国際問題アナリストで国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員の古川勝久氏が8月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。北朝鮮が予告した人工衛星の発射について解説した。
北朝鮮が人工衛星の発射を予告
海上保安庁は、北朝鮮から「人工衛星」を8月24日~31日の間に発射するとの通報があったと発表した。2023年5月に失敗した軍事偵察衛星の再発射と見られる。
アメリカ・韓国・日本に対して核兵器の使用を想定したミサイル戦力の構築を進めている北朝鮮 ~米韓連合軍や自衛隊の動きを監視する「偵察衛星の構築」が重要な課題として位置付け
飯田)人工衛星を発射するという予告がありました。これについて、どうご覧になりますか?
古川)北朝鮮は2019年以降、核戦力を大幅に近代化、拡充させる姿勢を鮮明化しています。具体的には、アメリカ・韓国・日本に対して核兵器の使用を想定したミサイル戦力の構築を進めてきました。
飯田)日米韓に対して。
古川)なかでも、米韓連合軍や自衛隊の動きを監視する偵察衛星の構築を、重要な課題として位置付けてきました。
飯田)偵察衛星の構築。
古川)5月に軍事偵察衛星を搭載したロケットを発射したのが、北朝鮮の西側の海岸にあるソヘ(西海)衛星発射場で、ここには2ヵ所の発射施設があります。おそらく5月と同じ発射場では、いつでもロケットが発射可能な状況にあると思われます。
日米韓首脳会談での合意の最初のテストケース ~北朝鮮の挑発事態に迅速に協議・対応する
古川)他方でもう1ヵ所、旧来からある2012年の発射に使った大きな発射場があるのですが、こちらはまだ工事が進行中です。しかし、近い将来には後継機の軍事偵察衛星を発射する体制が構築されつつあるという状況だと思います。
飯田)アメリカと韓国が合同軍事演習を始めたことが報道されていますが、北朝鮮はこれに合わせてきているのでしょうか?
古川)間違いないと思います。加えて、先日のキャンプデービッドにおける日米韓3ヵ国の首脳会談では、このような北朝鮮の挑発事態に迅速に協議・対応することで合意しています。まさに最初のテストケースなのだろうと思います。
中国への配慮があり中国対策については日米と温度差のある韓国
ジャーナリスト・有本香)日米韓による協議では、北朝鮮の核戦力の脅威について対策・対応しようという話がされたと思います。この内容についてはどうご覧になっていますか?
古川)3ヵ国によるキャンプデービッド合意は、韓国が朝鮮半島を超え、初めてアジア太平洋地域全般、台湾海峡あるいは中国対策について、より日米との連携をコミットさせていく。あるいは米韓同盟を拡充させていく姿勢を鮮明化させたという意味では、非常に重要なステップだと思います。ただ、若干の温度差もあるでしょう。米国政府の当初の意図としては、緊急事態における3ヵ国の協議を義務化させることがありました。
有本)そのような言葉がありましたね。
古川)韓国側は中国への配慮もあり、いまは「協議にコミットする」という形で、やや積極性に欠けるところがあります。米韓合同軍事演習に対し、しっかりと自衛隊がロジスティクスのサポートに入るという前提で組まなければ、実際の戦争を想定した準備にはなりません。ここが課題だと思います。
サイバー攻撃による外貨獲得が新しい一大産業になりつつある北朝鮮 ~日本もターゲットに
有本)サイバー分野でも連携を強化していくということですが、北朝鮮のサイバー攻撃は、日本でも実はいろいろあると聞いています。この辺りはどうなのでしょうか?
古川)公式の北朝鮮の対中国輸出総額に匹敵する、あるいは上回るくらいの金額に相当する暗号資産を、北朝鮮は近年、サイバー攻撃で不正に奪取することに成功し続けています。
飯田)そうなのですね。
古川)北朝鮮にとってサイバー攻撃による外貨獲得は、新しい一大産業になりつつあると言っても過言ではないと思います。情報収集・外貨獲得のようなことが日常的に行われ、日本も間違いなくターゲットにされていますので、我々国民1人ひとりがサイバーセキュリティをしっかり対策することが重要な時代になっていると思います。
飯田)それが収益源になってくるとなると、「制裁が実質的に効いていない」という状態にもなりますよね?
有本)食料面でもそうですね。
中露の制裁違反に関与している政府機関や企業などに対する二次制裁を、西側が協力して仕掛けるべき
古川)制裁は十分ではありません。特に中国政府は、北朝鮮の制裁違反に目を瞑るという姿勢を鮮明化させている上、ロシアに至っては露骨に国連制裁違反を行っていると考えられます。
飯田)中露が。
古川)これらの2ヵ国の制裁違反に関与している政府機関や企業、個人のネットワークに対する二次制裁を米国、韓国、日本、ヨーロッパの国々が協調して仕掛けていくことが重要です。
飯田)二次制裁を。
古川)制裁には意味があります。北朝鮮は新しい外貨、新しい技術を獲得しています。しかし、新技術に基づく戦力をつくるには兵器の大量生産が必要であり、それはまだできていません。これをいかに阻止することができるのか、ここがいまの制裁において重要な課題だと思います。
ロシアと北朝鮮の武器取引を仲介したのはスロバキアの人物 ~日本国内で北朝鮮人プログラマーの仕事を斡旋する事件が発覚
飯田)古川さんは著作のなかで、北朝鮮に対して協力する個人や企業についての話も書いていらっしゃいます。日本や西側の国々のなかでも、そのような組織はいまも存在すると理解していいですか?
古川)いまも存在しています。北朝鮮はコロナ禍が明けて、対外交易を再開させているわけですが、そのなかで「非合法ネットワーク活動」を再開させていることが、日本国内および海外でも確認されています。
飯田)コロナ禍が明けて。
古川)これは知られている話ですが、ロシアと北朝鮮の武器取引を仲介したのは、ヨーロッパのスロバキアの人間です。日本国内においても、北朝鮮に対して巨額の投資プロジェクトをアレンジしてみたり、北朝鮮人プログラマーに対して仕事を斡旋するというような事件が発覚しています。
飯田)仕事を斡旋している。
古川)県警が捜査を続けていますが、私が当初把握していた限りでは、おそらく春ごろには摘発が発表されるだろうと思っていたけれど、遅れています。
中露に対する二次制裁について日米韓でより緊密に協力し合うことが必要
古川)もしかしたら日朝協議に向けた外交的な配慮があるのかも知れませんが、このようなものはしっかりと取り締まらなければいけないと思います。
飯田)二次制裁を強めることで、そのようなネットワークにもダメージを与えることができるのですか?
古川)いま制裁で最も抜けているのは、北朝鮮に協力している中国・ロシアを中心とする仲介勢に対する制裁です。これが後手に回ってしまっている。アメリカ政府も「ロシアへの制裁が最も重要な課題」と位置付けているので、どうしても人員を十分に割けないところがあると思います。日米韓でより緊密に協力し合う必要があります。
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