経済アナリストのジョセフ・クラフトが9月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。大阪市内で開かれた植田日銀総裁と関西の経済4団体との懇談会について解説した。

【大阪・関西万博の進捗についての面談】囲み取材に応じる博覧会国際事務局（BIE）のケルケンツェス事務局長（左）＝2023年9月19日午後、大阪市北区　写真提供：産経新聞社

植田日銀総裁が関西の経済界と懇談　～万博の予算増加に言及

日本銀行の植田総裁は9月25日、大阪市内で開かれた関西の経済4団体の懇談会に出席した。2025年の大阪・関西万博をめぐり、資材価格の上昇などで会場建設費の上振れが懸念されていることについて、植田総裁は「建築資材の高騰は基本的に全般的なインフレと連動して起こっている現象だ」と強調。「全体のインフレ率が2％をやや多めに超えて推移しており、その結果、万博の費用が上振れしていることは申し訳ないと思っている」と述べた。

飯田）資材費の高騰が入札不調などにもつながっているようですが。

クラフト）資材費の高騰に謝るくらいなら「政策で対応しろ」という批判もありますが、政府と日銀の間には役割分担があるのです。日銀はどちらかと言うと、経済全般を下支えするためにも、緩和政策をある程度維持していく。

飯田）役割として。

クラフト）いま金融政策を変えたところで、すぐにインフレが下がるわけではないし、よほど金利を上げないと下がっていきません。むしろ効果的なのは、政府が補助金を出してコストを抑えていくことです。この二段構えで政府と日銀は連携しているのではないかと思います。

日銀総裁が為替に対して言及することは珍しい　～さらに円安が進むようであれば為替介入で対処して、官邸・日銀・財務省の3者連携でうまくインフレを抑えていく

クラフト）1つ気になったのが為替の動向で、実は日銀総裁が為替に言及するのは非常に珍しいのです。植田総裁は、政府と緊密な連携を取りながら為替を注視していきたいという方針で、円安に対して一定程度の懸念を抱いていることが伺えます。

飯田）円安に対して。

クラフト）そういう意味では、為替の役割は財務省ですから、さらに円安が進むようであれば為替介入で対処し、官邸・日銀・財務省の3者連携でうまくインフレを抑えていこうという思惑ではないかと思います。

「相対的にみれば円安はいいのだ」という姿勢だった黒田前総裁　～円安促進の動きがあった

飯田）日銀からすると、物価の安定は仕事の大きな1つではありますが、為替に言及したのは「コントロールできないところで物価が上がってしまった」という思いが滲んでいるのですか？

クラフト）もう1つは、日銀総裁は円安・円高に対する懸念は表明しないのです。

飯田）本来ならば。

クラフト）そこに踏み込み、財務省の意向も受けて懸念を表明しているところは、「黒田前総裁とは違うな」と感じますね。

飯田）マーケットに対するメッセージの出し方なども変わっていますか？

クラフト）黒田前総裁はどちらかと言うと、「相対的にみれば円安はいい」という姿勢だったので、マーケットからすれば「では円を売ってもいいのだ」ということで、逆に円安促進の動きがありました。

日銀総裁が為替についての懸念を表明するとマーケットは円を売りにくい

クラフト）当然、財務省はその逆です。やはり日銀総裁がある程度、為替について懸念を表明すると、マーケットとしては円を売りにくい状況になります。いま、1ドル＝148円で円のジリ安が続いていますが、この辺りは多少なり効果があると思います。

建設が遅れている大阪・関西万博

飯田）政治とも絡む話ですが、大阪維新の会の地元である関西で万博が行われます。一方、万博そのものの主催は国、政府だという話もありますが、この件が出てきてから、少し維新の会の勢いが止まっている感じがします。その辺りは支持率にも表れてきていますか？

クラフト）万博に携わっている建設業の幹部と話したのですが、相当遅れているようです。かなり危機感を抱いていました。最悪、プレハブを建ててパビリオンをつくる必要があるかも知れないということでした。

政府としても大阪府としても成功させるしかない

クラフト）それが動かないなかで、維新の会に対する不満や懸念がいま浮上していると思うのですが、政府はそこで維新の足を引っ張ることはないと思います。

飯田）維新の足を引っ張るようなことはない。

クラフト）政府としても、万博は成功させたい。茂木幹事長も「成功させる」と表明しています。ただ、現場の人たちに話を聞くと、大阪府もそうですが、現場でのまとめ役がいないので進めにくい状況になっているようです。

飯田）強力に旗を振って進めていく人が必要なのですね。

クラフト）あと1年少ししかありませんので、維新と政府でがっちりとタッグを組み、成功させていただきたいですね。

資材価格の高騰がネックなのではなく、人手不足と各国との連携に問題

飯田）資材価格の高騰もそうですが、人手不足という話もありますよね。

クラふと）税金を使うのですから価格も問題なのですが、成功させるためには、それなりの財政措置は取れます。いまおっしゃった通り、資材価格の高騰がネックなのではなく、人手不足が大きいと思います。あとは各国との連携ですね。

飯田）パビリオンを出す国ですね。

クラフト）そちらの方の申請が進んでおらず、申請が進まないと工事には取り掛かれません。いろいろなところでボトルネックが起きており、進まない状況になっているのだと思います。