「下請け」が抑えたコストを賃上げにつなげる「大企業」 中小企業との格差が広がる可能性も

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ジャーナリストの佐々木俊尚が6月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。13ヵ月連続でマイナスとなった4月の実質賃金について解説した。

「下請け」が抑えたコストを賃上げにつなげる「大企業」 中小企業との格差が広がる可能性も

※画像はイメージです

4月の実質賃金、前年同月比3.0%減 ~13ヵ月連続マイナス

厚生労働省が従業員5人以上の事業所3万余りを対象に行っている毎月勤労統計調査の速報値によると、物価の変動分を反映した2023年4月の実質賃金は、2022年4月に比べて3.0%減少した。実質賃金がマイナスとなるのは13ヵ月連続。

飯田)基本給・残業代などを合わせた働く人1人当たりの現金給与総額は「プラス1.0%」です。春闘も受け、上がってはいるようですね。

初任給を上げる企業が多い

佐々木)いくつかポイントがあります。1つは、厚労省も言っていると思いますが、4月の速報ではまだ春闘の結果が完全に反映されていないので、若干ギャップがあります。

飯田)春闘の結果がまだ完全に反映されていないので。

佐々木)実際、連合などが発表している今年(2023年)の平均賃上げ率は3.69%です。かなり上がっています。ファーストリテイリング、セガ、三井住友銀行、みずほ銀行なども初任給を上げていて、かなり給料が上がりそうです。

4月のエネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価指数が4.1%上昇 ~サービス部分が値上がりし、賃上げにつながる可能性が

佐々木)一方、物価が上がっているので実質賃金が減少してしまっていますが、物価も少し前まではエネルギーと食料品ばかりが上がっていて、「そういうものが上がったのでは賃上げにつながらない」と言われていました。しかし、4月のエネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価指数は、去年(2022年)よりも4.1%上昇しています。4.1%も上昇したのはオイルショック以来で、約40年ぶりだそうです。

飯田)エネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価指数が。

佐々木)エネルギーと食料品以外のサービス部分が値上がりしたということは、イコール賃上げにつながる可能性が出てきたわけです。

インフレターゲット政策が功を奏しつつある ~今後も賃上げが期待できる

佐々木)ずっと日銀が進めてきたリフレ政策、ある意味、インフレターゲット政策が功を奏しつつあるのではないでしょうか。目論んでいたわけではないけれど、エネルギーが上がった勢いで、人々の物価(上昇)の許容度が上がったのでしょう。

飯田)値上げしてもみんなが許容するようになってきた。

佐々木)仕方がないという感じになってきた。はからずも日銀が進めてきたインフレターゲット政策が、ついに功を奏し始めているという状況を考えると、賃上げの可能性は今後も期待できると思います。

飯田)今後も賃上げが期待できる。

佐々木)今回、実質賃金は3.0%減ですけれど、今後上がってくる可能性は十分あると思います。

下請けが抑えたコストを賃上げにつなげる大企業 ~「こちらは儲からない」中小企業からは不満

佐々木)もう1つのポイントですが、例えば初任給を上げているのは三井住友、みずほ、セガ、ファーストリテイリングなどで、見ればわかりますが大企業中心です。

飯田)そうですね。

佐々木)中小企業は大企業に部品を供給するなど、いわゆる下請け企業が多い。大企業は下請け企業に対して、例えば「部品代を何とか値上げしないでお願いします」としてコストを抑えている。その抑えた部分で物価が上がった部分を吸収し、賃上げにつなげているのです。

飯田)大企業は。

佐々木)中小企業からすれば、「自分たちにしわ寄せがきて、こちらは全然儲からない」と。「我々がコストを抑えているおかげで、大企業は物価上昇を賃上げにつなげているだけではないか」という不満は当然、出てくるわけです。実際、そういう声は中小企業の経営者からよく聞きます。

大企業は潤って給料が上がるが、このままでは中小企業は上がらないまま ~格差が広がる可能性も

佐々木)このまま放っておくと、大企業は潤って賃上げを行い、給料がよくなりますよね。だからと言って、「中小企業が賃上げできないのだから、大企業も賃上げするな」としていると、それはまた平成30年間のデフレマインドと同じになってしまうからよくない。

飯田)そうですね。

佐々木)だから大企業にはどんどん賃上げしてもらう。同時に、中小企業も賃上げできるようなマインドづくりに持っていかないと、格差が開いてしまいかねません。

飯田)最終的に出している商品が値上げしているのだから、それを原資に大企業は賃上げできる。一方、それだけ値上げしているぶんを、下請け企業にお支払いとして回さなければいけませんよね。

今後、大企業に求められること

佐々木)部品などのコスト上昇を、「(下請け企業の)賃金上昇含めて引き受けるかどうか」というところが大企業に問われているのではないでしょうか。

飯田)消費税が上がるときに「きちんと転嫁しているか」という、「転嫁対策調査官(転嫁Gメン)」が出ました。同じように独占禁止法の仕組みで、「元請けは優越的地位があるから、そこでコストを抑えさせるのではなく、きちんと転嫁しましょう」と、優越的地位を濫用させないような仕組みを強化する必要があるかも知れませんね。

佐々木)一応、政府もそういうことを言っているのですが、仕組みとして持っていけるかどうか。賃上げに関しては、「優秀な人材が集まらないから賃上げせざるを得ない」という側面があるのですが、それを中小企業側に求められるかどうかですよね。

「下請け」が抑えたコストを賃上げにつなげる「大企業」 中小企業との格差が広がる可能性も

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適正な価格転嫁の実現に向けて公正取引委員会が動く

飯田)賃上げについて、“会津少将”さんから「大手の顧客が電気代の一部を負担してくれるようになりました」というご意見をいただきました。

佐々木)公正取引委員会が去年(2022年)の暮れぐらいに、「下請けに対してきちんと価格転嫁させよう」と動いたことがありました。「下請けを大事にしない会社はいけない」という世論を喚起することが大事だと思います。

飯田)一方で原資のない会社も、働き方の部分でフレキシブルに人を集めるなど、いろいろ工夫しているようです。

労働市場の流動化が始まる可能性もある ~「賃上げプラス労働市場の自由化」が組み合わさると、もう少し転職フリーな状況に

佐々木)これをきっかけに、労働市場の流動化が始まる可能性もあるのではないでしょうか。リモートワークも含め、コロナが収束した感じになってきていますが、いろいろな会社で「リモートワークをやめました」という例もあるようです。

飯田)そういうところも出てきています。

佐々木)田舎に家を買ったのに、会社がリモートワークをやめてしまったので、通勤が大変だという話も聞きます。そういうときに「では転職してリモートが可能な会社に移ろう」となるかも知れない。

飯田)ならば転職しようと。

佐々木)あるいは給料が安いから、「なぜ同じアパレルなのに、ユニクロの初任給は30万円でうちは20万円なんだ」と不満を持ち、「条件のいい会社に転職しよう」と考える人もいるでしょう。

飯田)そうですね。

佐々木)転職して他の職場に行っても、高給で雇ってもらえるような、「賃上げプラス労働市場の自由化」のようなものが組み合わされば、もう少し転職フリーな感じになる可能性があります。

令和になり、「転職」という選択肢が再び出てきた ~「転職しても道が開ける」昭和の時代の希望

飯田)これまではデフレが続くなかで、「会社を辞めたら次があるのか……ないではないか」というマインドでした。

佐々木)レールから外れたら人生転落しかないと、みんな恐怖に怯えていたわけでしょう。しかし、令和になって、それが終わった感じがあります。「転職しても、まだこれから道が開ける」と思えるようになれば、それこそが昭和の時代の希望ですよ。

2020年代に入り、「期待を持ってもいいかな」と空気が少し変わってきた

飯田)昭和の時代の希望。

佐々木)右肩上がりのね。あのころは豊かではなかったけれど、「世の中はこれからよくなる。自分の人生はまだ明るい」と期待が持てる時代でした。しかし、平成の時代は昭和よりも豊かだったと思いますが……。

飯田)物質的には。

佐々木)でも、平成の時代はそういう期待感がなかったと思うのです。2020年代に入って、ようやく「期待を持ってもいいかな」と時代の空気が少し変わってきている感じがします。

飯田)そうなのですよね。

社会全体のマインドを変えるには、どうすればいいのか

佐々木)幸せはマインドですよ。

飯田)その部分を喚起するようなものが、政策としてもう少し出てくるといいのですが。ここで「増税」などと言われると、「またか」となってしまう。

佐々木)せっかくここまで上がってきたのだから、岸田さんは上昇軌道を潰さず、「財務省に対して何とか頑張ってください」と思うのですが。

飯田)「新しい資本主義」として、成長分野への投資などが出てくるのは、悪いことではありませんが。

佐々木)もちろん悪いことではないのだけれど、「社会全体のマインドを変えるには、どうすればいいのか」というところを、もう少しグランドデザイン的に考えて欲しい。成長産業に投資するのはある意味、戦術ではないですか。

飯田)局面、局面での。

佐々木)根本的なところ、「社会の空気感の土台」を変える必要があると思います。

ウクライナ情勢による電気代などの高騰をどうするか

飯田)1つのインフラとして電力やエネルギーがありますが、エネルギー白書が出てきました。ロシアによるウクライナ侵略で電気代が上がっていると指摘されていますが、これもどうするのか。

佐々木)いまのところ日本は「高い、高い」と言われながらも、それほど酷い値上げはしていません。その理由は結局、長期契約の天然ガスなどを使っているからです。

飯田)なるほど。

佐々木)欧州の電気代は2倍~3倍に上がってきていて、これはこれで、また景気を押さえつけるマイナス要因になってしまいます。エネルギーが高騰しないよう、もう少し国に頑張ってもらうしかないという感じもするのですが。

飯田)国に頑張ってもらって。

佐々木)ただ、ウクライナ侵攻はいつ終わるかわかりません。勝手にウクライナが「負けました」で終わるオプションはないと思うので、いつまでも西側諸国が頑張って、ウクライナを支え続けなければいけないかも知れない。そう考えると、長期戦で何とかエネルギー危機を引き受けざるを得ないのではないかと思います。そのときにどうやって景気とのバランスを取るのか。なかなか難しいところですよね。

飯田)原子力なども含めて、選択肢に入ってくるかも知れない。

佐々木)そうするしかないかなとも思うのですけれど、もう少し議論が必要だと思います。

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