地政学・戦略学者の奥山真司が7月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。世界の原子力関連施設から排出されるトリチウムの年間処分量を比較した経済産業省の情報について解説した。
NATO首脳会議に合わせて日韓首脳会談開催へ
韓国政府は7月11日からリトアニアで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせ、出席予定の岸田総理大臣と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との首脳会談が行われる予定だと発表した。福島第一原発の処理水放出計画などについて協議される見通し。
飯田)処理水に関しては、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が日本へ来て、報告書も提出しています。
奥山)処理水には問題がないということで、放出はほぼ決定です。夏に始まると言われていますが、それをもとに、特に韓国と中国が騒いでいます。
経済産業省が世界の原子力関連施設のトリチウムの年間処分量の比較を図解付きでまとめる ~メディアがその情報を海外へ発信
奥山)「我々は処理水に含まれる放射能の影響を受けるのではないか」と風評被害を広げるようなことをしています。それに関して日本側は今回、メディアがいい仕事をしたのかなと思っています。経済産業省がALPS処理水について……。
飯田)多核種除去設備。
奥山)原子力関連施設のトリチウムの液体放出量(年間)を、大々的にメディアへ発表したのです。
飯田)トリチウムの液体放出量を。
奥山)経済産業省の情報を基に、読売新聞などが図を付けた形で解説しています。読売新聞の英語版などでは、世界の主な原子力関連施設のトリチウムの液体放出量を地図も出して比較しているのです。
福島第一原発のトリチウムの液体放出量の低さが海外でもツイートされる ~中国の原発からの排出量は日本の約2倍
奥山)この図を英語版にしたものが海外でもツイートされています。「日本の福島第一原発から出るトリチウムはたった22兆ベクレルだ」と。中国の原発からは52兆ベクレルのトリチウムが出ているのです。
日本の22兆ベクレルに対して韓国は50兆ベクレル、フランスは1京1400兆ベクレルの排出量 ~福島第一原発からのトリチウム排出が少ないことをアピールしたことで韓国は騒げなくなった
奥山)イギリスのセラフィールド再処理施設からは423兆ベクレルが出ています。フランスのラ・アーグ再処理施設に至っては、1京1400兆ベクレルです。兆の上の単位である京です。私たちは22兆ベクレルではないですか。
飯田)22兆ベクレルです。
奥山)フランスは1京1400兆ベクレルですから、「どれだけ出しているのだ」ということです。
飯田)そうですよね。
奥山)韓国側も、50兆ベクレルくらいは出しています。
飯田)古里(コリ)原発で。
奥山)比較すると、福島第一原発から出るトリチウムはとても少ない。IAEAももちろん科学的に調査してはいますが、そういうところをアピールしたことで、韓国側に騒がれなかったのです。ただ、韓国の野党は感情的に騒いでいる部分もあります。
「自分たちが何をしたいのか」を前提に話さなければ相手には通じない
奥山)国際社会のなかで前向きに、積極的に発言する姿勢は大事だと思います。私自身、ある大学で留学生に英語で教えています。あるとき、「日本の防衛についてどう思う? 日本はこれからどうしたらいい?」という内容を、日本人学生と留学生で話をさせたのです。
飯田)留学生と。
奥山)アメリカ人の女の子に対して、日本の学生が丁寧に「日本はどうしたらいいと思う?」と聞いたのですが、アメリカ人の子からは「私に聞かないでよ。あなたたちが決めることでしょう。私たちは知らないわ」と言われました。
飯田)アメリカ人の女の子に。
奥山)日本人は「相手の顔色を伺ってから自分の意見を決めよう」という姿勢が強いですよね。
相手の顔色を伺うのではなく、やりたいことを発信しなければ通じない
奥山)しかし、国際社会のなかでは、アメリカ人の生徒が言ったように「自分たちは何がしたいのか」を前提で話さないと、相手には「その人たちが何をしたいのか」は伝わりません。
飯田)我々が何をしたいのか。
奥山)我々はどうしても顔色を伺って最適解を選び、それを「私がやります」というように言いがちですが、本来ならば、厳しい国際社会のなかでは「発信してなんぼ」だと思うのです。
安倍元総理が発信した「自由で開かれたインド太平洋」 ~国際社会のなかでは積極的に発信しなければならない
飯田)先ほどの例でも、聞き方としては「私たちはこうしたいけれど、アメリカ側はどう思う?」と聞かなくてはいけないのでしょうね。
奥山)その通りだと思います。日本人は「主張がない」と言われ、変に気持ち悪がられているところがあります。
飯田)何を考えているかわからないという感じでしょうか?
奥山)「クアッドをやりたい」と言った元首相の方がいましたが、あのように自らが発信することで、世界をいい状況に変えていく。そういうことをしないといけないのではないかと、日本人学生と留学生の語りのなかから気付きました。
飯田)気質の違いのようなものでしょうか。自由で開かれたインド太平洋という枠組みを、日本がイニシアチブを取って決めていくような状況は珍しかったですからね。
奥山)いままでになかったパターンです。逆に、「あなたたちはそれがやりたいのですね。でしたら、私たちはそれに乗っかります」と言ってもらえるのです。国際社会のなかでは、どんどん発言・発信する必要があると思います。
一貫性のある理路整然とした発信をすることが大事
飯田)「情報戦の側面が多いのではないか」という記事が最近、読売新聞や日経新聞でも書かれています。処理水の海洋放出をめぐって批判している国には、「その国なりの政治的な意図のようなものがある」という情報戦の側面に関する解説もあります。中国は日米に少しでも楔を打つために、何でも使ってくる。
奥山)ところがアメリカも今回は日本を擁護していますし、ニュージーランドまで擁護してきています。日本は「君たち、多勢に無勢だよ」と言える。そのためにも今回、経済産業省が出してきたデータは大事なのです。
飯田)そうですね。
奥山)「我々も放出したい。データを見てください。これだけ少ないですよ」と言う。理路整然とした一貫性のある発言ができることが大事です。
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