トップの考えがわからない「習近平1強体制」の「危うさ」

By -  公開:  更新:

ジャーナリストの佐々木俊尚と慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が4月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の日中関係について解説した。

トップの考えがわからない「習近平1強体制」の「危うさ」

中国・北京で開かれた、習近平指導部の10年間の成果を示す展覧会に掲げられた習近平国家主席の写真=2022年10月12日 写真提供:産経新聞社

日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」 ~リスクの低減には役立つ

飯田)日中防衛当局間の連絡メカニズムが3月末に開設されましたが、これで意思疎通できるものなのでしょうか?

細谷)日本側は、空も含めて「海空連絡メカニズム」という形で、当局間でのリスクをなるべく避けようと運用しています。ただ中国側は人民解放軍、党のトップと直結した軍隊ですので、柔軟な現場での対話は組織上難しいと思います。ですから、中国もなかなか納得しませんでしたが、リスク低減には役立ちます。これからはリスクをなくすというよりも、リスクコントロールが重要になってくると思います。

日中間の「裏のパイプ」がなくなってきている ~「裏のパイプライン」の必要性

佐々木)尖閣諸島については、日中国交正常化が行われた70年代以降、どちらが領有しているのかという問題はあったとしても、「それについてはあまり触らない」という裏の合意のようなものがずっとありました。

飯田)裏の合意。

佐々木)ところが2000年代に入り、石原慎太郎元都知事が突然、もともと持っていた地主から島を買い上げた。そのとたん中国が過剰反応し、いまのような状況になりました。

飯田)ありました。

佐々木)それは日中間において、国交の裏側のパイプが消滅してきたことが大きいのだと思います。田中角栄元総理以来、ずっと持っていたものがなくなってきた。もちろん、表の外交で交渉し、あるいは対立も含めて進めることは大事ですが、裏側のパイプラインもつくらなければ難しいと思います。

「習近平1強体制」で共産党指導部の考えがわからない中堅の役人

飯田)一方の中国側ですが、当時は集団指導体制のなかで、日本の意思を向こうに反映させることも可能だったけれど、いまは完全に「習近平1強体制」になっています。最後はすべてトップに意見具申というか、ご意向を伺う形です。連絡メカニズムがあったとしても、機能しない可能性があるでしょうか?

細谷)そうなのです。結局、外交部のチームは下がりましたし、中国の中堅役人たちも、上が何を考えているかわからないのです。中南海で共産党指導部が何を考えているのかわからない。

飯田)共産党指導部が。

細谷)トランプ政権のときに、アメリカの官僚がトランプ氏のツイートを見ながら、大統領が何を考えているのか毎朝チェックしていたという話がありました。中国も上を見ながら行動しています。しかし、「上が何を考えているのか」ということが、以前よりもわからなくなっていると思います。

飯田)前よりも。

細谷)現場は勝手に動けません。上から指示を受けて、それをもとに行動していますが、そういった意味でもいままでにない難しさがある。外交部の地位の低下など、何を意図しているのかがわからない。習近平体制の側近、内側の数人で決めているため、外側から見ると「自分たちのトップが何を考えているのか」が見えにくいのだと思います。

ニューヨークの中国公安部門の出先「警察拠点」で男2人を米連邦地検が逮捕

飯田)見えにくいトップを忖度するあまり、現場がより過激なことをする。ニューヨークでは中国公安部門の出先の警察拠点で、男2人が逮捕されたという事案もありました。各国でこのような動きがあるようですね。

佐々木)恐ろしいですよね。日本にもあるらしいですが。

飯田)神田や秋葉原の方に存在するという話もあります。当然ながら主権の侵害になりますよね?

細谷)本当に深刻な問題で、いままでよりも少しレベルが上がってきています。簡単に言えば、中国国内の司法権の域外適用です。我々は明治時代は治外法権で、要は日本の司法権を完全にある意味、侵害していたわけです。中国はそれをアメリカや日本、外国でしているわけですから、帝国の発想です。

今後、ヨーロッパ・日本も「中国に厳しい態度を取る」ことを連携すべき

細谷)アメリカが厳しい対応をしたのは、非常によいことだと思います。中国に対するメッセージとして「こういうことは認められない」と、もっと強く言わなければ中国はわからないのです。平気で人の家のなかで好き勝手に行動することになります。今回のアメリカの行動と同様に、今後はヨーロッパと日本による横の連携が重要になると思います。

飯田)こういう話は、先進7ヵ国(G7)外相会合の直後くらいに出てきています。次のG7でも議題になりそうですか?

細谷)今回のG7外相会合では、かなり中国について話しており、ウクライナ戦争と同量の分量で共同声明を出しています。ヨーロッパはみんなウクライナを見ていますが、実は中国の問題も相当深刻なのだということを、日本は強くメッセージングして上手く着地したと思います。広島サミットでも、この手の問題は議論するべきだと思います。

番組情報

飯田浩司のOK! Cozy up!

FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

番組HP

忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。

Page top