元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が6月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。参院本会議で成立した改正入管難民法について解説した。

政府専用機でポーランドから日本に到着したウクライナ避難民＝2022年4月5日午後、東京・羽田空港　写真提供：産経新聞社

入管法改正案、成立へ

不法滞在中の外国人が入管施設で長期収容されている問題などの解消を図ることを目的とした入管難民法改正案が6月8日、参議院法務委員会で可決された。難民申請中は送還が一律に停止される規定を見直し、3回目以降の申請者は送還できるようにすることが柱となる。

飯田）紛争から逃れた人らを難民に準じて保護する「補完的保護対象者」制度、準難民制度などとも言われますが、これも盛り込まれているそうです。採決についての混乱、審議妨害などの報道もありましたが、法律の中身についてはどうご覧になりますか？

難民条約での「難民」は革命などの影響で万単位で国境を越えてくる人々　～「出稼ぎ」のような経済難民は含まれない

兼原）いくつかの大事な話が入っているのですが、経済難民はダメなのですよね。出稼ぎの人は難民ではないので、「滞在したい」と言っても受け入れられないのです。

飯田）きちんとした手続きをして欲しい。

兼原）何回も何回も難民申請されても困るわけです。難民申請中は日本にいられるので、そのための難民ビジネスもあるくらいです。

飯田）しかも、いまは働けるようになっていますからね。

兼原）それは「ダメだ」となっているのですが。他方、難民条約が定める「難民」は範囲が狭いのです。ヨーロッパ方面では革命などが起きると、万単位で人が国境を越えて動いてしまいます。これが本当の難民なのです。

飯田）革命などから逃れてくる人たち。

兼原）日本は島国なので経験が少ない。ヨーロッパなどの場合、革命などから逃れてきた人を帰してしまうと、例えば共産主義革命が起きた場合、国によっては殺されることもあるのです。

飯田）そうですよね。

兼原）だから、「もう帰れません」という方々に対して「帰してはいけないだろう」というのが難民条約です。これに出稼ぎの人は入りません。

準難民

兼原）ただ、いまのウクライナのように、帰ったら「お前はロシアにつくのか、ウクライナにつくのか」と言われて、「ロシアにつく」と言わないと殺されてしまうような場合、帰すことはできない。また、クライナ側にいてもロシアからの攻撃があり、帰ったら危ないので帰せないですよね。しかし、この場合、難民にはならないのです。

飯田）規約上は難民にならない。

兼原）政治的な信条や人種で差別されるわけではなく、単に戦争があるだけなので。しかし、それではかわいそうですから、「準難民」という項目をつくったのだと思います。これはいいことだと思います。

エッセンシャルワーカーが不足する日本　～移民の問題をどうするか

兼原）一方で、移民をどうするかという別の大きな問題があります。いまの日本では、エッセンシャルワーカーが本当に足りないのです。年間約135万人が亡くなっているのに、出生数は80万人足らずですからね。

飯田）日本の人口は。

兼原）仕事ができる人が減っているわけです。いまは約250万人の外国人労働者に働いてもらっています。先進国では労働者の約1割が外国人です。アメリカは基本的に全員が移民ですけれど、ヨーロッパでも1割くらいは移民です。日本でも、もう少し外国の方々を受け入れないと間に合わなくなっていますので、技能実習などはもうやめようと言われています。「技能実習」と言っていますが、本当は働いているわけではないですか。

飯田）技能実習だけれど。

兼原）はじめから「働いていただく」という方向で入ってもらえばいい。私は入管法の改正は、基本的にはいい方向に進んでいると思います。

特に地方では外国人労働者がいなければ成り立たない

飯田）労働力不足の部分を省力化などで賄えるのか。「賄えないならどうするのか」というところですか？

兼原）ホワイトカラーの仕事は今後、AIに代わるところが出てくると思いますが、エッセンシャルワーカーの仕事はAIにはできません。基本的に人の数が足りないのです。特に地方ですよね。

飯田）地方。

兼原）東京にいるとわかりませんが、地方に行くと多くの外国人が働いています。

飯田）農業もコロナ禍で外国から人が入れず、立ち行かなくなったところもあるようですね。

兼原）EUもそうですよ。ポーランドなどの地方の国から来た人たちが、先進国の農場などで働いているので、止められると動かなくなってしまうのです。