「相続土地国庫帰属制度」が現実的ではない「地方の事情」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が4月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月27日からスタートする「相続土地国庫帰属制度」について解説した。

「相続土地国庫帰属制度」が現実的ではない「地方の事情」

※画像はイメージです

「相続土地国庫帰属制度」が4月27日からスタート

相続した土地を手放したいとき、その土地を国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」が4月27日から始まる。この制度が利用できる条件や手続き、費用はどうなっているのか。また、土地活用が進むことになるのか。

飯田)4月27日から「相続土地国庫帰属制度」がスタートします。実家を出て東京や都市にいる人が、地元の家を相続したけれど土地を利用する予定がないなどの場合、相続した土地の所有権を国に渡すことができる制度です。

細かい条件がいろいろあります。まず、いままでは土地だけを放棄することができなかった。一括で土地・家・株式などの財産を相続するか、全部を放棄するかの2択しかありませんでした。それを変えて、土地だけを国に返す。他の株式などの部分は相続できるようになります。

ただし条件があって、建物のある土地はダメです。それから担保権・使用収益権が設定されている土地や、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地も不可です。一定の勾配・高さの崖があって、管理に費用・労力がかかる土地も不可となっています。また相続ではなく、生前贈与の土地はいけないなど、いろいろと条件があります。

「相続土地国庫帰属制度」の条件に当てはめて国に返すことは難しい ~建物を壊すのに200万円掛かる

佐々木)この制度はつくらないよりもつくった方がいいと思いますが、条件に当てはめるのが難しいのです。いちばん問題なのは、建物が建っているとダメだということです。

飯田)建物があってはダメです。

佐々木)おじいちゃん、おばあちゃんが住んでいたけれど空いてしまったなどの理由で、田舎に空き家が多くあります。建物を取り壊さないと土地が売れないのだけれど、一戸建てを取り壊すのに大体200万円掛かるのです。

更地で年間十数万円掛かる固定資産税が、建物があれば年間2~3万円で済む

佐々木)そうすると家を持っておいた方が、固定資産税が安くなる。6分の1ぐらいに減るのです。

飯田)更地で持っているよりも。

佐々木)面積や場所にもよりますが、更地だと年間十数万円掛かるのが、2~3万円ぐらいになります。

飯田)固定資産税が。

佐々木)だから年間2~3万円払って、建物が建ったままの土地を放置しておくパターンが多いのです。

200万円支払って取り壊して国に返すより、そのままで年間2~3万円の固定資産税を払った方が安い

佐々木)しかし、建物がボロボロになってきて壊れる危険があるから、地元の人に文句を言われる。それも困りますよね。

飯田)クレームがついて。

佐々木)取り壊して国に返すとしても、取り壊すのに200万円必要なのです。200万円を払って国に返すまでに至るかどうか。月2~3万円の固定資産税を払えば済むと考えたら、200万円の金額とイコールになるのは100年ぐらいかかるではないですか。

飯田)そういうことになりますね。

佐々木)だったら、「そのまま放置すればいいや」と思う人が増えると思います。

実効性があまりない「空き家対策特別措置法」 ~空き家の所有者に指導や勧告ができる

飯田)空き家が著しく危険なものになったり、近隣からも苦情が来たりすれば行政が動く。

佐々木)「空き家対策特別措置法」という法律があり、行政代執行で取り壊し費用を本人に請求する動きが起きます。そうなると大変だけれど、実は空き家対策特別措置法が実施されたケースは少ないのです。

飯田)実施したことがニュースになるくらいですからね。

佐々木)どちらかと言うと見せしめにやっている感じです。あまり実効性がないので、問題の根本解決にはなっていない。難しいところだと思います。

地方では家を売りたいと思っても買い手がつかない

佐々木)空き家はものすごい勢いで増えています。先日、賃貸と分譲で生涯に掛かる金額はあまり変わらないという記事を紹介したら、持ち家の人たちから大きな反響がありました。「何を言っているのだ! 資産になるし、売れるのだからそんなことはない!」とみんな文句を言うのです。

飯田)買った方が得だと。

佐々木)買ってしまった人にとっては、「賃貸と変わらない」と言われると腹が立つようです。大きな買い物だから自分がやったことを正当化したいわけですよ。

飯田)そうでしょうね。

佐々木)東京都心や23区、あるいは大阪市内などのいい場所であれば、売れるし資産になります。でも地方の場合、私も福井に家を借りていますが、福井の人口1万人ほどの町に家を買って売れるかと言ったら、全然売れません。

飯田)地方では。

佐々木)首都圏でも23区ならともかく、多摩地区の奥の方や埼玉の先の方で、駅の近くならいいけれど、駅からさらにバスで10~15分の新興住宅街では買い手はつきません。

飯田)首都圏であっても。

佐々木)バブルのころは都心に家を建てられないから郊外に出て、勤め先まで1時間半~2時間で行けるところにたくさん新興住宅ができたのです。それらがいまは抜け殻のようになっています。

持っていれば固定資産税が掛かる ~完全に負の遺産

佐々木)売るに売れず、本当に50万円や100万円で中古の家が売りに出ていたりするくらいです。それでも買い手がつかない。

飯田)50万円でも。

佐々木)都心にタワーマンションなどがたくさんできて、比較的安価に職住近接の家が買えるようになっている状況です。しかも人口減で子どもが減っており、そうそう田舎に行く必要もなくなっています。

飯田)田舎に住む選択肢がなくなってきている。

佐々木)もはや資産ではない。逆に田舎だとそうなのですが、持っていると固定資産税が掛かる。しかも壊すとなると、取り壊し費用を払わないといけません。もはやババ抜き状態になっていて、みんなで押し付け合っている。完全に負の遺産ですよ。

使われない土地に空き家が残っていき、廃墟が連綿と続くような状況にならざるを得ない

飯田)これをどうしていくのか。制度はできたけれど、取り壊しの部分を公的なもので助成するのかどうか。

佐々木)膨大な量の空き家があるわけですから、すべて公費で取り壊したら予算が足りません。特に地方財政はひっ迫していて、橋や道路も直せない状況です。限界集落に行く手段さえなくなりそうで、どうするかを議論しているときに、まったく使い道のない土地の建物を壊して空き地にする必要があるのかということです。

飯田)そんななかで相続土地国庫帰属制度を利用するのかと。

佐々木)残念なことですが、最終的に使われない土地にはボロボロの空き家が残り、廃墟が連綿と続くような状況にならざるを得ないのではないかと思います。

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