数量政策学者の高橋洋一と防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が6月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。NATOと日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドとの新たな協力計画について解説した。
NATOが日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドと新たな協力計画 ~連携についてアップデートが必要な時期
北大西洋条約機構(NATO)は、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国と新たな協力計画をつくることがわかった。サイバーセキュリティや宇宙、偽情報対策など安全保障に関わる分野で連携を強化する。
飯田)NATOとの連携については、いろいろと言われていますが、やはり重要なことですか?
高橋杉雄)協力計画というのは、具体的に「これをやりましょう」と書くものです。前に決めたのは2014年ですから、アップデートが必要な時期ではあると思います。
飯田)時期的にもアップデートが必要。
杉雄)ロシアとの関係で、日本、あるいは韓国もそうですが、極東でロシアと向かい合っています。そういう意味で、再定義と言うと大げさですが、メニューをつくり直すタイミングではあります。
独自の存在感を出すような動きをするフランス ~NATOの東京事務所開設に反対
飯田)G7広島サミットの前あたりには、NATOの東京事務所を開設するという話もありました。しかしG7が終わったあと、フランスのマクロンさんが「反対だ」とする報道も出ましたが。
高橋洋一)C国に言われたのではないでしょうか。「G7のときに言えよ」とは思いますけれどね。
飯田)NATO内部も一枚岩ではないのですか?
杉雄)NATO加盟国は現在、31ヵ国もあります。一般論からすれば一枚岩ではないですよね。フランスの場合、NATOは北大西洋条約機構ですから、北大西洋なのだということ。一方では、フランス自身が太平洋艦隊を持っていることもあり、日本との安保協力には積極的なところもある。少し複雑で読みにくい動きではあります。
飯田)NATOの話と自国の動きは「また別だ」と。
杉雄)フランスは一時期、軍事部門から手を引いていましたし、いまもNATOの核の部分には入っていません。その意味では、フランス独自の存在感を出そうとするような動きもあるのだと思います。
7月のNATO首脳会議には岸田総理も出席調整 ~憲法9条によって現状ではNATOに入れない日本
飯田)7月にはNATO首脳会議が行われますが、報道によれば岸田総理も出席すると言われています。首脳会議に行って話すことは大切ですか?
洋一)それはそうでしょう。国連が機能していないから、安全保障のことを考えると何らかのつながりがあった方がいいので、NATOの方に行くのが普通ですよね。そちらの方が戦争確率は明らかに減ります。
飯田)戦争確率は減少する。
洋一)でも日本は憲法があるから、NATOに入れないのです。こういうところからも、憲法改正まで持っていかなければならないと思います。実際、この4ヵ国のなかでも日本だけ憲法が違いますから。
飯田)日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドのなかで。
洋一)同じような位置付けなので、なるべく遅れないようにしてもらいたいです。
飯田)日本にはいまのところ憲法9条がある。集団的自衛権に関しては、一部の行使を容認する形になっていますが、NATOで行われるようなフルスペックのものは難しい。
洋一)議論があるし、難しいかも知れませんよね。
NATOのような多国間同盟よりも二国間同盟の方が柔軟に事態に対処できる
飯田)東アジアにおいて集団的自衛権的に、お互い守り合うような機構は可能性として考えられるのでしょうか?
杉雄)日米同盟がありますからね。ただ、ヨーロッパのような多国間同盟、例えばNATOのように31ヵ国もある同盟が機能するかと言うと、そうでもありません。
飯田)多国間同盟が。
杉雄)ヨーロッパにはNATOと欧州安全保障協力機構(OSCE)という2つの多国間枠組みがありますが、ユーゴ内戦、コソボ空爆、ジョージア侵攻、ロシア・ウクライナ戦争という形で、ここ20~30年の間でも多くの戦争がありました。
飯田)冷戦が終わったあとで考えてもそうですね。
杉雄)アジアの場合は二国間同盟の束です。朝鮮半島については米韓同盟。台湾は米台プラス日米同盟。南シナ海については、アメリカ、オーストラリア、フィリピンという形で、それぞれ最適化した形で対応できるので、いまの形の方がいいと思います。
飯田)二国間同盟の方が柔軟に事態に対処できる。
杉雄)日本・アメリカ・オーストラリア・韓国・フィリピンが全部1つの同盟にあったとして、例えば南シナ海問題を考える際、韓国がどれぐらい当事者意識を持つのか。あるいは朝鮮半島問題について、フィリピンがどれだけ意識を持つかと言うと、そこは怪しいものがあります。「その国のいちばん大事な問題」に対し、アメリカとの同盟で関わっていく方がいいのだと思います。
NATOにとっても深刻な中国の問題 ~岸田総理のNATO首脳会議への参加は重要
飯田)いまウクライナに関して、ある意味、NATOは直面しているような状況です。しかしNATOのなかには、むしろこちらに集中すべきだという議論もあります。どちらがアメリカを引っ張り込むか。「東アジアなのか、ヨーロッパなのか」という関係にも見えますが、アメリカとしては、二正面だけはやりたくないのでしょうか?
杉雄)アメリカにおいて最優先の戦略が中国であることは変わっていません。いまはロシアと関わりたくないわけです。ロシアの問題はヨーロッパの問題なのだから、「ヨーロッパで片付けるべきだ」という議論もあります。
飯田)ヨーロッパのなかで片付けるべきだと。
杉雄)フランスのマクロン大統領が中国を訪問したとき、不規則発言のようなものが出ましたが、もしフランスが本当にアジア太平洋の戦略に貢献するならば、ウクライナを積極的に支援し、とにかく早くこの戦争でウクライナを勝たせるべきです。
飯田)ウクライナを支援して。
杉雄)「NATOはヨーロッパに集中すべきだ」という考え方は間違っていません。ただ、中国の核ミサイルはヨーロッパにも届くので、NATOにとっても中国はかなり深刻な問題です。
飯田)そうですね。
杉雄)その意味からも、NATO首脳会議に日本が出席し、中国に関して協力を進めるために議論することは、重要なことだと思います。
中距離核戦力を配備するよう求めた1970年代のヨーロッパの状況に近い東アジア情勢
飯田)ネットワークを広げるのは、戦争確率を減らすことになりますか?
洋一)「二国間でいい」ということですが、私はどちらかと言うと多々益々弁ずで、「いろいろなものがあってもいい」と思います。二国間は否定しませんが、アメリカもあてにならないときがありますから。
飯田)力も昔ほどではないし。
洋一)イギリスなども含めてなるべく広く、いろいろな関係がある方がいいと思います。
飯田)冷戦期のドイツが中距離核ミサイルをヨーロッパ正面に「配備する、しない」というとき、「狙われるのはドイツだけではないか」と大いなる危機感を持って、引きずり込もうとしたユーロミサイルがありました。いまの東アジア情勢を見ると、当時のドイツのような危機感を日本も持つべきなのでしょうか?
杉雄)私は持つべきだと思います。中国はあと十数年すれば、1500発ぐらいの核弾頭を持つと言われています。中国が1500発の核弾頭を持てば、「米中の核の共倒れ」という状態が生まれます。
飯田)米中の。
杉雄)状況としては1970年代、ヨーロッパで中距離核戦力を配備するよう求めた状況に近いわけです。そういうときにどうするのかは、日本人自身が考える必要があります。アメリカは答えをくれませんから。
核共有するかどうかは日本人自身が決めること ~何があれば安心できるのか
飯田)亡くなられた安倍元総理は「核共有」の話を出していました。一方で「日本は核武装するのか」という議論もありますが。
洋一)武装ではありません。よく安倍さんとも話しましたが、核共有がないのは弱い同盟なのです。
飯田)核共有がない同盟は。
洋一)核武装ではなく、せめて非核三原則を「2.5」か「2」ぐらいにするというレベルですけれども。
飯田)「持ち込まない」の部分を。杉雄さんはいかがですか?
杉雄)核共有と言っても、アメリカが反対しているときに勝手に核を撃てるわけではありませんから、現状と変化はないのです。
飯田)日本の独断では使えない。
杉雄)一部の核兵器を自分の領土内に置き、核兵器の機密情報については共有する。その核兵器については一緒に使う決断をするので、使う責任を共有するという意味もあります。
飯田)核を使用する責任。
杉雄)一義的には「同盟が強い」ということを見せる意味があるのと、同盟国を安心させる意味もあります。ところが同盟国、つまり「日本人は何があれば安心できるか」というのは、日本人自身が決めることです。
飯田)日本人自身が。
杉雄)日本人自身が「核共有がなければ安心できない」という考え方であれば必要なのでしょう。核共有は核弾頭を自国領土に置くということですから。逆に「それでは安心できない」という方針なら、別の方法を考える必要があると思います。
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