ジャーナリストの佐々木俊尚が6月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。爆破され、決壊したウクライナ・カホフカ水力発電所のダムについて解説した。
水力発電所のダム決壊、ウクライナは「ロシア側が破壊」と発表 ~現時点では不明
ウクライナ軍は6月6日、南部へルソン州のドニエプル川にあるカホフカ水力発電所のダムがロシア側によって破壊されたと発表し、ゼレンスキー大統領は強く非難した。ヘルソン州の知事は大量の水が下流に流れ、約1万6000人の住民が危険にさらされているため避難を進めていると言及。一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ウクライナ政府の命令で計画・実行されたものだと主張。ウクライナ側の攻撃だと批判した。国連安保理はこれを受けて緊急公開会合を開くことを決めた。
飯田)いろいろな情報が錯綜している段階ですが。
佐々木)ダムを破壊するのはジュネーブ条約違反ですからね。国際法に反しているのは間違いないのですが、ロシアがやったのかウクライナがやったのかは、現時点ではよくわからない。
このダムからザポリージャ原発の水を引っ張っている ~クリミア半島の上水道にも使用
佐々木)ドニエプル川というのは、ロシアとウクライナとベラルーシの間、いまいちばんホットなところを流れて黒海に注ぎ込んでいる川で、その河口辺りにあるのがヘルソンなのです。
飯田)そうですね。
佐々木)その少し上がザポリージャで、原発がある。ザポリージャ原発の水は、このダムから取っています。また、クリミア半島は実は水がないところで、このダム湖から水を引っ張り、上水道に使っているという話です。
ウクライナが反転攻勢に出る場合、ドニエプル川を渡って東へ向かう予想も ~ダム使用を懸念したロシアが破壊したのではないかとBBCが指摘
佐々木)BBCが面白い指摘をしていて、ヘルソンをウクライナが奪還したではないですか。ヘルソンはドニエプル川の右岸、つまり向かって左側にあり、そこを奪還したので、いまへルソンでは、ドニエプル川がウクライナとロシアのちょうど最前線になっているのです。このダムは、両岸を渡す橋でもあるわけです。
飯田)そうなりますね。
佐々木)ウクライナが「夏に大反転攻勢に出る」と言われていますが、その場合、ドニエプル川を渡ってヘルソンからマリウポリなどがある東の方へ来るだろうと予想されています。そのときにこのダムを使うのではないかということです。それをロシアが懸念して破壊したと考えるのが、最も論理的な説明ではないかと指摘しています。
ロシアには「ウクライナの反転攻勢を防ぐため」という動機がある
飯田)ロシア側には動機がある。
佐々木)どちら側も橋を使えるわけです。ロシアがヘルソンをもう1回奪還しようと思ったら、やはりその橋を使うでしょう。しかし、現状ではロシアとウクライナの力関係を考えると、ウクライナが反転攻勢しようとしている状況のなかで、ロシアは守勢に回っている。だから、破壊して得をするのはロシアではないかということです。
ダムを破壊すれば、ロシアが実効支配しているクリミアに水がいかなくなってしまう ~戦争遂行のことしか考えないプーチン大統領だが、物的証拠はない
佐々木)一方で、ダムを破壊してしまったら、ザポリージャ原発の冷却水が喪失することになりかねないし、クリミアはロシアがいま実効支配しているわけですが、クリミア自体に水がなくなってしまったら、住んでいる人は困ることになります。
飯田)クリミアに水がなくなってしまったら。
佐々木)でもプーチン大統領は、別に住民のことなど考えていないように見えるし、原発に対する危険も特に気にしないかも知れない。どちらかと言うと、「ウクライナとの戦争をいかに遂行するか」ということにしか関心がないことを考えれば、客観的に見ると、ロシアの方が実行する意味があるのではないかと思います。
飯田)状況証拠的には。
佐々木)ただ、現状ではそこまでわかりません。それ以上の物的証拠はないのです。
ザポリージャ原発に緊急のリスクはない
飯田)ザポリージャ原発に関しては、国際原子力機関(IAEA)が「現時点で安全性への影響はない」と発表しています。
佐々木)水は他のところからも持ってこれるようですね。
飯田)既に発電は止めていて、冷温停止、あるいは冷温まではいかないけれども停止している状態に……。
佐々木)徐々に止まりつつあるということですね。
ダムのコントロール権はロシアが保有していた ~満水で崩壊の危険があったにも関わらず、あえて放っておいた可能性も
飯田)いろいろな可能性が指摘されているなかで、双方からいろいろな形で攻撃が続いていた。その上、最近は水量が増えていたようです。
佐々木)満水状態だったという話もあります。しかも、ダムのコントロール権はロシアが持っていた。わざわざ満水の状態で破壊したとすると、当然、下流域で水害が起こるのはわかるはずです。それを狙ったとすれば、そこからもロシアが行ったと考えた方が論理的に納得できるのかなと思います。
飯田)実際に爆発させないとしても、それだけ脆弱になっていたことを考えると。水をそれだけ湛えれば、自然と……。
佐々木)事故という説もあります。満水になった状態で決壊してしまったと。
飯田)管理権がロシアにあったということは、故意に「壊れてもそれはそれでいい」という思惑があったのかどうか。
佐々木)いろいろな状況証拠を考えると、「ちょっと怪しいかな」という感じはしますよね。
表に出ている情報では判断できない
飯田)他方でウクライナ側も、ロシア領内での反政府活動に対して「支援があったのかどうか」という話もあります。
佐々木)最近、ロシア国内で反ロシア軍のようなものが登場してきて、いろいろ動いていますよね。
飯田)工作活動はどうなのかと。
佐々木)クレムリンの爆発についても、未だによくわからないではないですか。いろいろと説が出ていますけれども、裏側で双方とも暗闘していることは間違いない。現状、表に出ている情報だけでは判断できないと思います。
飯田)「戦場には霧がかかる」などと言われますが、その霧が濃くなっている感じがあって、外からはなかなか見えづらい。
佐々木)「反転攻勢が始まった」という説もあり、「何もやっていない」という説もあります。毎日、安全保障の専門家の人たちの意見や、海外メディアの記事などを読んで情報収集していますが、読めば読むほどわからなくなるのが現状です。
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