山本由伸獲得にも貢献 ドジャース・大谷翔平が本気で目指すもの

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ドジャースと大型契約を結んだ直後、山本由伸投手の獲得をサポートするなど、さっそくチーム強化にも貢献した大谷翔平選手にまつわるエピソードを紹介する。

ドジャース入団記者会見で笑顔を見せる大谷翔平=2023年12月14日、アメリカ・ロサンゼルス 写真提供:時事通信

ドジャース入団記者会見で笑顔を見せる大谷翔平=2023年12月14日、アメリカ・ロサンゼルス 写真提供:時事通信

2023年の球界は、大谷翔平に始まり、大谷翔平で締める1年になりました。

3月のWBCでは二刀流で活躍。侍ジャパンを14年ぶりの世界一に導いた他、エンゼルスでは投げて10勝、打っては本塁打44本で日本選手初のホームランキングに輝き、満票でア・リーグMVPに選出。そしてオフには大谷の移籍先が野球ファンのみならず、世界的な関心事になりました。最終的にドジャースと10年7億ドル(契約発表時のレートで約1022億円)という超巨額契約を結び、またまた話題を呼ぶことに。

それだけではありません。ドジャースの一員となるや、契約期間中に自分が受け取る年俸の額をあえて200万ドル(約2.9億円)に抑えるよう球団に提案。これは契約総額の2.9%に過ぎません。残り97.1%は10年契約終了後に受け取ることでドジャースのラグジュアリータックス(ぜいたく税)負担を軽減し、自分以外にさらなる選手獲得ができるよう取り計らったのです。

この大谷の“厚意”によって、ドジャースは今オフの目玉だったオリックス・山本由伸の獲得にも十分な資金を回せるようになり、こちらは12年総額3億2500万ドル(約465億円)で契約に合意。山本とドジャースの面談の席には、ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマン、ウィル・スミスといった主力打者たちとともに、大谷が同席したことも話題になりました。

これだけのメンバーに直接「一緒にやろう」と言われれば、山本がグラッとくるのも当然。山本獲得を狙っていたヤンキース・メッツなどのファンから「大谷まで出てくるのは反則だよ!」とやっかむ声が出るのもわかります。

大谷の“リクルート協力”は山本だけにとどまらず、レイズの先発右腕、タイラー・グラスノーの獲得にも貢献。『ジ・アスレチック』の記事によると、大谷はグラスノーに対して「あなたのためにホームランを打ちたい」というメッセージ動画を送ったそうです。山本とグラスノー、2人の計算できる先発投手が加わり、再来年(2025年)からマウンド復帰が見込める二刀流・大谷も加入したことで、ドジャースは一気に“投手王国”となりました。「ショウヘイはなんて優秀なリクルーターだ!」とドジャースファンが大喜びするのも、これまたよくわかります。

大谷がなぜチームの補強に全面協力しているのかといえば、理由はひとつ、「勝ちたいから」。大谷はワールドシリーズ王者になりたいのです。メジャー入りにあたっていろいろと要望を受け入れてくれたエンゼルスでその夢を叶えられたら最高でしたが、在籍6年間でそれが叶わないどころか、プレーオフ進出もできませんでした。

日本ハム時代も、リーグ優勝と日本一を味わえたのは5年間で1度、2016年だけです。そもそも二刀流は「チームを勝たせるため」にやっていること。WBCで大谷がチームを引っ張り活躍したのは、勝利に対する熱い思いがあるからこそです。WBCで世界一を味わったことで、余計にその思いが強くなったのでしょう。入団会見で「ドジャース入りを決めた理由」について聞かれた大谷はこう語っています。

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「ドジャースがこれを持っているからというより、心に残っているのは、彼らは『この10年間を成功だと思っていない』と。それだけ勝ちたいんだと思った」

~『日刊スポーツ』2023年12月15日配信記事 より

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ドジャースは、2013年から今季(2023年)まで11年連続でプレーオフに進出しています。なのにそれを「成功だと思っていない」理由は、この10年間(2014年~2023年)でワールドシリーズを制覇したのは2020年だけだからです。「プレーオフに出るのは当たり前。目標はあくまでワールドシリーズ王者」とチーム一丸で頂点を目指す姿勢、それが大谷の胸を打ちました。ならば自分もできる限りチーム強化に協力したい。大谷が、山本とグラスノー獲得にひと役買ったのは当然の行動と言えます。

一方、山本にとっても、WBCでともに戦った大谷と再び一緒にプレーできることは大きな理由になったでしょうし、自分が投げる際に打者・大谷がバックアップしてくれることも心強い限りです。ただ、山本がドジャースを選んだ理由は、実はもう1つ別にあると思います。それは、大谷が山本獲得を熱望した理由にもつながります。大谷はWBC決勝・米国戦の試合前、チームメイトにこう言いました。そう、あの言葉です。

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『僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう。一塁にゴールドシュミットがいて、センター見たらトラウトがいて、外野にはムーキー・べッツもいる。野球をやっていたら誰しもが聞いたことあるような選手がいると思うんですけど、きょう一日だけは、憧れてしまったら、超えられないので。僕らはきょう超えるために、トップになるためにきたので。きょう一日だけは、彼らへの憧れは捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、いこー!』

~『サンケイスポーツ』2023年3月22日配信記事 より

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あまりに有名になった「憧れるのをやめましょう」。おそらくですが、大谷は山本に「メジャーに来てからも、憧れるのはやめよう」という意味のメッセージを送ったのではないでしょうか。

山本のポテンシャルはメジャーでも十分通用するもので、だからこそドジャースも12年契約という長期契約を結んだのです。しかし、日本人選手が海を渡るたびに、いまだにスポーツマスコミで使われるのが「メジャー挑戦」という言葉。「日本野球<メジャー」という考え方が根底にあるからです。

たしかにWBCで世界一になっただけで、日本野球がメジャーを凌駕したとは言えません。ですが、日本野球にもいわゆる「スモールベースボール」など、長い歴史のなかで形成された独自の哲学があります。決して大きいとは言えない体で、3年連続投手4冠&沢村賞という偉業を達成した山本。ストレートも変化球も一級品で、コントロールも精度が高く、配球も巧み。こういう最高の投手を生んだのは、日本の野球がそれだけ成熟している証しです。

大谷のような二刀流の選手が、現代においても実現可能であることを示してみせたのもまた日本野球です。力と技を巧みにブレンドした日本野球を核とするチームで、ワールドシリーズを制すること。大谷の究極の目標はそこにあり、だからこそ山本は「ぜひとも一緒に戦いたい同志」なのです。

また大谷の目は、全国の小学校にグラブを寄付したことでもわかるように、常に野球少年たちの方を向いています。彼らの胸を打つ試合やプレーを、メジャーの舞台で日本人選手が見せること。それが第2・第3の大谷、山本を生むのです。WBCで大谷はそのことを念頭に置いてプレーしていましたし、山本も同様です。野茂英雄をはじめ、数々の日本人選手を受け入れてきた実績もあるドジャースで、2人がどんな新しい価値観の「日本野球」を展開してくれるのか、2024年の開幕が待ち遠しくて仕方ありません。

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