外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が9月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウラジオストクで行われた北朝鮮・金正恩総書記とロシア・ショイグ国防相の協議について解説した。

2023年9月13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地での首脳会談で握手するプーチン大統領（右）と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記（タス＝共同）　写真提供：共同通信社

北朝鮮の金正恩総書記がロシアのショイグ国防相と協議

北朝鮮の朝鮮中央通信は9月17日、ロシアを訪問中の金正恩朝鮮労働党総書記が16日にウラジオストクでロシアのショイグ国防相と協議し、武力と国防での協力を強化する上で実務的な問題について意見を交わしたと伝えた。一方、ロシアのメディアは金正恩氏が17日に帰国の途についたと伝えている。

飯田）また、ロシアのコズロフ天然資源環境相は17日、北朝鮮と貿易や経済、科学技術に関する協力を話し合う政府間委員会が2023年11月に平壌で開かれると、通信アプリで明らかにしました。

ロシア側が北朝鮮へ懇願して露朝首脳会談が実現　～武器・弾薬を頼むのは北朝鮮しかない

宮家）わかりやすい人たちですよね。金正恩さんがウラジオストクの前にまず宇宙基地へ行くわけです。そうすると、プーチンさんが待っている。いつもは人を待たせるプーチンですけれど、今回は金正恩さんが乗っている車の到着を待っていて、着いたら挨拶する。信じられませんよね？

飯田）少し前から考えるとそうですね。

宮家）これには理由があり、ロシア側が北朝鮮側に懇願したと言われているのです。ウクライナ戦争で苦しいなか、武器・弾薬が足りませんし、中国もなかなか助けてくれない。他に武器・弾薬をつくっていて、それなりに生産能力のある国は北朝鮮くらいしかありません。

便宜上の打算的な結婚のようなもの　～武器・弾薬が欲しいロシアと、軍事技術が欲しい北朝鮮

宮家）だからと言って、両国が新しい関係に入ったわけではありません。私に言わせれば、これは便宜上の打算による結婚です。ロシア側は武器・弾薬が少しでも欲しい。ウクライナで使うのかどうかはわかりませんが、国内でも足りないのですから。足りなくなったのは、ウクライナとの戦いが消耗戦だからです。消耗戦では、あれほど備蓄していた武器・弾薬が一瞬にしてなくなります。それを補給しなければいけないし、労働力も必要です。

飯田）労働力も。

宮家）北朝鮮側は何が欲しいのかと言うと、まず第一に軍事技術です。ICBMや偵察衛星を飛ばしたいけれど、このままではジリ貧です。米韓連合軍は相当、近代化が進んでいるので、北朝鮮としては少しでも技術をキャッチアップしたい。

飯田）技術力ですね。

宮家）また当然、エネルギーや食料も欲しい。今回、ロシアの天然資源環境相が訪朝するようですが、これもわかりやすいですよね。その意味では、過大評価も過小評価もするべきではないと思いますが、ロシアも相当苦しいのだなと思います。

飯田）ロシアも。

宮家）北朝鮮としては、ロシアが困窮しているのでいいチャンスです。向こうが「どうしても来て欲しい」と言うから、「では行ってあげようか」というところです。従来はそのような関係ではなかったはずなのですが。

飯田）そうですよね。

宮家）もともとロシアは北朝鮮など相手にしていませんでした。しかし、それが4年振りに急速に近付いた。お互いに戦術的な打算の相互利益があったのだと思います。

アメリカを気にして、ロシアを助けられない中国　～露朝が近付くのは中国にとって損はない

飯田）それに対して、中国はどのように見ているのですか？

宮家）これもいろいろな見方があると思います。一部では、「北朝鮮がロシアを優先しているので中国が怒っている」と言う人もいますが、果たしてそうでしょうか。私に言わせれば、ロシアと北朝鮮が近付いたとしても、それが中国に向いてくるわけではないですよね。

飯田）中国に向いてくるわけではない。

宮家）お互いがアメリカに向いているので、中国に大きなマイナスがあるわけではありません。中国は、北朝鮮が中国の支援なしに存続できないことは百も承知です。しかし、いまはウクライナで戦争があり、ロシアは中国に対して助けてくれと言った。北京冬季五輪の前に共同声明で「ロシアと中国の友情に限界はない」と言ったにも関わらず、中国の対露支援には限界があるではないかと。

飯田）そうですね。

宮家）ロシアからすれば、「中国は助けてくれないではないか」と思うかも知れませんが、中国からすれば、アメリカとの関係を気にしているから、躊躇するのも当然なのです。アメリカに「ロシアを助けているのではないか？」と言われるのは嫌ですからね。

飯田）アメリカに。

宮家）ですので、代わりに北朝鮮にやってもらえばいいのです。中国にとって決して損ではありません。訪問した政治局員が邪険にされたという報道もありますが、そのようなことはないでしょう。中国も気にしているとは思いますが、それが決定的な亀裂になるとは思っていません。