米ファースト銀が経営破綻でも「米市場の動きが堅調」なのはなぜか
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経済アナリストのジョセフ・クラフトが5月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米ファースト・リパブリック・バンクの経営破綻について解説した。
全米14位のファースト・リパブリック・バンクが経営破綻
米連邦預金保険公社(FDIC)は5月1日、経営不振に陥っていたファースト・リパブリック・バンクを閉鎖し、銀行大手のJPモルガン・チェースがすべての資産を買収することで合意したと発表した。ファースト・リパブリック・バンクの資産規模は2022年末時点で全米14位だった。3月に破綻したシリコンバレーバンク(SVB)を上回り、米史上2番目の規模の銀行破綻となった。
飯田)2023年3月以降、2ヵ月間で3件目です。このニュースが昨日(5月1日)の昼過ぎに入ってきて、株が下がるかと思いましたが、それほど下がりませんでした。
一銀行の経営問題であり、金融システム全体が揺らぐことはない ~株式は堅調な動きで混乱はない
クラフト)最大のポイントは、この破綻が金融危機にはつながらないということです。実は4月28日の時点でFDICが公的管理下に置く準備を進めていると報じられましたが、その日はスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が0.8%、S&Pの銀行セクター指数が2.6%上がっているのです。
飯田)S&Pは日経平均的な株式指標ですか?
クラフト)トピックス的なものですね。ダウ・ジョーンズが日経だとすると、トピックスがS&Pという括りだと思っていただければ。
飯田)相場全体の流れが見えるものである。
クラフト)要するに流動性の問題であって、リーマンのときのように資産価値が大きく目減りするような状況ではありません。市場としてはファースト・リパブリック一(いち)銀行の経営問題であり、システム全体が揺らぐわけではないという反応で、昨日も株式は堅調な動きでした。これからも何社か弱い銀行の破綻は予想されますが、それが金融システム全体を巻き込むような混乱には至らないということが、今回の最大のメッセージです。
事前にJPモルガン・チェースが買収する準備が進められていた
クラフト)もう1つ、シリコンバレーバンクのときは唐突に発表されて驚きがあり、当局の対応も早かったのですが混乱しました。しかし、今回は週末にJPモルガン・チェースがすばやく買収しました。
飯田)そうですね。
クラフト)シリコンバレーバンクのときは買収に誰も手を挙げなかったのですが、今回はJPモルガン・チェースがすぐに手を挙げた。つまり、事前に準備されていたのだと思います。
飯田)なるほど。
クラフト)ファースト・リパブリックは、4月から「いずれは」と当局も予想していたので、裏でJPモルガンと「いざというときには入ってくれ」と話していたのだと思います。今回は買収されて守られたという安心感もあったと思います。
ファースト・リパブリックは地銀のような存在 ~ここが破綻すると金融市場が揺れるので介入が入り、時間をかけて計画的に破綻へ
飯田)シリコンバレーバンクなど2銀行が破綻したとき、ファースト・リパブリック・バンクには銀行各社が預金し、既に資金の融通や支援が行われていましたからね。
クラフト)そうなのです。シリコンバレーとシグネチャーについてですが、シリコンバレーはデジタル、シグネチャーはビットコインなどの暗号資産に特化していた銀行であり、特別な銀行です。対してファースト・リパブリックは地銀のような存在です。
飯田)ファースト・リパブリック・バンクは。
クラフト)そこが急に破綻すると金融市場が揺らぐので、当初は介入が入り、徐々に時間をかけて今回の整理破綻になったのだと思います。
飯田)預金を預けることで資金融通を行い、そのあと1~3月期の決算が出たら、やはり預金流出が出てくる。そういうことも見越して準備していた感じですか?
日本では「決済預金」は全額保護されるので企業には安心感がある
クラフト)実は、シリコンバレーバンクの破綻のような出来事は日本では起こり得ません。なぜかと言うと、日本には「決済預金」というものがあります。これには金利が付きません。アメリカだと企業が預金を持って、そこから従業員の給料を払うので、大きな金額になりますよね。
飯田)アメリカでは。
クラフト)普通の預金と同様に保護が限定されているので、それを上回る額は保護されません。当然、大手企業は給料が高いので、月間の金額が保護枠を超える。
飯田)そうですよね。
クラフト)日本の場合、普通預金には金利が付くのですが、保護金額は限定なのです。対して決済預金は金利が付かないけれど、全額保護されます。
アメリカには日本の決済預金のような口座がない
クラフト)だから企業はそこへ入れても大丈夫という安心感がある。日本がどうして決済口座を設けているかというと、90年代の金融危機を経験しているので、考えた末に決済口座を設けた方がいいという方向になった。
飯田)90年代の金融危機の際に。
クラフト)アメリカは、リーマン・ショックのときは不動産の問題から始まっているので、少し性質が違います。だから決済口座は設けられていないのです。それで今回「危ない」となり、預金が流出する状況を招いてしまった。
飯田)だからこそ、他への飛び火というよりは、銀行によるお客さんの特性などの話になってくる。
クラフト)あとは日本人の性格上、危ないときでも「銀行預金は大丈夫」という感覚が根強いですよね。アメリカの場合は「預金も危ない」という感覚があるので、すぐに引き出そうとします。実は安全ではないのですが、日本の場合はそういう安心感があるので、取り付け騒ぎにならないのです。
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