地政学・戦略学者の奥山真司が8月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。7月下旬に起きたニジェールのクーデターについて解説した。
ニジェールの軍事政権が「ワグネル」に支援依頼か
7月下旬にクーデターが起きたアフリカ西部ニジェールで、軍事政権がロシアの民間軍事会社「ワグネル」に支援を依頼したと、AP通信が8月6日に伝えた。周辺国でつくる「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」は軍事介入も辞さない構えで軍事政権に退陣を求めている。
2021年に民主的な手続きによる政権移行が実現したニジェール
飯田)ニジェールの辺りには、もともと西側に近い政権があったのですが、そのような政権が倒されてきていた。
奥山)ニジェールは、直前までモハメド・バズム大統領が政権を運営していました。この地域では珍しいのですが、初めて民主的な手続きによる政権移行が実現し、評価も高かった方なのです。
飯田)それが今回のクーデターで失脚してしまった。
奥山)ニジェール周辺のサヘル地域一帯はテロ事件が増加していて、アメリカ軍1500人、フランス軍も2000人と言われる部隊が、イスラム系テロ組織への鎮圧作戦を展開しているところです。そういう意味では西側の橋頭堡というか、ここを足がかりにして、アフリカの秩序を保とうという最貧国の1つでもありました。
新たな軍事政権は西側ではなく、ロシアとワグネルへ支援要請
奥山)今回、新しく国家元首になったチアニ将軍は「無血クーデター」と言われるくらい、ほぼ血を流すことなく大統領を排除したのですが、それは彼が警護隊のトップだったからです。
飯田)大統領の警護隊トップだった。
奥山)クーデターを起こした国が何をするかと言うと、別の選択肢としてフランスやアメリカではなく、ロシアを選びました。
飯田)ロシアを。
奥山)そしてワグネルの軍事的支援を受け入れています。1950年代にフランス、イギリスという宗主国はアフリカに植民地がありましたが、そういうところが抜けたときに、彼らは「脱植民地」を掲げていた共産主義であるソ連を頼ったのです。そのように、西側からロシアにいくという構図が昔からあった。それが再現されています。
独立できたのはソ連から供給された機関銃のおかげ ~モザンビークの国旗に記されている機関銃の意味
飯田)イデオロギーなどは関係なく、武器をくれるところに近付いていく。
奥山)モザンビークの国旗には赤い三角形があるのですが、そこには黄色い星があり、さらに機関銃が描かれているのです。その銃は当時、ソ連から供給された武器なのです。
飯田)その機関銃が。
奥山)つまり、アフリカのいくつかの国は当時、ソ連に供給された武器によって独立することができた。「独立できたのは、ソ連から貰った機関銃があったからだ」ということなのです。
飯田)国旗に描くくらい。
奥山)国旗に機関銃を入れるというメンタリティはよくわかりませんが、独立を勝ち取ったのはソ連から供給された武器のおかげであり、それを国旗に記すところに、この地域の特殊性があるのです。
飯田)民主主義というようなことよりも。
奥山)力が大事だというところがあります。
気候変動により約80%の農地がなくなってしまったニジェール ~気温が3度上がると個人の暴力が4%上がり、集団暴動のリスクは14%上がる
奥山)もう1つ我々が注目しなくてはいけないのは、気候変動が絡んでいるのではないかということです。
飯田)気候変動。
奥山)この地域も気候変動が激しく、温暖化によってニジェールでは、約80%の農地が退化しています。なおかつ、国内消費における米の約95%、小麦はほぼ全量を輸入しているという状況もあり、そもそもダメージを受けやすい。それが政治不安につながっているのではないかと言われています。
飯田)なるほど。
奥山)2013年に研究者ソロモン・シアン氏が発表していますが、気温が3度上がると、個人の暴力が4%上がるという結果があります。さらに集団暴動のリスクは14%上がる。暑くなると我々はイライラしますが、それが暴力に影響するのです。
気候変動と紛争はつながっている
飯田)温暖化の影響が政治的なものにつながっていくのですね。
奥山)暑いと人間はイライラし、それが戦争につながるということは考えなければいけない。もちろん、気候変動は紛争の直接的な原因ではありませんが、食べるものがなくなって安定しなくなり、それが政治問題を引き起こす可能性もあるのです。
飯田)温暖化の影響によって北極海の氷が溶け、それで地政学が変わるという指摘もありますが、それだけではなく、人の気持ちがイライラすることによってリスクが上がることもあるのですね。
奥山)それが政治争いにつながり、紛争になるかも知れない。必ず政治というファクターは出てくるのですが、気候変動と紛争はある程度つながっているということを、我々は忘れてはいけません。
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