女性とトランスジェンダーの「権利の衝突」を調整するのが「政治の仕事」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が6月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。6月23日から施行されるLGBT理解増進法について解説した。

女性とトランスジェンダーの「権利の衝突」を調整するのが「政治の仕事」

2023年2月17日、LGBTに関する関係者との会合 挨拶する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202302/17lgbt.html)

「LGBT理解増進法」が23日施行、内閣府に担当部署

政府は6月20日の閣議で、LGBTなど性的少数者への理解増進法を23日に施行すると決定した。また、内閣府に10人ほどの担当部署を設ける予定。

飯田)16日の参議院本会議で自民、公明、維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

佐々木)これだけ反対が多方面から出た法律も珍しいですね。右も左もこぞって反対という。

飯田)そうですよね。

佐々木)あくまで理念法なので、「急に事態が変わることはないだろう」というのが、法案を提出した自民党議員の説明でした。

「性自認至上主義」と言わざるを得ない事件が起きている欧米

佐々木)法案の条文は若干修正されましたが、懸念されていたのは「性自認」という言葉が入っていて、性自認だけだと手術を経ていないような人でも、「自分は女性だ」と言い張れば女性として扱われてしまうところです。

飯田)性自認。

佐々木)「トランスジェンダリズム(性自認至上主義)」という言葉もあります。この言葉を使うと、今度はトランスジェンダーの方々から「それは差別用語だ」と怒られるのですが、ある意味、「性自認至上主義」と言わざるを得ない事件が欧米などでは起きています。

飯田)そうですね。

佐々木)スコットランドでは、女性をレイプした男が「自分は女性だ」と主張し、女性刑務所に入れられた問題がありました。また、「トランスジェンダーだ」と称する男性が女性用浴場に入り、小さな女の子の前で性器を勃起させたという事件も起きているわけです。

風呂場やトイレなどで起きる「生まれながらの女性」とトランスジェンダーの人の権利の衝突 ~そこを調整するのが政治の仕事

佐々木)そういうことが起きてはいけない。しかも、日本でもいわゆる「シス女性」と呼ばれる生まれながらの女性側から、お風呂やトイレに「性自認が女性」とする男性が入ってきたら、「恐怖である」という申し立てがたくさん出ているわけです。

飯田)生まれながらの女性から。

佐々木)ある種の権利の衝突が起きている。トランスジェンダーの方々の権利を擁護するのは当然ですが、一方、シス女性との間で権利が衝突する可能性があるなら、「それを調整するのは政治の仕事だろう」と思うのです。

飯田)権利の衝突を調整するのは。

佐々木)そこを調整せず、「そんなことを言うのはトランスジェンダー差別だ」と言うのはどうなのでしょうか。

飯田)「ヘイトだ」など。

「性自認」を「ジェンダーアイデンティティ」に修正 ~「差別は許されない」は「不当な差別はあってはならない」に

佐々木)「トランスジェンダーの法律に反対するのは、自民党の保守系だけだ」と言う人もいます。

飯田)「差別主義者ではないか!」と。

佐々木)「それは違うのではないか」と言う批判が多かった。でも、結果的に条文から「性自認」という言葉をとりあえず外して、「ジェンダーアイデンティティ」と、カタカナにしてしまったのですが。

飯田)ジェンダーアイデンティティと。

佐々木)「差別は許されない」というところは「不当な差別はあってはならない」と少しマイルドに変え、一応は通す方向になったわけです。理念法としてはあっても構わないと思いますが、「もう少し議論してもよかったのでは」という感覚は否めないですよね。

反対しているのは保守派だけでなく、フェミニズムの研究者が反対論を張っている ~議論が嚙み合わないまま終わってしまった

飯田)不安を解消する形の議論ではなく、「不安を覚えて反対する人たちは差別主義者だ」というようなレッテル貼りになってしまい、議論にならなかったですね。

佐々木)朝日新聞や毎日新聞、東京新聞などは一貫して「反対しているのは自民党保守派」など、「保守派の反発」と言っています。

飯田)反対しているのは保守派であると。

佐々木)しかし保守派だけではなく、実際にフェミニズムの理論的支柱であるような女性の研究者なども、反対論を張っているわけです。

飯田)フェミニズムの研究者が。

佐々木)フェミニズムの研究者が反対していることを「自民党保守派が反対」と言うのか。完全な左派ではないかと思うのだけれど、議論が噛み合わないまま終わってしまった感じはあります。

何となく「強引に採決した」というイメージだけが残ってしまう

飯田)入管法もそうですけれど、「賛成・反対の真ん中の妥協点を探る」というよりは、お互いの主張をぶつけ合ったまま「正面衝突して終わる」という状況が多い気がします。

佐々木)そうなのですよね。結果的に強行採決ではないけれど、何となく「強引に採決した」というイメージだけが残ってしまうのはよくないですよね。

「女性の権利をどう守るか」というガイドラインをつくる

佐々木)この件に関しては、それこそ自民党保守派の議員たちが「女性の権利をどう守るかに関するガイドラインをつくろう」という話を始めており、それはいい方向だと思います。

飯田)女性の権利をどう守るか。

佐々木)理念法なので、これはこれでそのまま成立します。

「東急歌舞伎町タワー」の「ジェンダーレストイレ」の例 ~今後のトイレの在り方をもう1度議論するべき

佐々木)その上で今後、お風呂やトイレなどをどうするのか、もう少し議論を進めなければいけない。特に東京・新宿の「東急歌舞伎町タワー」で……。

飯田)ジェンダーレストイレができましたが。

佐々木)大炎上して、結果的にジェンダーレストイレではなくなりました。

飯田)女性用に振り分けることになった。

佐々木)あのようなことをすると「どういうハレーションが起こるのか」という、1つのケーススタディーになったわけです。その辺りの議論をもう1回深めて、今後のトイレの在り方も考えた方がいいと思います。

飯田)今後のトイレの在り方を。

佐々木)実際、東京でもそうなのですが、6割くらいの公共トイレで女性用トイレがなくなりつつあります。要するに男女共用トイレ、多目的トイレになっている。

飯田)多目的トイレに。

佐々木)多目的トイレを増やそうとすると、どうしてもスペースが必要なので、女性用の個室を減らさざるを得ないというスペース的な事情もありますが、「女性専用トイレをなくすことが本当にいいのかどうか」も考えなくてはいけない。不安を感じる女性もたくさんいるはずなので、もう少し議論を深めて欲しいと思います。

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