ガザ地区軍事衝突 「パレスチナ国家」をつくる以外に解決方法はない
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。国連安保理が採択したガザで続く戦闘の休止を求める決議について解説した。
国連安保理、ガザ「戦闘休止」求める決議を採択
国連安全保障理事会は11月15日、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に関する緊急会合を開いた。会合ではパレスチナ自治区ガザで続く戦闘の「人道的休止」を求める決議案が採決に付され、賛成多数で採択。15理事国のうち、日本や中国、フランスなど12ヵ国が賛成し、アメリカ、イギリス、ロシアの3ヵ国が棄権した。
飯田)棄権のため拒否権の行使ではないので、採択されました。
宮家)見出しだけ読むと、「いままでアメリカはイスラエルの行動を盲目的に支持してきたけれど、今回は諦めた」と考える人もいるかも知れません。しかし、よく読むとここには「ガザ地区での戦闘休止」とあります。
飯田)休止。
宮家)休止と停戦はまるで違います。休止とは、戦闘は続けるけれど「少し休む」ということです。人道的な時間を取ったあとは、また始めるのです。
「休止」ということであれば「既にやっている」と受けられるイスラエル
宮家)それに対して、停戦は戦争を本当にやめるということですから、アメリカはずっとそれに反対してきた。なぜなら、イスラエルに自衛権があるからです。最初に休止を求める決議案が出ていれば、おそらくもっと早く進んでいたかも知れません。安保理決議をめぐる議論は、いままでロシア・中国、あるいはアメリカの間でいろいろヒートアップしたけれど、本当は初めに休止(の決議案を出す)だけであれば通ったかも知れない。それだけ国連はプロパガンダの場所になってしまっているのです。
飯田)プロパガンダの場所に。
宮家)残念ではありますが、とにかく戦闘休止を求めるということであれば、イスラエルは受けられるわけです。「休止なら人道回廊もつくったし、病院からも(住民は)退避してもらっている」と。それならイスラエルも両立可能です。すなわち、ハマスを殲滅するための戦闘は続けるというのが建前でしょう。でも停戦といってそれを止めようとすると、またアメリカが拒否権を使わざるを得なくなると思います。
飯田)もともとはハマスのテロ行為に端を発しており、それに対してイスラエルが自衛権を行使したので、国際法上は間違っていない。いま国際社会が非難しているのは、イスラエルの攻撃による「市民の犠牲が多すぎるのではないか」というところです。
アメリカの見方はイスラエルの正当な自衛行為
宮家)バイデンさんは中国との会談後に記者会見を行っていますが、そのうち半分ぐらいはガザに関する質問でした。「どう思うか」と再三聞かれ、バイデンさんは「無差別爆撃でもないし、無差別攻撃でもない。注意深く慎重に計画した上で、最小限の被害で済むような形で病院に入っている」ということを、何度も説明しています。
飯田)最小限の被害で済むように。
宮家)アメリカの見方は戦争犯罪ではなく、あくまでも国際法に基づいた「正当な自衛権の行使」という理解です。それに対して、「世界中」と言っていいと思いますが、反発があることは事実です。私もガザに何度も行ったからわかるけれど、あの人たちの生活は酷いですよ。胸が痛むのは当然だし、できればやめて欲しいというのが本音だとは思います。
病院内部から多数の武器が出てくる
宮家)しかし、バイデンさんも言っていることですが、人質を人間の盾にする、もしくはパレスチナの患者さんやお医者さんたちを事実上の盾にして戦うのは、「戦争犯罪だろう」と言っているのです。それが戦争犯罪かどうかの判断は別として、少なくとも戦時国際法上は「非戦闘員には手を出さない」という原則があります。実際に病院へ突入して探してみると、ハマス側の武器がたくさん出てくるわけです。
飯田)病院内部から。
宮家)あの地下には細長いトンネルがあり、その下にネットワークがあるわけです。簡単に見つかるものではないと思うけれど、おそらく、そういうものがあるのでしょう。そういう意味では、バイデンさんの言っていることも決して間違いではない。停戦に反対するのは私にもわかるし、とても悔しいと思います。あのような形で人々が亡くなるのは本当に辛いけれど、それをやっているのは実はハマスです。まずはその部分をしっかり押さえなければいけません。
病院の地下に司令部がある ~信頼度の高いアメリカの情報
飯田)会見を終えたあとにいろいろな質問があり、「病院の地下に司令室は本当にあるのか?」と聞かれて、もちろん情報の中身は言いませんでしたが、「情報を信頼している」と答えています。しかし、裏は取れませんし……。
宮家)大統領は、「これはイスラエルではなく自分たちの情報であり、確信を持っている」という言い方をしています。かなり確度が高いと思われます。具体的な規模についてはおそらく地下10~20メートルの深いところにあるはずですから、すぐにわかるわけではないけれど、一般的に軍隊は民間人を巻き込む戦い方はしません。ハマスは普通の軍隊ではないのです。それをテロリストと呼ぶのは、ある意味で正しいと思います。
10年前と同じ状況に ~パレスチナの国家をつくった上で政治的に解決する以外、この問題は終わらない
飯田)ハマスには軍事部門や政治部門があって、そこがある意味、ガザ地区を実効支配していた部分があります。この先、統治機構をどうするかが見えてきません。
宮家)私は産経新聞に「宮家邦彦のWorld Watch」というコラムを連載していますが、2012年のコラムで……。
飯田)いまから10年以上前ですね。
宮家)2012年11月29日に、「ハマスの現実を直視せよ」と書いているのです。当時、いまとまったく同じようなことが起きていて、世界はイスラエルの自衛権について言及していました。結論として何が書いてあったかと言うと、「パレスチナ国家をしっかりと認め、2つの国家をつくりなさい」と書いてあるのです。
飯田)2012年のコラムに。
宮家)イスラエルという1つの国家はできているけれど、もう1つ、「パレスチナの国家をつくった上で政治的に解決する以外、この問題は終わらない」と書いていました。読み返してみると、「何だ昔も今と同じことを書いているではないか」と。
飯田)10年以上、問題の核心が変わっていない。
宮家)変わっていないのです。ショックでしたし、状況はさらに悪くなっている。当時支社はまだ「1000~2000人」という話でしたが、いまは1万人規模になっているわけですから。
飯田)亡くなる人の数が。
宮家)明らかに状況は悪くなっているのですが、問題の本質は変わっていません。
飯田)パレスチナの国家の部分ですが、ヨルダン川西岸地区はファタハが統治しています。その正当性はどうなのか、あるいは弱体化や腐敗についても言われています。
宮家)自治政府はあるけれど、2006年から選挙は行われていません。ハマスが勝ってしまうからでしょう。
飯田)ファタハからすれば実施したくない。
イスラエルがガザを占領しても問題の解決にはならず、ハマスが地下化するだけ
宮家)自分がクビになってしまうから。しかし、それでは「統治能力がない」という話です。そこで、半永久的にかどうかは知りませんが、イスラエルはガザを占領しようとしており、アメリカはそれに反対しています。私も個人的には反対です。占領しても問題の解決にはなりませんし、ハマスがどんどん過激化し大きくなるだけです。
飯田)地下化するだけと。
宮家)それよりも、ネタニヤフさんは嫌でしょうけれど、とにかくパレスチナ国家をつくりなさいと言いたい。つくって、彼らに責任を与えなければいけないのですが、ハマスはそれにも反対しているわけです。一方で、ハマスもイスラエルを殲滅するのが目的だから、2国家共存などあり得ません。
飯田)ファタハを率いるのはアッバス議長ですが。
宮家)アッバスさんは何も言わないですよね。
飯田)未だに声明のようなものが出てきていない。「俺が代わりにやろうではないか」という若い人はいないのですか?
宮家)20年前のNHKの放送では、確かにそういう人もいたことを報じていましたが、もう消えてしまったのです。ますます状況が悪くなり、可哀そうなのはパレスチナの一般市民です。しかし、パレスチナに問題があることも事実なので、それを直視した上でイスラエルを批判する。それがあるべき姿だと思います。
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