北朝鮮に核を持つことを許さなければならない中国の「事情」
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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が6月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。相次ぐ北朝鮮のミサイル発射について解説した。
北朝鮮がミサイルの発射をめぐる国際海事機関の対応を批判
船舶などの安全を取り扱う国連の専門機関「国際海事機関(IMO)」では、日本、アメリカ、韓国などの13ヵ国が北朝鮮による相次ぐミサイルの発射や軍事偵察衛星の打ち上げの試みを非難する決議を共同で提出し、5月31日に採択された。これについて北朝鮮の海事当局は「不公正かつ不法な決議を排撃し、絶対に認めない」と反発した。
北朝鮮にはもう核ミサイルしか手がない ~何を言われてもやめることはない
飯田)北朝鮮が事前に通告した、彼らが言うところの衛星の打ち上げ……弾道ミサイルの打ち上げですが、「6月11日まで」と通告されています。これによって運搬能力を高めようとしているのでしょうか?
兼原)北朝鮮には核ミサイルしかないのです。韓国軍と比べると、カローラ対ポルシェのようなものですから。
飯田)カローラ対ポルシェ。
兼原)そうすると核ミサイルしかありません。一生懸命揃えて改良していくのが、唯一の対抗手段なので、絶対にやめません。今回のように非難されるのは当たり前ですが、彼らは何を言われてもやると思います。
飯田)やめられない。
兼原)黙って撃つのではないでしょうか。撃たれると飛行機も飛んでいるし、漁船も商船もあるので危ないわけです。本当によくないですね。
飯田)今回予告された場所も、まさにシーレーンです。
兼原)彼らは技術がないので失敗するのですよね。
飯田)先日の打ち上げも失敗したという話でした。
兼原)下に誰もいなかったからいいけれど、下にいたら巻き込まれて海に沈んでしまいますからね。
アメリカ側につかせないために北朝鮮が核を持つことを許した中国 ~北朝鮮を離したくない
飯田)日本をどう守るのか。北朝鮮もそうですし、他にも周りに核を持っている国がありますから。
兼原)ロシア、中国、北朝鮮の3ヵ国があります。韓国も持ちたかったのですが、アメリカが持たせなかった。つい最近まで持とうとしていたのです。
飯田)核武装したかったけれど。
兼原)韓国はそれでも諦めなかったのですが、最終的には諦めました。だから中国は北に核を持たせてしまったのです。北が核を持っていると、絶対にアメリカ側にはつきませんから。中国は北朝鮮を離したくないのです。実は北朝鮮は、中国のことが嫌いですから。
飯田)北朝鮮と中国はそれほど仲がよくない。
兼原)朝貢関係なので、上から目線だから嫌いなわけです。
飯田)北朝鮮からすれば中国のことが嫌い。
本当はアメリカと中国に二股を掛けたい北朝鮮 ~核を持たせてアメリカ側につかせない中国
兼原)北朝鮮は、本当はアメリカと二股を掛けて両方からお金をもらいたいのですが、それは絶対に中国が許さない。
飯田)二股は掛けさせない。
兼原)核を持っていると、アメリカはお金をくれないのです。であれば「核を持っている方がいいではないか」と中国が考えている可能性はあると思います。アメリカは真面目に、日本と台湾と韓国には核を持たせなかったのです。そこは中国の方に真剣度が足りなかったと思います。
飯田)抑えるようなポーズだけ見せて、実際は抑えなかったことには、そういう理由がある。
兼原)P5なので、「朝鮮半島の非核化」などと口では言うのですが。
飯田)常任理事国だから。
中国にとって北朝鮮はいい「バッファーステート」 ~「核を持ってアメリカと喧嘩していなさい」と腹の底で思っている可能性も
兼原)90年代の北朝鮮では約200万人が餓死し、中国がいなければ潰れてしまうような状況でした。内政すればいいではないかと思うのですけれど、それはやらないのです。
飯田)中国としては、北朝鮮の存在によってアメリカや西側と直接対峙しない形をつくりたい。
兼原)中国からすると北朝鮮はいいバッファーステートで、かつアメリカの敵意を集めてくれるため、楽なのです。絶対に朝鮮半島の北側は、二度と西側に獲られまいと思っていますから。
飯田)北朝鮮の存在は。
兼原)南半分はアメリカが事実上押さえてしまっているので、「北半分は絶対に渡さない」というのが、中国側の基本方針だと思います。北朝鮮が「核武装をやめました」とアメリカ側に行ってしまい、アメリカから金が入っても困るわけです。であれば「核を持ってアメリカと喧嘩していなさい」と、腹の底で思っている可能性はあります。
飯田)中国の戦略である可能性がある。
兼原)中国が本気になれば、やめさせられたと思うのです。
飯田)6ヵ国協議があった時期ですね。
兼原)でも、中国はやめさせられなかった。北朝鮮は中国に対して反発するのです。中朝関係は日韓関係以上に難しいと思います。
飯田)こちらから見ると「血の同盟」のようなことを言われていて、中国に何かあると北朝鮮が陽動のように動くのではないかと思う節もありますが、そう甘いものでもないわけですか?
兼原)口だけです。日本と中国の仲がよかったころ、中国政府の人と酒を飲んでいると、「大変なのだよ」と言われました。
飯田)北朝鮮が。
兼原)「交渉していると突然、灰皿を投げるんだ」などと言っていました。
台湾戦争の際、中国が日本に対して「どんな核の恫喝をしてくるのか」を考えておかなければならない
飯田)我々は北朝鮮のミサイルにも対応しなければいけないし、中国の圧迫に対しても……。
兼原)北側が日本に核を撃ち込むとしたら、よほどの事態があった場合です。「自分たちも死んでもいい」と思っていることになりますから、それはないと思います。
飯田)そうですね。
兼原)中国は大きいですし、これから核兵器の数も増やしたり、核も小型化されていくと思います。中国はバラエティがありますから。台湾戦争さえなければ中国も怖くないのですが、台湾戦争が起きたときに、日本に対して「どんな核の恫喝をしてくるのか」を考えておかないといけません。
飯田)核の恫喝。
兼原)核は政治兵器です。本当に軍事的に意味がある場合、使うことはあるかも知れませんが、政治的な恫喝で「使うぞ」と言っているのがいまのプーチン大統領です。
飯田)まさにウクライナ情勢で。
兼原)あれは政治恫喝です。
飯田)周りの国々に「NATOが来たら核を使うぞ」と抑止しているわけですね。
兼原)そこでアメリカの腰が引けてしまい、ああなってしまった。それは考えておかないといけません。
核について真剣に考えてこなかった日本
飯田)アメリカが弱腰で入ってきた場合、日本あるいは南西諸島をどう守るのか。
兼原)大核戦争になれば人類は滅びますから、戦争になると核兵器に対して弱腰になるのです。
飯田)今回のアメリカのように。
兼原)前線にいる非核兵器国の同盟国が恐れ、「捨て駒になる」と思ってしまう。「自分が核でやられても、やり返してくれるだろうか」と考えてしまうのです。米ソ対立時代は、核を持たないドイツが焦りました。
飯田)いちばん先に燃えてしまうのはドイツだと。
兼原)それで生まれたのが「NATO核」です。当時の日本はロシアのお尻を見ているだけでよかったのです。
飯田)旧ソ連はヨーロッパを見ていたから。
兼原)そうです。ニクソン氏が死んだあと、中国は日本寄りになりましたし、楽だったのです。広島・長崎のこともあって、あまり真面目に考えてこなかった。しかし、いまは中国対日米同盟なので、日本が最前線になります。
飯田)そうなのですよね。
兼原)いきなり真剣に考えなくてはならず、「これからどうするのだ」という状況です。安倍さんが「議論しよう」と言っていたけれど、亡くなってしまった。政治家で「核の話をしよう」と言ったのは安倍さんが初めてです。
「非核三原則があったから核が落ちました」というのは国民に対して申し訳が立たない ~核の恫喝がリアルになってきた現在、そんなことを言っている場合ではない
飯田)ドイツはヨーロッパで正面に立たされ、本当に危機感を持っていました。だから核共有という方法を選んだ。しかし、日本には非核三原則が未だに残っていて、自分たちで縛ってしまっています。
兼原)「非核三原則があったから核が落ちました」というのは、国民に対して申し訳が立たないですよ。非核三原則で核を抑止できるはずがありません。「どう抑止するのか」ということを1年間、真面目に考えないといけません。
飯田)そうですね。
兼原)「非核三原則」は国会対策ですから、当時の社会党や共産党がいろいろ言うので仕方なかったのです。当時は社会党と共産党がソ連寄りでしたので、当然そうなることはわかるのですけれど。
飯田)当時は。
兼原)核の恫喝がリアルになってきた現在、「そんなことを言っている場合ではないだろう」と思います。
台湾戦争に巻き込まれたとき、「核で恫喝されたらどうするのか」真剣に考えるべき
飯田)それと、長期的な核廃絶をどうするか。
兼原)核廃絶を進めることは、長期的には正しいのです。しかし、中国・北朝鮮・ロシアが目の前にいるわけですから、どう対抗するのかを別枠で考えないといけません。それを考えなければ、政府は無責任だということになります。
飯田)広島で出された宣言は、そこを何とかすり合わせて出したものだったわけですね。
兼原)インドなどは「核がない方がいい」とはっきり言います。しかし、「周りが持っているのだから、とりあえずいまは仕方ない」というのが一般的な核の論理です。日本には後半の部分がないのです。後半がないのであれば、台湾戦争に巻き込まれたとき、「本当に恫喝されたらどうするのか」を考えておかないといけません。
飯田)そのために「アメリカがどう動くのか」に関してコミットし、知っておかなければならない。
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