東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が10月3日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。米国務省が報告書を発表した中国の情報操作について解説した。
米国務省が中国の情報操作を指摘、中国側は反発
米国務省は9月28日、中国の情報戦に関する報告書を初めて発表した。中国が年間数十億ドル(数千億円)掛け、世界中で偽情報や検閲などの手段を駆使した情報戦を展開し、自国や中国共産党にとって有利な情報操作をしていると指摘。これを受けて中国外務省は9月30日、「報告書は捏造」と反論した。
喫緊の問題として報告書を出さなければならない ~あらゆる偽情報が出されている
新行)米国務省が初めてこういった報告書を出しましたが、意図は何なのでしょうか?
井形)国務省内には「グローバル・エンゲージメント・センター(GEC)」という部署があります。「偽情報」や「情報操作」だけを担当するような部署で、5~6年前にできました。
新行)GEC。
井形)「中国やロシアなどの国々から、どのような形で偽情報が流布されているのか」を以前から研究していましたが、ある程度まとまったため、このタイミングで出してきたのでしょう。AI関連や重要鉱物のニュース、あるいは処理水の問題に関しても、偽情報が出ています。
新行)処理水に関しても。
井形)「すべてにおいて情報戦を仕掛けられている。だから喫緊の課題として、早く報告書を出さねばならない」という危機感もあったのだと思います。
ファクトベースで出されているので、中国が批判してもその批判に反論できる具体的な内容になっている ~日本に関する事例は1つも出ていない
新行)報告書のポイントはどこにあるのでしょうか?
井形)まずはファクトベース、事実としてすべてが出てきているというところが、書き方として注目すべきところだと思います。この報告書が出たときに、中国がすぐ「このプロパガンダ報告書は捏造だ」と言ってくるのはわかっていたため、それに対抗できるよう、すべてにおいて「これに関してはこれを引用している」、「これに関してはここからソースを取っている」など、わかりやすくきれいに出しています。批判されたとしても、「その批判はおかしい」と反論できるような内容になっているのは重要だと思います。
新行)反論できる。
井形)あとは、日本に関する事例がまだ1つも出ていません。日本における「偽情報」や「情報操作」に関する研究がまだ足りていないのだなと感じます。
日本では防衛省と外務省が中心となり、「偽情報に対抗していくためのメカニズムをつくる」ために動き出している ~他国から学び、そして対抗策を考えることが重要
新行)米国務省では5~6年前に「GEC」ができたという話ですが、日本には情報戦に関する部署はあるのでしょうか?
井形)さまざまな分野において、偽情報や情報操作が重要になっているという認識から、2023年4月に内閣府で防衛省と外務省が音頭を取り、「偽情報に対抗していくためのメカニズムをつくろう」と動き始めています。2024年4月ごろに向けて、偽情報に対抗する「ヘッドクォーター」のようなものをつくろうとしています。
新行)米国務省の報告書によると、「中国の情報戦は特に、アフリカ、アジア、ラテンアメリカに力を入れていた」と書かれており、日本にとっても他人事ではないですよね。
井形)そうですね。現在、海外でどのような偽情報、情報操作が行われているのか知った上で、日本でも「こんなやり方があるのではないか」という内容が特定されていくと思います。他国から学び、対抗策を考えることが重要です。
新行)情報戦には具体的にどんな例がありますか?
井形)いろいろありますね。例えばAI関連では、先端技術を使うと、すぐ偽のニュースをインターネットで配信できたりします。音声についても政治家や著名人など、音声が既にデータとして外に出回っている人は、「フェイクボイス」として、簡単に「言ってもいないことを言わせてしまう」ことができたりします。
新行)なるほど。
井形)あとは、「ディープフェイク」と呼ばれるような動画ですよね。これらを組み合わせれば、どんなトピックでも偽のニュースを広げてしまえる時代です。それにどう対抗すべきかは、本当に難しい問題です。
存在する偽情報の手法を学ぶことができる「Cat Park」
新行)偽情報や情報操作に関して、中国は国を挙げてお金を出し、取り組んでいるのですね。
井形)まさにそうですね。
新行)井形さんに以前来ていただいたとき、確か国務省だったと思いますが、「ゲームで偽情報への理解を深める」というような動きがあるという話でした。私たちもSNSを使っていますので、情報戦とは距離が近いのですが、そういう部分での取り組みは何かありますか?
井形)英語が少しわかる方でしたら、「Cat Park(キャットパーク)」と検索していただけたらと思います。GECが出した「どのような偽情報の手法が存在するのか」を学べる、30分~40分くらいのゲームです。残念ながらまだ日本語にはなっていませんが、ストーリーを見ながら「こんな炎上手法があるのだな」、「このようにBot(ボット)アカウントは識別できるのか」ということが学べます。
新行)そういったゲームを活用して理解を深める。教育現場などに取り入れるのも、1つのやり方なのかも知れませんね。
井形)そうですね。
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