地政学・戦略学者の奥山真司が3月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。プーチン大統領が発表したベラルーシへの戦術核兵器の配備方針について解説した。
ロシアのベラルーシへの戦術核兵器の配備計画をめぐり、アメリカの戦争研究所が「情報戦の一環」と分析
ロシアのプーチン大統領は3月25日、国営テレビのインタビューで隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領の要望を受け、戦術核の配備で合意したと発表した。これを受け、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ウクライナの士気や欧米の支援を衰えさせる「情報戦」の一環だと分析。またロシアが核兵器を使用する可能性は極めて低いと指摘した。
飯田)米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、ロシアが核を使用する兆候は見られないと指摘しています。
奥山)おそらく脅しとして、ベラルーシに核を置くことはいいだろうとロシアが判断したのではないでしょうか。ロシアがベラルーシに核を置くということ自体、嫌な情報ですね。
2016年、オバマ政権が行ったシミュレーション ~ロシアがバルト三国へ侵攻
奥山)2016年夏、当時のオバマ政権がいろいろなウォーゲーミングをしていました。「ロシアが核を使ってきたらどうなるだろう」というようなシミュレーションをしていたのです。
飯田)当時のオバマ政権が。
奥山)フレッド・カプランさんが2020年に『The Bomb』という、核兵器に関する暴露的な話を掲載している本を出しています。
飯田)フレッド・カプランさんが。
奥山)実際のところ、ロシアはウクライナを侵攻していますが、2016年夏にオバマ政権のなかでシミュレーションが行われました。ロシアがバルト三国を侵攻し、それをNATOが通常兵器で食い止めたあと、もしロシアが小型の核兵器をドイツ辺りに使ったらどうなるかというものです。
飯田)ウクライナとバルト三国の違いは、NATO加盟国かどうかということくらいですね。
奥山)当時はクリントンさんが国務長官だったのですが、現在の国務長官であるブリンケンさんがクリントン役になり、シミュレーションを行ったのです。
シミュレーションではロシアが核兵器を使い、その報復としてベラルーシに核を落とす
奥山)その結果、ロシアに核兵器を使われたら、アメリカ側は通常兵器で報復しようという案が出たのですが、「それでは生ぬるいだろう」という話になった。「アメリカも核兵器を落とさなければいけない」という恐ろしい方向になったのです。
飯田)行動には行動で返さざるを得ないと。
奥山)そういうことですね。最初はロシアの飛び地であるカリーニングラードに落とすという話が出ましたが、カリーニングラードに落とすとロシアの本土になってしまうので、ベラルーシに落とそうということになった。
ロシアにとっての同盟国的な国であるベラルーシに核を落とす ~ロシアへの心的なダメージは大きい
奥山)ベラルーシはロシアとの中間にあり、ロシア側にもついているので、ロシア側もアメリカ側も核兵器を使いやすいのです。ロシアは今回、そこに核を置くということです。
飯田)アメリカ側のロジックからすると、自分たちの本土には落とされていないけれども、自分たちの同盟国に落とされていることになる。ではロシアにとっての同盟的な国はどこだと探したときに……。
奥山)ベラルーシではないですか。ベラルーシに落とすと、ロシアにとっても本土に落とされたわけではないので、とてつもないインパクトにはならないけれど、自分のすぐ横に落とされる状況になると心的には大きいですよね。
飯田)そうですね。
奥山)そこで「ベラルーシに落とそう」と落ち着いたという、恐ろしいエピソードがあります。今回、プーチン大統領が「ベラルーシに核を置く」と言ったときに、このエピソードを知っている学者たちのなかには、「ベラルーシにきたか」という感想を持っている人は多いと思います。
相手のエスカレートを抑えるためにこちらが先にエスカレートしてしまう
飯田)「その次を使わせないために」という議論のなかでウォーゲームを行ったのですか?
奥山)その通りです。英語では“escalate to de-escalate”と言いますが、相手のエスカレートを抑えるために、こちらが先にエスカレートさせてしまうということです。「こちらが先にキレてしまえば、向こうはそれ以上キレないだろう」という考え方です。
飯田)先に「お前! 表へ出ろ」となって出ると、相手は「まあ待て、落ち着け」となるだろうということですね。
奥山)それをロシアに対して行うのです。
飯田)ただ、もし相手も「なら出ていこうか」となった場合は……。
奥山)核兵器を使った第三次世界大戦になってしまうかも知れません。
このシミュレーションのエピソードを知っていればベラルーシ側から要望はしない
飯田)最終的なゴールが破滅に向かってしまうから、「どこかで止まる」ということですね。
奥山)それが抑止論の中核にあります。しかし、このようなシナリオが既にあるので、今回のベラルーシの話を聞いたときに「まずいな」と思いました。
飯田)ベラルーシに核を置くということが。
奥山)ロシア側も「そのエピソードをわかっていて言ったのだろうか」など、いろいろと考えをめぐらせてしまいましたが、いずれにせよ世界秩序に対して、いいニュースではありません。
飯田)報道では「ルカシェンコ大統領の要望を受けて」と言っていますが、本当ですか?
奥山)わからないですね。ロシアから出てくる情報は、誰が真実を言っているのかわからないし、ロシア側も出てくる情報の一貫性を考慮していません。「嘘をついていると思われても構わない」というのがロシア側の姿勢ですから、そこが怖いところでもあります。
飯田)そういうエピソードも、内部の人たちは知っているでしょうね。そうするとベラルーシ側から要望はしないと思いますが。
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