「ウクライナと同じ状況になったら」日本はどうすればいいのか
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地政学・戦略学者の奥山真司が3月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本の継戦能力について解説した。
防衛力の強化や少子化対策などを盛り込んだ「2023年度予算案」成立へ
防衛力の強化や少子化対策、物価高騰対策などを盛り込んだ2023年度予算案は3月28日の参議院本会議で、賛成多数で可決・成立する見通し。予算は一般会計の歳出総額が114兆3812億円で、11年連続で過去最大を更新する。
飯田)野党側は予算成立後も引き続き、総務省の行政文書問題で高市大臣を追及する方針です。後半戦は高市さんの問題ばかりになりましたが、そもそもは防衛費の話なども出ていました。
日本の防衛費増額は海外からも注目されている ~予算増額が防衛力強化につながるのかどうかは議論する必要がある
奥山)防衛力強化をめぐる防衛費のGDP比2%への増額は、海外からも注目されています。日本は基本的に「やる」と言えばやる。今回は「防衛費をGDP比2%へ増額します」と発表しましたが、「発表したことは実質的にやってきた」という信頼性が高いのです。
飯田)海外から見ると。
奥山)ロシアとは正反対で、日本は本気でやるのだろうと思われています。アメリカ側にも期待されているので、すみやかに効果的な防衛力の強化につなげていただきたいと思います。しかし、配分をどうするかで必ず揉めます。
飯田)装備品を新しくするとなると、使う人間の話もあるし、いろいろなところに予算をつけなければいけない。
奥山)どう効果的に分配するかという点で、お金の額は増えても、そもそも人員はそれほどいませんし、入ってくれるのかどうか。予算額が増えたからと言って、それがすぐに防衛力強化につながるかどうかは、これから議論しなくてはいけないと思います。
飯田)予算における前半戦の議論のなかでは、いわゆる敵基地攻撃能力、政府は「反撃能力」と表現していますが、射程の長い巡航ミサイルや極超音速ミサイルなど、一部弾道ミサイルを配備すべきではないかという議論もありました。
日本に「継戦能力」があるのか ~長期戦を戦うための弾薬はあるのか
奥山)我々が議論しなくてはいけないのは、戦い方のなかにドクトリンのような形で落とし込めるかどうかです。
飯田)戦い方。
奥山)結局、技術や作戦については防衛省の方々と話すのですが、最終的に重要になることは、「長期にわたって戦うことができるか」という「継戦能力」です。私が1月に参加した米戦略国際問題研究所(CSIS)で行われていたような、ウォーゲーミングがあります。
飯田)アメリカのシンクタンクがやっていた。
奥山)そうですね。私も同じようなフォーマットで参加させていただきましたが、あのようなウォーゲームは最初の1週間~2週間、長くても1ヵ月~2ヵ月ぐらいのスパンの戦いしか想定していないのです。ところが、いまウクライナで行われている戦いは、当然ですが長期戦ですよね。
飯田)1年以上が経過しました。最初のクリミア侵攻から考えると、8年ではないかということも言えます。
「長期戦のことは考えたくない」というのが日本の本音
奥山)そう考えると、我々は本当に長期を戦うだけの覚悟があるのかを問われます。また、先ほど「継戦能力」と言いましたが、長期で戦うための弾薬はあるのかどうかなど。
飯田)そうですよね。
奥山)本当は政治家が向き合わなければいけない問題なのですが、国民的議論にはならない傾向があります。最初の「武器の話だけしてお茶を濁してしまおう」というところが我々にもあるし、「長期戦は考えたくないよね」というのが正直なところだと思います。
日本の社会システムは「平和で戦争が起こらない」前提 ~そこをどう考えるかの議論がない
飯田)確かに弾薬についても、そもそも論として「足りていない」のが公然の秘密のような状況でしたが、もはや表に出てきて、去年(2022年)の秋口くらいから議論になりました。しかし最近、それもさた止みになっています。
奥山)一応、倉庫や格納庫を強化する話は出ましたけれど、肝心な部分は「長期戦になったらどうなるのか」というところです。
飯田)長期戦になった場合どうするのか。
奥山)そうなれば、社会や国民が支えなくてはいけないのです。我々の社会システムは基本的に「平和で戦争が起こらない」という前提なので、そこをどう考えていくのかという議論が進まないのは、もどかしい部分ではあります。
飯田)そうですね。
奥山)「戦争を考えたくない」という気持ちはわかるのですが、いまのウクライナの状況を見れば、(もし同じ状況になったら)我々も長期戦を戦わなければならない。それに対して、社会はどこまで準備できているのか。
飯田)日本が。
奥山)防衛省だけではなく、「社会の全体的な問題として考えなくてはいけない」というところに「目を向けたくない」という、社会的な雰囲気を感じます。
「国家総動員しなくてはならない事態」で物事が動いているウクライナ ~「戦争になったらどうするか」を避けて議論しない日本・台湾
飯田)アメリカでは、有事の際に物資や人員を注ぎ込めるシステム、あるいは法律が事前に準備されていて、「どこを発動するのか」という話になります。しかし、日本ではコロナの例でもよくわかりますけれど、そういう想定で準備できているかと言うと、場当たり的になってしまうかも知れない。
奥山)コロナの場合はある程度、死者も出ましたけれど、全世界的には柔軟に対応できたところもあると思います。しかし、「いざ戦争」となったときにどうなるのかは、ウクライナの現実を直視できないような、議論さえできないようなところがあります。
飯田)議論するとなると、おそらく「かつての国家総動員法ではないか」というような議論になってしまう。
奥山)でも、ウクライナでは実際に「国家総動員しなくてはならない事態」で物事が動いていますし、我々もそういうところは考えなければいけません。
飯田)ウクライナのように。
奥山)台湾にも同じようなことが言えると思います。彼らも一応、演習のようなものは行いますが、「本当に戦争になったらどうするのか」というところは避けて議論しない。台湾も日本もそういうところがあるのではないでしょうか。
飯田)台湾も日本も。
奥山)本来であれば、メディアが率先して「いざとなったらどうする」と考えなくてはいけないのかも知れませんが、先陣を切るメディアもないし、政治家もいない。「大丈夫なのか?」と、常に戦略を考える身としては心配しております。
飯田)そうですよね。ウォーゲームなどを行うと事態認定に時間が掛かって、「これが攻撃なのかどうか」というようなところだけで終わってしまう。
奥山)沖縄県などで初めて(住民を)避難させるような図上訓練を行ったというニュースがありました。やはり、行政の方から意識を変えていかなければならないのかなと思います。問われているのは政治力だと思います。
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