民主主義サミット宣言への支持国を増やすのは「日本の役割」

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元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が3月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。バイデン政権が第2回民主主義サミットで発表した「民主主義サミット宣言」について解説した。

民主主義サミット宣言への支持国を増やすのは「日本の役割」

2023年3月29日、サミットに出席する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/29democracy.html)

バイデン政権が発表した「民主主義サミット宣言」 ~支持は招待国の約6割にとどまる

アメリカのバイデン大統領が主催する第2回民主主義サミットは3月29日、各国首脳らによるオンライン演説などが行われた。バイデン政権は同日、民主主義の諸原則などを謳った「民主主義サミット宣言」を発表したが、招待を受けた約120ヵ国・地域のうち、支持を表明したのは6割ほどの73ヵ国・地域にとどまった。

飯田)ウクライナのゼレンスキー大統領などが演説を行いました。「民主主義サミット宣言」を支持したのが招待国の6割にとどまったことは、アメリカからすると複雑なのでしょうか?

松井)かつてから言われているように、ある意味では、民主主義は非効率な仕組みです。

飯田)民主主義は。

松井)しかし、それを上回るものがないなかで、権威主義であるロシアと中国がいる。それに対して包囲網をつくっていかなければならないという発想はいいと思います。

飯田)中露に対して。

松井)他方、グローバルサウスも含めた途上国がそこに本当に共感しているかと言うと、疑問が残ります。最近、台湾を認めていた中南米の国々が、オセロの白を黒に返すように中国の援助でひっくり返されている。中国マネーが途上国に浸透している部分もありますが、それだけではないと思うのです。

飯田)それだけではない。

西欧の価値観への途上国の反発 ~「本当に普遍的なのか」という疑問

松井)3月31日付の朝日新聞のオピニオン面で、佐伯啓思さんが「西欧の価値観は普遍的か」という文章を寄稿されています。

飯田)京大名誉教授の。

松井)トルコがフィンランドのNATO加盟を承認したというニュースがありました。トルコが慎重なのは、NATOに加盟しているのだから西側に入るのだけれど、ロシアの脅威もわかっているのです。トルコが日本を好きなのは、当時の列強の一角を占めるようなロシアに打ち勝ったというところです。アジアの国が。そういう感覚がトルコにはあるのでしょう。

飯田)トルコも当時、帝政ロシアに圧迫されていたわけですものね。

松井)当時のロシアといまのアメリカや英国をはじめとした西側とはまったく違うのですが、西欧の自由主義や民主主義の価値観が絶対なわけではない。それを当然のように語ることに対し、途上国の反発があるのです。佐伯啓思さんが書かれているのは、宗教的に言うとロシアの場合は正教……。

飯田)ロシア正教。

松井)ロシアの文学や音楽がありますが、カトリックやキリスト教の方々から見て「善だ」と言われる価値観に対し、ロシア正教という別のものがある。これは感覚的に「ちょっと相容れないな」というようなものだと思います。

飯田)ロシア正教には。

松井)「西欧の普遍的な真理」が本当に正しいかという考え方が、キリスト教国ではない国々についてもやはりあるのです。

飯田)キリスト教国ではない国には。

松井)絶対的に自分たちが正しく普遍的な真理であり、ロシア・中国がおかしいという主張に対して、一部の途上国などは「本当にそうなのか」と考える。確かにいまのロシアや中国がやっていることはおかしいと思うけれど、大きな顔をして西側が出てくると、それに対しては留保したい。インドもそうです。

飯田)「君たちだって植民地時代に酷いことをやっていたのに、何をご都合主義なことを言っているのだ」と。

松井)ロシアが戦術核をベラルーシに置くという話も、それはおかしいけれど、核保有国がそれを「100%おかしいと言うことができるのか」という感覚が世界のなかにはあるのではないでしょうか。そこが6割の支持にとどまる理由なのだと思います。西側先進国に対して。

飯田)引っかかるというか。

途上国との緩衝材になるのが日本の役割

松井)心のなかの精神的な反発のようなものが、途上国にあるのではないでしょうか。そういうところをほぐしていくのが日本の役割だと思います。だから、岸田さんが電撃訪問されたのはとてもよかったと思います。

飯田)ウクライナへ。

松井)いろいろな議論をする人がいたけれど、よかったと思います。我々は西欧の普遍的価値観を共有する1つの国です。しかし、歴史的ルーツや文化的ルーツは違います。そんな日本が途上国に対して「だけど」と言い、緩衝材になるような努力をするべきだと思います。

飯田)日本が緩衝材になって。

松井)基本的には中国・ロシア包囲網をつくらなければならないのですが、「民主主義サミット宣言」への支持が6割でとどまっているのを7割~8割にするために、日本が果たせる役割はあると思います。

「だけどね」ということをグローバルサウスの国々に伝えるのが岸田総理の役目

飯田)先日、ラーム・エマニュエル駐日米国大使の講演を聞きに行きました。アフリカや東南アジアなどのグローバルサウスの国々をどう取り込むかという質問がありましたが、「民主主義はこれだけ素晴らしいのです。中国がお金を流し込んだスリランカやパキスタンを見てください。結局は苦労しているではないですか。これだけ素晴らしいのだから、みんな寄ってきてくれるはずです」と言っていました。民主主義への絶対的な信頼のようなことを言うのですが、我々はやはり「それだけでは答えにならない」と思うのですよね。

松井)我々は違う文化圏の国として、民主主義を取り入れています。いいところもあるし、苦労するところもあります。「だけどね」というところを、我々がどう伝えるかが大事なのです。

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