あらゆる独裁国家に「ネットへの監視技術」を提供する中国の「狙い」
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エコノミストで複眼経済塾塾頭のエミン・ユルマズが3月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。オンライン形式で開催された第2回「民主主義サミット」について解説した。
「民主主義サミット」開幕、アメリカが6.9億ドル拠出を表明
アメリカのバイデン政権が主導し、約120ヵ国・地域の首脳らが民主主義の強化についてオンライン形式で議論する第2回「民主主義サミット」が、3月29日に開幕した。バイデン大統領は世界の民主主義の強化に向け、新たに6億9000万ドル(約900億円)を拠出する計画を発表した。アメリカは、権威主義と位置付ける中国やロシアに対抗するため、アフリカなどで民主主義を重視する勢力の拡大を狙う方針。
飯田)日本からは岸田総理が参加し、ウクライナのゼレンスキー大統領や、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏らが招待されています。中露に対抗する集まりということですね。
新冷戦である「民主主義」対「権威主義」 ~ウクライナ戦争をきっかけにスタート
ユルマズ)これは新冷戦ですね。旧冷戦は「民主主義・自由主義圏」と「共産主義圏」の対立でしたが、今回は「民主主義」対「権威主義」の対立で軸が固まってきています。
飯田)「民主主義」対「権威主義」。
ユルマズ)経済的なブロック化を含め、世界が2つのブロックに分かれていくという流れで、いまがスタート地点……スタートからは少し過ぎていますけれど。
飯田)いまが。
ユルマズ)旧冷戦の本格的なスタートのきっかけが朝鮮戦争だったように、今回はウクライナ戦争が本格的なスタートのきっかけになっています。
あらゆる独裁国家にネットを監視するツールや技術を提供する中国 ~旧ソビエトと同様のことをやろうとしている
ユルマズ)昨日(29日)、報道がありましたが、中国のサイバーチームがロシアを訪れているようです。YouTubeを完全にブロックするために、ロシアに技術提供するということです。
飯田)中国はネット上の万里の長城、「グレート・ファイアウォール」などと言われていますが、外からのネットを遮断しています。それを中国だけではなく、グループで行う。
ユルマズ)そういうことです。トルコのエルドアン政権に対しても、ネットを監視するツールや技術を提供する契約を結んでいます。また、あらゆる独裁国家に中国が技術力を提供するため専門家を送っています。
飯田)独裁国家に。
ユルマズ)中国は旧ソビエトと同じようなことをやろうとしているのです。民主主義国家と権威主義国家の対立が明らかになってきています。
初期の新型コロナ感染を抑えたことがプロパガンダになった中国 ~欧米よりも中国の統治モデルの方が優れている
飯田)かつての冷戦はある意味、イデオロギーをめぐる部分が大きかったですが、今回の場合は統治体制などが関わる。
ユルマズ)そうですね。パンデミック初期はある意味、中国にとってはいいプロパガンダになったと思います。
飯田)コロナ禍が。
ユルマズ)パンデミックによって、欧米諸国は大きな被害が出て死者数も多かった。しかし、(ゼロコロナで感染者を抑えていたので)中国は自国民も含め、全世界に「私たちのシステム、統治モデルの方が優れていて効率的だ」とアピールしていたのです。
飯田)中国のゼロコロナ政策が。
ユルマズ)ただ、直近になってそれがワークしなくなったため、結局はゼロコロナを終了せざるを得なくなってしまったけれど、いろいろなものをプロパガンダに使っています。
どちらにつくかまだ決まっていない国にアプローチする米中
飯田)今回、民主主義サミットにアフリカ諸国なども招待されています。これから先は、グローバルサウスと言われるような国を「どちらが引き込むか」という話ですか?
ユルマズ)そうですね。特にアフリカの場合は、中国が港を買収したり、技術提供したりしています。その意味では、やっと日本とアメリカが少しアフリカに重点を置き始めた。つまり、まだどちら側にもついていない国を味方にしようという動きが出ているのです。
飯田)アメリカもブリンケン国務長官やイエレン財務長官、ハリス副大統領がアフリカを訪れ、帰ってきたかどうかぐらいのタイミングです。要人が歴訪しているのも、その流れの一環ですか?
ユルマズ)まさにその通りです。既にサイドが決まっている国に外交努力をしても効率的ではないので、まだどちら側につくかわからない国に対して、両側のアプローチが続いていくのではないでしょうか。
飯田)まだはっきりしていない国に対して。
ユルマズ)同時に習近平さんもいろいろなところに行っています。サウジアラビアに行き、ロシアに行き、中央アジアを訪問しました。今後さらに活動を活発化させるでしょう。そのなかで対立構造が深まっていく、そんな世界に入ったのだと思います。
インドが簡単に西側につくことはない ~複雑な南アジアの地政学
飯田)かつての冷戦でも、どちらにも与しない国を第三世界と言いました。インドなどがその典型でしたが、今回はいかがですか?
ユルマズ)インドは、当初は西側諸国につくと思われていましたが、ウクライナ戦争でははっきりとしたスタンスを示していません。再び、かつての第三世界のような構想を描いている可能性も十分あります。
飯田)インドは。
ユルマズ)しかし、インドはエネルギー資源がないので、エネルギーや天然ガスはロシアなどの独裁国家に依存しているのです。
飯田)そうですね。
ユルマズ)中国とは対立しているものの、使っている軍事機器もほとんどロシアのものを使っています。一方、パキスタンは中国の支援を受けているものの、使っている軍事機器はアメリカのものです。
飯田)冷戦からの、ねじれのようなものが続いている。
ユルマズ)あの辺りの地政学は複雑で、理解するのが難しいのです。 また、パキスタンにはタリバンがありますが、タリバンを構成するのはパシュトゥーン人です。パキスタン北部はパシュトゥーン人が多いので、その辺りも気を付けなければならない。
飯田)パキスタンも。
ユルマズ)いろいろな意味で、南アジアの地政学は極めて複雑だと思った方がいいです。そういう意味でも、そう簡単にインドが西側諸国につくことはありません。それが今回のウクライナ戦争ではっきりしました。
どちらにもつきたくないインドの気持ち
飯田)ビジネス面で考えても、中国がこうなった以上、次に人口が多くなる予測もあって「希望の星はインドなのだ」と日本でも報じられますが、そう簡単ではない。
ユルマズ)簡単ではありません。幸いなことにインドは民主主義国家なので、話しやすいとは思います。ただ、大きな文明圏でありプライドも高い。「どちら側にもつきたくない」というインドの気持ちもわかります。
中国と戦うアメリカの大義名分 ~権威主義陣営にないソフトパワー
飯田)他方で「民主主義」という冠をつけてしまうと、西側に近いけれども、統治機構が少し異なるベトナムやシンガポールなどは「離反してしまうのではないか」という指摘もあります。
ユルマズ)その可能性はあります。しかし、ある意味でイデオロギー軸に持っていかないと、アメリカには中国と戦う大義名分がなくなるのです。
飯田)アメリカの国内向けの部分もある。
ユルマズ)国内向けでもあるし、同盟国に対してもあります。
飯田)説得力が。
ユルマズ)説得力がなくなるのです。逆に中露を含め、権威主義陣営にいちばん足りないのは大義名分です。共産主義は、よくも悪くも大義名分がありましたが、いまの権威主義はただの独裁主義であり、人間を国家の力で抑えつけようという在り方なので、何の大義名分もない。当然ながら、大義名分がないとソフトパワーもないのです。
世界の人々が住みたいのはロシアでも中国でもなくアメリカ ~人は物語に惹かれる
ユルマズ)つまり、国としての魅力がない。世界の人々に「アメリカに住みたいか、中国に住みたいか、ロシアに住みたいか」と聞けば、普通はアメリカに行きたがるではないですか。
飯田)そうでしょうね。
ユルマズ)ソフトパワーとしての魅力がないことになりますので、イデオロギー軸では弱いのです。
飯田)お金ではなく、やはり物語の部分に惹かれるところがある。
ユルマズ)その通りです。権威主義陣営は、自分たちのなかではナショナリズムを煽っているけれども、いろいろな国をまとめるものではありません。
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