するアメリカの関心が「中国抑止」に移ってしまった

宮家)第2に、「どこが中国の仲介なのだ?」と思います。中国が努力し、北京で合意が成立したのは事実かも知れません。しかし、それは大したことではありません。なぜいま正常化できたかと言うと、まず世界の趨勢として、アメリカの中東に対する関心が下がった。

飯田)アメリカの中東に対する関心が。

宮家)でも米軍は今も湾岸にずっといますから、アメリカのプレゼンスはあるのですよ。ただ、関心は低くなった。中国抑止に関心が移っているわけです。

アメリカの関心がなくなり、サウジアラビアもイランも争っている場合ではなくなった

宮家)中東諸国にすれば、「アメリカはもう守ってくれないのか?」と思い、自分が「生き延びていくにはどうすればいいか」を考えるわけです。イランの場合はそもそもアメリカと大喧嘩しています。核合意を結んで、経済制裁を解除して何とかしようとしている矢先に、トランプ前大統領が合意を破棄してしまった。それが未だに回復していないでしょう。

飯田)そうですね。

宮家)経済的に厳しく、イランの通貨も価値が下がっているのです。サウジはどうかと言うと、いろいろな理由があるのですけれども、バイデンさんとムハンマド皇太子はいまや犬猿の仲ですね。

飯田)バイデン大統領とムハンマド皇太子は。

宮家)またサウジはイエメン内戦に(アラブ有志連合を率いて)手を出したでしょう。相手はイランに支援された人々ですから、イランと代理戦争をやっているわけです。でも戦争はお金が掛かるし、解決の目途がない。しかも、ムハンマド皇太子はサウジを石油依存から脱却させたいと思っていて、国内の経済改革を進めたいわけです。

何年も前からイラクやオマーンなどの国々が仲介の努力をして両国の話し合いは進んでいた ~最後の段階でおいしいところをさらった中国

宮家)そんなときに、イランと口もきかずに争っていてどうするのかと。小休止しなければいけないということで、実は何年も前から話し合いの動きはあったのです。

飯田)そうなのですね。

宮家)イラクやオマーンなどの国々が仲介の努力をして、話し合いは進んでいたと聞いています。ですから、中国がゼロから両国関係を正常化させて、友好国にしたわけでは全くありません。最後の最後の段階でおいしいところだけをさらっていったのです。

飯田)トンビが油揚げをさらうように。

宮家)中国の仲介努力を過大評価するのはいかがなものかと思います。さらに言えば、サウジアラビアとイランの関係と、ロシアとウクライナでは、状況がまったく違うではないですか。ロシアとウクライナはまだ戦争中なのですから。

苦渋の選択をしたサウジアラビア

宮家)中東の成功とウクライナ情勢を一緒にしてはいけません。もちろんサウジアラビアとイランの関係はよくなって欲しいです。あの地域が安定するためには必要ですから。

飯田)中東が安定するためには。

宮家)しかし、本当に戦争になったら、サウジはひとたまりもありません。アメリカの支援なしにあの国を守れるわけがないので、その意味では今回、サウジは苦渋の選択をしたのでしょうね。

アメリカが守ってくれないのであればと、イスラエルに保険を掛ける湾岸諸国 ~それが「アブラハム合意」

飯田)サウジとイランが口をきくようになった状況を、イスラエルはどう見ているのですか?

宮家)サウジもそうですが、アラブ首長国連邦(UAE)などの湾岸諸国は、基本的にアメリカが守ってくれなくなった場合に備えて、保険を掛けなければなりません。

飯田)アメリカが守ってくれないのであれば。

宮家)いままではイスラエルに保険を掛けるなど、あり得なかった選択でした。でも、いまやイスラエルに保険を掛けている。それが「アブラハム合意」です。

飯田)なるほど。

宮家)アブラハム合意ができたときに、「湾岸諸国はイスラエルと経済関係を深めて儲けようとしているのだ」と言う人がいたけれど、それは違います。湾岸諸国にとってイスラエルは、安全保障に関する保険なのです。

飯田)軍事力に関してですか?

宮家)いまは経済関係だけではなく、共同訓練や情報交換をしています。なぜかと言うと、パレスチナ問題が進展しないからです。ハマスとPLOに分かれてしまって、どうにもならない。

飯田)パレスチナ問題が進展しない。

宮家)「私たちにはイランという恐ろしい相手が隣にいるのだ。いままでパレスチナ人を支援してきたけれど、パレスチナ問題は解決しないではないか。それなら自分たちで問題を解決しろよ」と。

飯田)仲間内で分裂しているではないかと。

宮家)それなら、こっちだって「イスラエルと協力したいことがあるのだ」という方向からできたのが、イスラエルと湾岸諸国等のアブラハム合意です。

中東諸国がいろいろと模索している1つの動きが「サウジアラビアとイランの外交関係正常化」

宮家)その意味でも、サウジとイランの関係が動いているのはいいことですが、一気に「和解や安定に向かうか」と言われれば、それはまだまだこれからです。

飯田)中東にはアメリカの影響力があり、中国が取って代わろうとするイメージで語られることが多いですが。

宮家)それも間違いではありませんが、アメリカが抜けて真空ができても、そこに中国が入ってこられるかどうか……中東諸国がいろいろ模索しているうちの1つの動きが、サウジとイランの正常化、修復なのです。それ以上でも以下でもありません。

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