数量政策学者の高橋洋一が8月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。前年同月比1.6%減となった6月の実質賃金について解説した。
6月の実質賃金、前年同月比1.6%減 ~15ヵ月連続でマイナス
厚生労働省が8月8日に発表した6月の毎月勤労統計調査によると、現金給与総額に物価の変動を反映させた実質賃金は前年同月比1.6%減となった。名目賃金は伸びたものの物価高騰の影響が大きく、15ヵ月連続で前年を下回った。
飯田)物価と賃金の伸びの追いかけっこと言われますが。
高橋)追いかけっこと言うか、先に物価が伸びて、そのあとに賃金が伸びるのです。動きを見ていると、15ヵ月前から実質賃金がマイナスということは、2022年の初めぐらいからですよね。
年内には実質賃金もプラスへ転じる ~マイナスでもジグザグしながら少しずつ上がってきている
高橋)名目賃金が上がらずに物価が上がるから、実質賃金はずっとマイナスですね。おそらく今年(2023年)の初めぐらいにボトムになり、そこから上がってきている状況です。
飯田)なるほど。
高橋)上がってきているけれど、今月(8月)はまた少し下がりましたね。上がるときも一気に上がるのではなく、「上がり下がり」があって、上がっていくのです。そういうことから予想すると、年内ぐらいにはひっくり返るのではないかと思います。
飯田)マイナスからプラスに転じると。
高橋)そうだと思いますよ。一喜一憂と言うけれど、「15ヵ月マイナス」だと言うのなら、その数字を全部並べてくれたらわかります。今年の最初はマイナス4%ぐらいでしたからね。
飯田)前年同月比マイナス4%。
高橋)近かったですね。そのぐらいがボトムで、あとはジグザグしながら少しずつ上がっている感じです。
失業率が下がっても、計算上、初期段階では実質賃金は上がらない
飯田)実質賃金の話はいろいろなところで取り上げられますが、10年ぐらい前のアベノミクスの最初のころ、労働市場にいろいろな人が入ってきた段階でも「実質賃金が上がっていないではないか。賃金が下がっている!」と批判されたこともありましたね。
高橋)計算上、最初に入ってくる人の賃金は低いのです。
飯田)いままで働いていなかった人が、非正規やパートなどで入ってくるから。
高橋)それらが一巡していくと、段々上がります。実質賃金も下がってから上がるというパターンになります。
約15ヵ月分の実質賃金を並べれば、徐々に上がっていることがわかるはず
飯田)現状の失業率は2.6%ぐらいで、かつサービス業などに人が戻ってきており、人手不足が起こっているという話です。
高橋)賃金が上がり始めているのです。上がり始めているけれど、賃金は制度上、1年に1度しか上がることはない。
飯田)春闘の時期に。
高橋)賃金は1年に1度しか上がらないけれど、物価はいつでも上げられますからね。そういうところで差が出るのです。賃金の方が遅れるのは間違いありません。遅れると言っても、1年ぐらいの差を見ると結果的には全部取り戻しているから、私は全然心配していません。全部見てみれば動きがわかります。
飯田)1年ぐらいの動きを見れば、賃金の方も上がっているのがわかる。
高橋)約15ヵ月分の実質賃金を並べるだけで、今年の最初ぐらいがボトムになっており、それから上がってきていることがわかると思います。
海外が落ち着けば、物価は落ち着く
飯田)一方で物価の方の見通しですが、これは海外が落ち着いてくればということですか?
高橋)海外が落ち着いてくれば落ち着きますし、物価がそこそこ上がっても、名目賃金は遅れるのだけれど、それより少し上がるのです。生産性の部分がありますから、実質賃金については心配いりません。
飯田)心配いらない。
高橋)物価が「落ち着く、落ち着かない」に関わらず、名目賃金自体の伸びは、物価の伸びを少し上回るということがこれまでの経験則でわかっています。そういう意味では、物価が伸びてもなかなか実質賃金は上がらないけれど、最終的に放っておけばどこかでひっくり返り、実質賃金が上がるのです。
飯田)最終的には。
高橋)こういうことをわかりやすく説明したいなら、グラフを出せば一目瞭然です。
飯田)全体の流れが出てくる。
高橋)日本の新聞は、文字ばかりで図情報が少ないのです。図を出せば傾向値がわかります。
実質賃金が伸び、プラスに転じたあとは「放っておけばいい」
飯田)この先ですが、徐々に実質賃金が伸びていって「プラス・マイナス」が逆転する。そうなると、そのまま放っておけばいいのでしょうか? それとも政策的に加速させる必要などがあるのでしょうか?
高橋)加速させることもできるけれど、悪い方向に進んではいないから、放っておけばいいのです。日銀が金融引き締めを行ったりするでしょう? ああいうことはやらない方がいいのです。いまはいい状況だから、放っておくのが一般的です。
長短金利操作の柔軟化は意味がない ~インフレ率は1~3%の間にあればいい
飯田)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化なども打ち出しましたが。
高橋)意味がないでしょう。
飯田)意味がない。
高橋)やってはいけないような話です。みんなインフレ目標をあまり理解していません。2%でなければいけないと思うかも知れませんが、1~3%の間にあればいいのです。極端なことを言うと、3%を少し超えても大した話ではありません。
飯田)一時期、黒田さんは「オーバーシュート」と表現していましたね。
高橋)普通は気にならない。だからアメリカやヨーロッパなどは、インフレ率が4~5%ぐらいになってから引き締めの話をし始めるでしょう? その間は放っておけばいいのです。
飯田)4~5%ぐらいまでは。
高橋)はっきり言うと2~4%ぐらいの間は、ほとんどコストが同じくらいなのです。だから放っておいても全然構わない。なぜ放っておかないのか、私には理解できません。
飯田)「むしろ先手を打つのだ」というようなことを。
高橋)下手な鉄砲なのだけれど、これは「下手の考え休むに似たり」というやつですよ。
飯田)でも、ここでせっかくいい流れになったのに、潰してしまったら意味がないですよね。
高橋)いつも潰すのですよ。
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