「同性婚」のような社会文化的な問題は裁判でなく、立法や選挙で変えるべきではないか

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東京都立大学・法学部教授の谷口功一が5月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。同性婚を認めないのは憲法違反とした名古屋地方裁判所の判決について解説した。

「同性婚」のような社会文化的な問題は裁判でなく、立法や選挙で変えるべきではないか

男性カップルが国に損害賠償を求めた訴訟の判決後、取材に応じる弁護士ら=2023年5月30日午後、名古屋中区 写真提供:時事通信

同性婚を認めないのは憲法違反 ~違憲判断は全国2件目

同性同士の結婚が認められないのは憲法違反かどうかが争われた裁判で、名古屋地方裁判所は5月30日、「同性カップルに対し、その関係を国の制度として公に証明せず、保護するのに相応しい枠組みすら与えていない」などとして憲法に違反するという判断を示した。

飯田)愛知県に住む30代の男性カップルが起こした訴訟で、同性同士の結婚を認めない民法の規定が、憲法における「法の下の平等」や「婚姻の自由」に反するかどうかが争われました。どうご覧になりますか?

裁判によって社会的な問題を変えるのはどうか ~「両性」を「男性・男性」「女性・女性」とするのは無理がないか

谷口)最初にこの問題に対する私自身の立場をはっきりさせておくと、基本的に同性婚そのものに対しては、反対ではありません。ただ、今回の形のように違憲判決を出していくのは「どうなのかな」と思うところがあります。

飯田)違憲判決を出して認めることが。

谷口)ここからは法哲学者としての話になりますが、憲法で規定されている条文では、24条1項に「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と書いてあります。この「両性」は、いままでであれば「男性と女性」で考えてきたわけですが、「男性・男性」、「女性・女性」でも言いようによっては「両性」になる。だから「憲法はそれを禁止していない」と解釈する人もいるのですが、それは無理なのではないかと思います。

飯田)無理があると。

憲法9条の問題 ~アクロバティックな解釈を積み重ねて「自衛隊は合憲である」としてきた

谷口)きちんと進めるのであれば、憲法改正をした方がいいのではないかと思うのです。この話を理解していただく上で、もう1つ例を出すと、憲法9条の問題があります。

飯田)憲法9条の問題。

谷口)憲法9条に関しては、長らく左派・護憲派の方々は政府が解釈改憲していると批判しています。憲法9条の条文において、自衛隊が認められるというのは、一般的に日本語を使う人からすれば決してそのようには読めません。けれど、さまざまなアクロバティックな解釈を積み重ねて、「自衛隊は合憲である」としてきた。実質的には2015年に平和安全法制をつくり、改憲したのと同じような効果を持つようになったのです。

解釈改憲を批判してきた左派・護憲派・リベラルの人々はなぜ同性婚は認められるのか ~論理的な整合性の問題

谷口)しかし、そのようなことを積み重ねていくと、そもそも左派・護憲派・リベラルの方々は解釈改憲を批判していたのに、なぜ同性婚に関しては認められるのか。論理的な整合性の問題が出てきます。

飯田)同性婚はなぜいいのかと。

谷口)もう1つ大きな問題は、裁判でこのような大きな問題について、判決で社会を変えていくのはどうなのか、と思う部分があります。なぜかと言うと、アメリカを見ているとわかるのですが、アメリカは同性婚に関して2015年の「オバーゲフェル判決」という例があり、そこで同性婚を認めました。

飯田)オバーゲフェル判決で。

谷口)そこに至るまでには、ジェンダーやセクシュアリティの問題をめぐって左派と保守派の対立が先鋭化し、最終的にはトランプ大統領が生まれたという流れがあります。アメリカでは長らく、左派・リベラルが裁判所の力を使って判決を出し、社会を大きく変えてきたのですが、決して上手くいっているとは思えないところがあります。

差別の心や偏見は一夜にして打ち砕くことはできない ~全員に関わるような社会文化的な問題は裁判ではなく、立法や選挙で変えるべき

谷口)ジェンダーやセクシュアリティの問題よりも前に、人種問題がありました。1954年にブラウン判決が出て、人種隔離政策は廃止されたのですが、いまはどうなのかと言うと、やはり根強い人種差別が残り続けています。

飯田)未だに。

谷口)裁判所が理知的に採決を下し、「きょうからこうなります」と示しても、人間が持っている差別の心や偏見を一夜にして打ち砕くことはできません。全員に関わるような大きな社会文化的な問題に関しては、裁判で変えるのではなく、立法や選挙を通じて変えていく方がいいのではないかと思います。

飯田)今回の判決に関しても、24条2項の部分の「本質的平等や個人の尊厳」などには言及しているのですが、問題はどちらかと言うと、1項の「両性の合意のみ」というところです。素人が読むと、この「両性」を「両者」に変えるだけで、すべてスッキリするのではないかと思ってしまうところがあります。しかし、憲法には手を付けたくないという思いがあるのでしょうか?

憲法であっても変えるべきところは正々堂々と変えるべき

谷口)ここに手を付けたら他にも手を付けるのではないか、という考えが危惧としてあると思うのですが、不磨の大典というか、あまり神聖化し過ぎるのもどうかと思います。「お試し改憲」などと思われてしまうかも知れませんが、憲法を変えること自体は問題があることではなく、手続きもあるので、変えるのであれば正々堂々と変えていいと思います。

飯田)谷口さんが指摘された憲法9条に関する話は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と書いてあるのに、自衛隊は何なのだということで、解釈改憲ではないかという話でした。これは一定の筋の通った批判ですが、同性婚だと立場がひっくり返ってしまう。

谷口)憲法は非常に重要な法典で、基本的人権などをいろいろと守っているのですが、「書いてあることと現実が乖離しているではないか」となると、憲法における法としての規範的な権威が崩されてしまいます。大事なものとして守っていきたいのならば、正々堂々と変えるときは変える方がいいと思います。

飯田)法の正当性や権威のようなものによって、みんなが「守ろう」と思う部分は、ある意味では社会を維持する根のようなところです。そこが崩れてしまうと「何でもあり」になってしまう。

谷口)基本秩序を支える基礎が掘り崩されてしまうので、それを守るためには、もう少し正々堂々と進めた方がいいと思います。

飯田)当事者の方々のなかにも、きちんと筋を通したことを改憲のなかで行い、正々堂々と婚姻届を出したいと主張されている方もいます。なかなかそのような声が表に出てこないという現実もあります。

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