地政学・戦略学者の奥山真司が7月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカがウクライナへの供与を発表したクラスター弾について解説した。
アメリカがウクライナへの供与を発表したクラスター弾とは
飯田)いよいよ北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれます。メインとなるテーマはウクライナの話でしょう。各国の支援状況や新しい武器をどうするのかなど、さまざま議論されていますが、最近は「クラスター弾」というキーワードが出てきました。
奥山)クラスター弾は非人道的なものだと言われているのですが、歴史的には第二次世界大戦から広く使われていました。
クラスター弾のなかの小型爆弾の多くが不発弾となり、その後、民間人が被害に
奥山)1つの砲弾のなかに多数の小型爆弾が入っていて、破裂すると小型爆弾が広範囲に飛び散る仕組みの兵器です。何が問題かと言うと、着弾しても相当数が不発に終わるのです。ソ連時代からつくられているロシア製のクラスター弾は、40%くらいが不発弾になると言われています。
飯田)40%。
奥山)多くの不発弾が爆発せず、地面に残ってしまいます。その一部によって民間人が被害を受けるのです。被害に遭った約97%が民間人であり、そのうち半分は子どもだと言われています。そのため「非人道的」だと判断され、世界的に使用を禁止する動きになっています。
生産や使用などを禁止する「オスロ条約」に世界の約半分の国が署名
奥山)地雷については90年代から禁止しようという話がありましたが、クラスター弾に関しては、2008年にオスロ条約(クラスター爆弾禁止条約)が調印されました。クラスター爆弾の生産、貯蔵、使用、移譲が禁止され、日本もそのときに所持や製造を止めることになりました。
飯田)日本も署名した。
奥山)その際、交渉を担当していた方に直接会いましたが、日本の島を防衛することを考えると、クラスター弾はとても効率がいいのだそうです。たった1発で大きな面積を制圧できるため、日本のように島を守るという点では、上陸した敵を制圧するためにはとてもいいと言われていました。
飯田)日本のような島国にとっては。
アメリカがウクライナに供与を決定した背景にある「リアルに物事を考えなくてはいけない時代になってきている」世界的な流れ
奥山)しかし、世界が「非人道的」だという方向へ動いているため、止めようという話になった。中国と韓国の人たちには、「日本はあんなに便利で効率のいい兵器の使用を止めてしまうのですか? 本気ですか?」と言われたそうです。
飯田)本気かと。
奥山)韓国がサインしていないのはなぜかと言うと、北朝鮮が入って来たときに一気に制圧できるからです。「人道と軍事的合理性」のバランスを取ることはとても大事です。
飯田)人道と軍事的合理性のバランス。
奥山)そういう意味では、日本はサインをしてしまいましたが、いまのアメリカは「ロシアに対して、ウクライナがクラスター爆弾のような非人道的なものを使うのも仕方ない」と判断したのです。「世界がリアルに物事を考えなくてはいけない時代になってきている」と感じざるを得ないですね。
ウクライナ戦争の収束のシナリオとして参考になるのは「朝鮮戦争のシナリオ」
飯田)署名した21世紀の初頭は、「冷戦も終わって久しい」という空気があったけれど、今回のウクライナ侵攻で完全に吹き飛んでしまった。大国同士のぶつかり合いも起きていますし、先が見えません。収束までのシナリオはあるのでしょうか?
奥山)収束のシナリオとして考えられるのは、朝鮮戦争のシナリオしかないと思います。
飯田)朝鮮戦争のシナリオ。
奥山)朝鮮戦争は1950年から3年間続いた戦争です。
戦線が膠着したのち、交渉が始まる
奥山)1950年~1953年までの3年間。最初に北朝鮮軍が入ってきて、釜山の周りまで一気に押し込まれたものの、実態はほぼアメリカでしたが、国連軍がいまの仁川空港の辺りから逆上陸し、一気に逆転しました。すると今度は中国が介入してきて……。
飯田)義勇軍ですか。
奥山)義勇軍という形で押し返された。その結果、膠着から2年間くらい交渉しているわけです。
飯田)2年間。
奥山)ウクライナ情勢においても、ロシアががっちり守りを固めているという意味では、朝鮮戦争のように、1度戦線が膠着したら交渉が始まるのではないかと思います。私はウクライナに勝って欲しいと思っていますが、冷静に考えると、戦線が固まれば交渉のようなものが始まる可能性があると思います。
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