安倍元総理は2024年に「再々登板」を考えていたのではないか

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が7月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。安倍元総理の中国外交について解説した。

安倍元総理は2024年に「再々登板」を考えていたのではないか

自民党総裁選の支援大会で講演する安倍晋三首相(党総裁)=2018年8月31日午後 写真提供:産経新聞社

中国が最も恐れた政治家、安倍晋三元総理

7月8日で安倍晋三元内閣総理大臣の一周忌となる。日本外交の最大の課題とも言える対中外交にフォーカスし、安倍外交を振り返る。

飯田)安倍元総理の一周忌にあたり、各月刊誌などがさまざま特集を組んでいますが、峯村さんは「中国が最も恐れた政治家」というテーマで『WiLL』に寄稿されています

峯村)安倍元総理とは生前、国際情勢を中心によくお話をさせていただきました。安倍氏の外交については後世にも伝えるべきだと思い、記事を書かせてもらいました。

自民党部会での「台湾問題」についての講演資料を安倍元総理に届けた際に説明 ~そのときに発したのが「台湾有事は日本の有事ではないのか?」

峯村)印象に残っているのは、安倍さんが言っていた「台湾有事は日本の有事」という言葉です。このきっかけとなったのが、私が台湾問題についてメディアで発信した2020年に、自民党の部会での講演でした。

飯田)2020年に。

峯村)その講演の内容を安倍さんが聞いたらしく、「峯村さん、悪いけれど私にも資料をもらえる?」と言われたのです。資料をお持ちした際、「よかったらご説明しますよ」と言って、1時間半くらい説明させていただきました。

飯田)安倍元総理に。

峯村)例えば、「内部文書には米軍基地や自衛隊にミサイルを撃って、先制攻撃するというのもあるのですよ」と話すと、メモを取ったり、その部分に線を引いたりしていました。そして、しばらく考えてから、「台湾有事は日本の有事ですよね?」とおっしゃったのです。

重要な年になる「2024年」に丸を記していた安倍元総理 ~自身の再々登板を考えていた可能性も

峯村)「まさにおっしゃる通りです」と答えました。この時の講演内容は、「2024年に台湾有事が起こる」という前提でシナリオを中心としたものでした。

飯田)2024年ということは、来年ですか?

峯村)そうです。「2024年が危ないのではないか」ということを、この時点で言っていたのです。2024年1月には台湾の総統選があり、11月にはアメリカの大統領選もある。だからこそ、台湾情勢は2024年~2025年はかなり緊迫するのではないかという話をしました。私の説明を聞いた安倍さんは2024年のところにクルクルと丸を付けていました。

飯田)年号に。

峯村)2024年というところに一番反応されていたのですね。そして、「峯村さん、2024年のとき、この国のリーダーが誰であるかは非常に重要ですよね」とおっしゃったのです。いま思えばですが、2024年は岸田政権の任期が終わるときですよね。

飯田)2024年は総裁選もある年ですね。

峯村)いま思えばですけれど、もしかしたら、「再々登板」を意識されていたのかもしれません。2024年にすごい勢いで丸を付けていたことを鮮明に覚えています。

飯田)そのくらい来年(2024年)は重要な年になる。

峯村)重要な年ですね。「2024年に誰が首相となって有事に対処するのか。これが重要ですよね」と呟いていたのが印象的でした。誰が2024年のリーダーになり、この国を導いていくのか、本当に心配です。

台湾有事は既に始まっている

飯田)1月には台湾の総統選があり、ここに対して、中国はどういう工作を仕掛けてくるのか。

峯村)2024年に向けて、もう動きは始まっています。例えば、日本の製薬会社の幹部が拘束された案件もその一環ですよ。

飯田)その一環ですか。

峯村)2022年8月にペロシ元下院議長が台湾へ行ったあとに中国軍が実施した台湾「封鎖」演習もまさにその一環といっていいでしょう。台北の上空を越えるようなミサイル演習を行って、一部は日本の排他的経済水域に着弾したのですから。もはや有事が起きるか起きないかではないのです。「もう始まっているのだ」という認識を、なぜ皆さんが持たないのかがわかりません。

飯田)もう始まっている。

峯村)有事というのは「ドンパチ」が始まることではないのです。ジワジワと進めてくるのが中国式のやり方です。各地で講演すると、未だに「有事は起こらないですよね?」と聞かれるのですが、「もう起きている」というのが私の持論です。

90%以上は中国の話をしていた安倍元総理

飯田)安倍さんは当時、その辺りの世論戦にどう対応していくのかも考えていたのですか?

峯村)当時、何度も外交の話をしましたが、90%以上は中国のことでした。「どう習近平国家主席を御していくのか」をずっと考えていらっしゃったのではないでしょうか。

安倍元総理は2024年に「再々登板」を考えていたのではないか

2019年12月23日、習近平国家主席との日中首脳会談~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201912/23china1.html)

安倍対中外交の神髄 ~強く出る一方でプラグマティックに

飯田)しかし、対峙するばかりではなく、1次政権でいちばん最初に行ったのはアメリカではなく中国でした。政権末期には習近平氏を国賓として日本に招くために動いていました。自民党内では反対も多かったですけれども。

峯村)私のイメージとしては小泉元総理的と言うか、対中ではイデオロギー的に強く出る。

飯田)靖国神社へも行くというような。

峯村)一方では田中角栄さん的でもあり、プラグマティックな両方の側面があるのです。「安倍対中外交」の神髄はそこにあったと思いますね。だからこそ、安倍さんご自身が半分冗談、半分本気でおっしゃっていたのは、「二階さんに感謝しているのです。二階さんがパイプ役として中国に対するいいメッセージを出してくれて、困るといつも訪問してくれる」と。これは本当にありがたかったとおっしゃっていました。

飯田)なるほど。

峯村)二階さんは安倍さんとは対中観が全然違うのに、なぜああいう人を据えているのだろうと思い、聞いたことがあるのです。

飯田)安倍元総理に。

峯村)「二階さんのような人が要職にいるから、私が各方面で中国の悪口を言っても大丈夫なのですよ」とおっしゃっていました。そういうことがさらりとできてしまう。本当の硬軟両面を持っていらっしゃったのですね。

習近平氏とフランクな関係の一面も持っていた

飯田)二階さんとの関係も、戦略的互恵関係と言われましたが。

峯村)一帯一路のサミットにも、当時の今井政務秘書官を送りました。

飯田)しかも、親書を携えて行きましたものね。

峯村)あの後、習近平氏の態度が変わったと安倍さんは言っていました。その前は仏頂面で会っていたのですが、あのあとは習近平氏との関係がかなりできているのです。

飯田)回顧録にも、そのあとはフランクにいろいろ話していたという内容が出ています。

峯村)これも回顧録で出ていたと思いますが、習近平氏がアメリカ人だったら、共産党だったかどうかというような話がありましたよね。

飯田)ありましたね。

峯村)あれには後談があって、「習近平さんがもし日本人に生まれていたら自民党ですよね」と安倍さんが言い、大ウケしたというような話もあります。

飯田)「アメリカだったら共和党か民主党か、どちらにせよ政権を獲る」という話を習近平氏がしていたと。

峯村)「日本だったら自民党だね」などと話すような関係をつくれたということです。

マッドマンセオリーが安倍外交の神髄

飯田)角を突き合わせるばかりではなく、習近平氏相手にも懐に入るやり方をしていたのですね。

峯村)そういうことです。喧嘩なら誰でもできるわけです。また、中国にひざまずくだけということも、誰にでもできます。

飯田)中国に対して。

峯村)そうではなく、両方やる。まさに「狂人理論(マッドマンセオリー)」が安倍外交の神髄です。マッドマンセオリーというのは、バカなふりをして、何をするかわからない、相手を揺さぶることです。

飯田)ニクソン政権が対ソ連との関係性において、「もしかすると核を使うかも知れないぞ」と思わせたという。

峯村)そうです。だから私はニクソンさんと安倍さんが被るのです。保守党なのだけれど、プラグマティックにアプローチする。今回の記事でも、「マッドマンセオリーが安倍外交の神髄だったのではないか」という内容を書きました。

飯田)ニクソン氏の場合はキッシンジャー訪中になり、中国をアメリカ側に引き込んだ。

峯村)そういうことです。最初は中国に対し、カウンターパンチで強硬に対応しておきながら、揺さぶりをかける。外交の神髄はそこだと思います。どううまく駆け引きするのかを考え、相手を揺さぶることを地でやっていらっしゃったと思います。

岸田総理を高く評価していた

飯田)安倍外交の継承において、岸田さんはどうなのですか?

峯村)安倍さんは、岸田さんの外交も評価されていました。「安倍外交を支えていたのは岸田さんだ」とよくおっしゃっていました。

飯田)安倍政権の発足当初から外務大臣を務めていましたからね。

峯村)これも安倍さんから聞いた話ですが、「岸田さんは頑固なのだよね」とおっしゃっていました。当時のカウンターパートだった王毅外務大臣と、時間をオーバーして4時間~5時間もお互いをののしり合い、喧嘩したことがあったと言うのです。

飯田)怒鳴り合っていたらしいですね。

峯村)安倍さんから話を聞いて、外務省の人にも確認しました。

飯田)でも中国の人は、本音でぶつかり合う人をかえって評価しますよね。

峯村)そこで愛想笑いをしたら最悪です。やるときは、きっちり腹を割ってガチンコで対応することが重要です。

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