ASEANにおける日本の役割は「町内会の会長」のようなもの

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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が6月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。南シナ海で合同軍事演習を行うことで一致したASEANについて解説した。

ASEANにおける日本の役割は「町内会の会長」のようなもの

オンラインで行われた、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議に出席する茂木敏充外相(画面上左から2人目)ら=2021年8月3日午後3時34分、東京・霞が関の外務省(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

ASEANが南シナ海で9月に初の合同軍事演習へ

東南アジア諸国連合(ASEAN)は6月7日、インドネシアで軍トップによる会議を開いた。すべての加盟国が参加して、2023年9月にも南シナ海で合同軍事演習を行うことで一致した。

中国に対して距離感のある国、近い国に分かれるASEAN諸国

飯田)海上での警備や、海難救助などでの連携を図るのが狙いとされています。ASEANの合同軍事演習ですが、国によって温度差がありますか?

兼原)基本的には中国に対して距離感のある国と、距離感の近い国とに分かれるのですよね。彼らは彼らでまとまって米中にやられないようにしたい、独自性を持ちたいと思っているのですが、米中からすれば、そこは草刈り場になるわけです。

飯田)米中の。

兼原)だから「自分たちでまとまらなくては」という気持ちがあるのだと思います。海側のインドネシアやフィリピンは元寇にやられていないので、私たちと一緒で中国に対して距離感があるのです。

飯田)元寇までさかのぼるのですね。

兼原)それ以外の国は朝貢国家だったので、どうしても「中国の方が偉い」という感じがある。しかし、ベトナムは中国が大嫌いです。

飯田)ベトナムは。

兼原)共産系同士なのですけれども、すぐ侵略されるので中国に対して厳しいのです。タイは親近感が強いですよね。人種的にも混ざっているのと、彼らは中国文明の人たちなのです。

飯田)華人資本もかなりあると言われています。

兼原)福建省などから向かった人たちと混ざってできた国なのです。最近だとミャンマーも、軍事クーデターで制裁を掛けられているから、どうしても中国に寄ってしまう。小さい国は可哀想ですけれど、中国には逆らえません。ラオス、カンボジア、ブルネイですね。

飯田)ブルネイもですか?

兼原)ブルネイは海底油田の地域が中国の九段線に引っ掛かってしまうのです。逆らうと中国にやられてしまうので、逆らえません。

海上警備や海難救助など、警察系の柔らかいところでまとめる

兼原)放っておくと端から中国に食われていくので、彼らは彼らでまとまっていたいと思うわけです。シマウマもまとまってライオンの狙いを蹴飛ばします。ただ、軍事同盟ができるほどまとまりがあるわけではないので、海上警備や海難救助など、警察系の柔らかいところで進めるのでしょう。

飯田)あまり本格的な軍事の話になると、センシティブになってしまう。

兼原)中国に対して近い国とそうでない国があるので、まとまらないのだと思いますよ。

ASEANの海上警備や海難救助などに影響力が強い海上保安庁

飯田)ASEANの海上警備や海難救助などには、海上保安庁が能力構築支援など、いろいろと関わっていますよね。

兼原)日本の海上保安庁は軍とは違い、水上警察という独自の組織ですので、「そういうことをやりましょう」とアジアに兄弟をつくって回ったのです。その辺りでは、海上保安庁は海上警察の兄貴分なのです。

飯田)海上保安庁が。

兼原)海難救助については誰も文句を言えませんし、人道的な義務なので敵も味方もない世界です。これをやっている限りは文句を言えません。

ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピンが中心となってまとまる

飯田)ただ、台湾有事や米中が角を突き合わせてくる方向になると、まとまったままでいられるかどうかが課題ですか?

兼原)まとまっていないと、1対1ではやられてしまいます。中国は南シナ海全域を「自分のものだ」と言っていますが、南シナ海は地中海くらい大きいのです。

飯田)地中海くらいですか。

兼原)それを全部自分のものだと主張している。「何を言っているのだ?」とみんな思うわけですが、中国は本気なので、沿岸部がまとまるのです。ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピンですね。彼らが中心になると思いますけれど、南シナ海各国を中心にまとまらないと「やられてしまう」ということだと思います。

南シナ海は銀座4丁目の交差点のようなもの ~そこを「自分のものだ」と言う中国をみんなで集まって阻止する

飯田)日本のアプローチとしては、どうすればいいのですか?

兼原)南シナ海は公海です。中国が自分のものだと言っているところを、「みんなで自由に使おう」という考え方ですから、私たちも大歓迎だと思います。

飯田)その原則をきちんと表明する。

兼原)南シナ海は銀座4丁目の交差点のようなものです。交通が輻輳(ふくそう)するので、自分のものだと言われてバリケードを張られたら困るのです。

飯田)いきなりカラーコーンを立てて、「俺のところだぞ」と。

兼原)それを中国がやり始めているので、みんなで「いい加減にしてくれ」と示す。こういうことを集まって行うのはいいことだと思います。中国は大きいので、バラバラで動いてもやられてしまうのです。

ASEAN各国をまとめるのが日本の役割

兼原)中国は逆に、1つひとつを分断したいのです。

飯田)個別に撃破していきたい。

兼原)それに対して、弱いものがまとまる。私たちも「皆さんとまとまりなさいよ」ということだと思います。

飯田)日本としては、まとまるための旗振り役として、いろいろな形で突き付けていくべきですか?

兼原)大きな勢力があるのですけれど、町内会でまとまって「皆さん、皆さん」と言っていないと、最後は「では会長さんが行ってください」という話になってしまいます。そのときは日本とクアッドになると思いますが。

飯田)日本、アメリカ、インド、オーストラリア。

兼原)大きい国が行かないと、小さい国は怖がって行きません。「皆さんのご意見をまとめて聞いている」というのが大事なのですよ。

飯田)「うちが言っているのではなく、皆さんの総意です」と。

兼原)そうです。みんなが使っている道ですし、1人がカラーコーンを置いて「入ってくるな」と主張したら、「何を言っているのだ」とみんなで言わなければいけないのですよ。

「人権・民主主義・制裁」と言ってしまうと、反発が出る

飯田)この指とまれのスローガンとして、「自由で開かれたインド太平洋」を使う。

兼原)そういうことです。「うちの町内会の旗はこれでございます」と。

飯田)「民主主義」として進めると、「うちは家柄的に違うのだけれど」という国が出てきてしまう。

兼原)そこが難しいところです。彼らはとりあえず民主主義の方に来るのですが、まだ経済発展の方に関心があるのです。また、西洋の国は制裁を掛けがちですが、それだと「あなたたちは19世紀に何をしたのだ」と言われてしまうわけです。ヨーロッパの19世紀の歴史は真っ黒ですから。

飯田)植民地をつくって。

兼原)当時の彼らは民主主義でしたが、内部は民主主義でも、外には植民地をつくってきた。その部分を綺麗にして、「みんな変わったのだ」と言わなければいけません。

上から目線ではなく法の支配に基づく国際秩序ということ

兼原)自由や民主主義に肌の色は関係ない。「皆さんだってそうでしょう」と言わなければいけないのです。

飯田)なるほど。

兼原)「人権・民主主義・制裁」と言ってしまうと、反発が出ます。だから最近はヨーロッパ人も「法の支配に基づく国際秩序」と言っているのです。「ルールベースド・インターナショナル・コミュニティ」と言うのですよね。

飯田)法の支配に基づく国際秩序。

兼原)「約束を守ろう」というところから入っています。「殴るのはやめよう」とか「約束を守ろう」から入っていくと、みんな反対しないのです。

飯田)約束を守ることには。

兼原)工夫してグローバルサウスの上の方を取り込んでいかないと、あまり偉そうに上から目線でいたら、みんな離れてしまうわけです。すごく大事なことです。いま日本の外務省も、岸田さんもとても気を使っていると思います。尻馬に乗って「人権が」、「制裁が」などと言っても、いいことはありません。ミャンマーのようになってしまうと制裁しかないのですけれど。

飯田)そこまでいかないようにする。

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