「G7広島サミット」は今後のインド、中国にどのような影響を与えるのか

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戦略科学者の中川コージが5月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7広島サミットについて、また、招待国であるインドについて解説した。

「G7広島サミット」は今後のインド、中国にどのような影響を与えるのか

2023年5月20日、日印首脳会談~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202305/20g7summit_outreach.html)

G7広島サミットの成果について、岸田総理大臣が「当初の狙いを果たせた」と述べる

岸田総理大臣は5月22日、総理官邸で先進7ヵ国首脳会議(G7広島サミット)について、「当初の狙いを果たすことができた」と語った。一方、サミットの討議で台湾問題を取り上げたことに対し、中国が批判していることに関して、「対話を通じて協力すべきことは協力する、建設的かつ安定的な関係を築いていきたい」と言及した。

G7広島サミットのテーマは「対中国」と「ウクライナ戦争」

飯田)今回の首脳コミュニケで、中国に関してはパラグラフを立てて言及していますが、完全な分断ではなく、「リスクを回避する」というような表現でしたよね。

中川)デカップリングよりは若干弱めであり、完全な分断というよりは、「双方がエスカレーションしないように下げていきましょう」という概念です。G7広島サミットでは、2つのテーマがありました。1つは対中国、もう1つはウクライナ戦争についてです。

飯田)今回のサミットでは。

中川)中国側としては、ゼレンスキーさんがリアルで来てくれたことによって、相対的にではあるけれど対中強硬の動きが薄まってきた感じがします。情報コントロール、インテリジェンスが中国にとっての戦略的な肝として動いているので、その意味からすると直前に会っていたことも含め、むしろ中国は「ゼレンスキーさんを日本に行かせたかったのではないか」とも思います。

飯田)止めないどころか「行け、行け」という。

中川)ウクライナ戦争に関しては、ゼロからプラスという戦略は効いているわけです。G7で対中強硬がテーマになったとしたら、中国のコントロールが効く範囲ではありません。

ゼレンスキー大統領がインドのモディ首相と会ったことは広報作戦の1つ

中川)ゼレンスキーさん側からすると、グローバルサウスに関連してインドのモディ首相と会いたかったのです。一方でブラジルのルーラ大統領とは、待っていたけれども会えなかった。その辺りはBRICsの連携、中立化が見えます。少なくともインドはロシアから武器を供与されていて、それを自国生産に切り替えようという政策はありますが、それでも、まだつながっている。そのなかで「揺さぶりを掛ける」という意味では、よかったのではないでしょうか。

飯田)モディ首相と会ったことは。

中川)インドとしても、リアルでの対面となると断れない面があります。「ゼレンスキーさんは広報戦が上手いな」と思います。

飯田)ゼレンスキーさんは5月20日の昼過ぎに広島入りしましたが、初めに会ったのがインドのモディさんでした。最も遠いところの人をまず崩すという感じだったのですか?

中川)国際的にはG20の国々がありますが、そのなかで大国と呼ばれるいくつかの国々を見た場合、「インドをもう少しこちら側に寄せよう」という意識は働いています。

産業がまだ発展しておらず、外交的余裕のないインド

飯田)中川さんご自身も今後、インドで研究されるということですが、インドは外交的なスタンスにおいても一線を画すと言うか、中立的な立場を指向する部分があるのですか?

中川)インドは正直に言うと、ITなどのラッキーパンチは別として、まだ産業が発展しておらず、外交的には余裕がありません。内政の時点でまとまっていない。

飯田)インドはまだ。

中川)中国のように国内で産み出す力があれば、「これから外交に行くぞ」という話にもなるのですが、いくら開発独裁的な民主主義だとしても、まだ難しいので、中国に比べて外交に余裕がありません。

まだ「1対多」というフレームワークはできないインド

中川)ただ、そのなかで中国的なモデルをつくろうとした、「インド・太平洋諸島協力フォーラム(FIPIC)」というものがあります。中国が行っているのは、中国とアフリカ諸国などとの会議です。先日行われた、5ヵ国での中国・中央アジアサミットのように、「中国と多」、「1対多」という形で行っています。FIPICも1対多という関係で、インドと太平洋諸島で進めています。

飯田)太平洋の。

中川)G7は7ヵ国で並列です。インドは「1対多」のフレームワークでやろうとしていますが、やはりアフリカや中東などに比べると弱い感じがします。

飯田)弱い。

中川)インドはまだ食い込めるフレームを持てていませんし、「1対多」をやろうとしても、それほど強い感じがしません。ゼレンスキーさん自身が会ったという印象はありますが、実質ではまた別の話になります。イメージ戦として、グローバルサウスという意味では「出ました」という感じだと思います。

ゼレンスキー大統領がインドのモディ首相と会ったのは、1つの広報戦略という意味が強い

飯田)インドはグローバルサウスの大国、あるいは人口が多いイメージはあるけれど、足もとの部分の産業などでは、日本国内にいるとイメージが「ボヤッ」としていますよね。

中川)中国のユーラシア特別代表がウクライナに行ったという話がありましたが、あの辺りに関しても中国は実質的な交流で、「貿易や軍事面でどうしますか」ということです。

飯田)ウクライナに対して。

中川)しかし今回、ゼレンスキーさんがモディさんと会ったのは、「グローバルサウスの核となるような国と会った」という1つの広報戦略という意味が強いのではないでしょうか。

飯田)武器や産業のような中身のある話というよりは、会った絵づくりがポイントなのですね。

中川)そうだと思います。中東にもインドは食い込んでいて、貿易関係にも強いです。ただ、インドをハブにしてはどうかということでは、ウクライナにとっても実質的に対中国とは全然違うと思います。

飯田)G7のタイミングでクアッドの首脳会談も行われましたが、この辺りも実質的な軍事交流の話まではいかないのですか?

中川)結局のところはクアッドも、軍事的なつながりとしてのクアッドなのですが、インドとロシアの軍事的な協力があるので、完全に一筋縄ではいかないのです。

インドにとって最も大きい問題はパキスタンとの問題

中川)インドの外務省などがレポートという形で、毎年、年間の報告書を出しています。そのなかで、いちばんの彼らのポイントはパキスタンなのです。

飯田)ポイントは。

中川)興味深いのは、パキスタンとはボーダーを接していて、自分たちとしては友好的に接したいのだけれども、「しかしながら彼らはインド全土にわたるテロリストの後方支援を行っているのだ」という内容が書かれている。パキスタンとの問題がインドにとって最も大きいのです。

外交的な部分で日本を重視するインド ~国内的にはパキスタンとの問題の方が議論される

中川)報告書のなかで、米国に次いで取り扱いが大きいのは日本です。米国は5~6ページほど割かれていたのですが、日本もそれに劣らずのページ数で、中国よりもずっと多いのです。

飯田)そうなのですね。

中川)インドは、外交的な面では日本を重視していますし、なおかつクアッドに関してもかなり触れられています。外務省としては日本を重視していることがわかります。しかし、国内的にはそれほどでもありません。

飯田)民がついていけていない。

中川)パキスタンとの問題の方が遥かに関心が高い。どの国でも内政から外交に展開するものですが、その意味ではクアッドの話をするよりも、パキスタンの話をする方が内政的には刺さるのです。

内政的な重要度の位置付けと外交的な位置付けに相違

中川)「独立運動を支持しているのはパキスタンなのだ」という認識がインドにはあります。SNSでパキスタンがシク教徒の独立を仕掛けていて、それがまた両方で言い合ったりしているのです。

飯田)両方で。

中川)そのようなところから考えると、内政的な意味での重要度の位置付けと、外交としてインド外務省が行っている位置付けには、少しずれがあると思います。

G7の成功で支持率が上がり、「解散があるのでは」という報道も

飯田)G7からの内政に関して言うと、これで支持率が上がって「解散があるのではないか」と各紙が書いています。

中川)今回のG7広島サミットが岸田外交として「成功だったか否か」に関しては、マスコミで批判などもされていますが、はっきり言ってプラスです。外交的には「G7広島サミットで日本としての力を見せられた」というところで、私は高評価しています。

飯田)外交面で高評価を。

中川)ポイントは外交的な高評価があって、防衛力を強化しましょう、他国の脅威に対応しましょう、また安全保障の辺りも国としての統制をきちんと入れますよ、ということです。チェックすべきなのは、「G7は失敗だった」ではなく、「G7は成功だった。それに絡んで、別の増税や国家資本主義的な統制を強めることに対して、きちんと議論しましょう」ということではないでしょうか。

飯田)そのための選挙ですよね。

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