ジャーナリストの佐々木俊尚が1月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の中台関係の在り方について解説した。
岸田総理、台湾総統選を受け発言
飯田)1月13日に台湾総統選が行われましたが、BSテレ東の番組のなかで岸田総理は16日、「対話によって平和的にさまざまな問題が解決され、地域の平和と安定につながる状況を期待したい」と発言しました。
対中抑止は「独立もさせない」と中国に安心感を与えることも大事
佐々木)アメリカの外交専門誌『Foreign Affairs(フォーリン・アフェアーズ)』が、1月号で面白い記事を書いています。「対中抑止力」は「中国が台湾を攻めてきたら、我々日本やアメリカが守るのだと示す」ことだと言われていますが、それだけでは足りないと。
飯田)足りない。
佐々木)何が必要かと言うと、「中国を安心させる必要がある」と書いているのです。要するに中国としては、台湾に独立されるのがいちばん嫌なわけです。もちろん、「そんなことをすれば攻めていくぞ」という話ですが、アメリカ・日本側としては「攻めてきたら守る」というだけではダメで、中国に「独立もさせないから」ときちんと伝えなければならない。そうすれば、中国側も「独立しないなら、わざわざ攻める必要はないか」と落ち着くので、「安心感をもたらすことが非常に重要だ」と書いてありました。
飯田)独立もさせない。
佐々木)抑止とは、必ずしも軍事で圧迫するだけではなく、もう一方で「これ以上は我々も進めないから、あなた方も進めないでくれ」と安心感を与えることも大事なのです。
飯田)イソップ童話の北風と太陽のようですね。
佐々木)本当ですね。
「独立はしないが、占領もさせない」という現状維持こそが重要
飯田)アメリカのバイデン氏が「独立は認めない」と発言しましたが、この文脈があるのでしょうか?
佐々木)そうだと思います。あの発言について「中国に譲歩している」と批判する人もいますが、決して譲歩ではなく、現状を変えないことが大事なのです。日中間だと以前、尖閣問題があった際、当時の石原都知事が都による購入計画があることを表明しました。中国としては現状維持こそがいちばんよい方法だったのに、尖閣を都が買い上げ、最終的には国が買い上げるような話になったものだから、中国は領有権を改めて主張し、強く反発した。やはり、お互いに現状維持が大切なのだと思います。
飯田)現状維持が。
佐々木)台湾も同じで、独立しないけれど、だからと言って中国にも占領はさせない。現状維持がいちばん重要なのでしょう。
中国に対して現状変更しようとする口実を与えない
飯田)「現状変更しようとする口実を与えない」ということですか?
佐々木)そうですね。
飯田)結局、尖閣のときも日本国内のロジックとしてはあるけれど、中国側からすると「これで俺たちはいくらでも船を出せるようになる」と考えるきっかけになってしまう。
佐々木)そういうことをされれば、中国としても国内世論に対して説明しなければいけないから、強く出ざるを得ないのです。「こちらをどう見ているのか」という、向こう側の視点に立つことも重要だと思います。
飯田)日本も影響力工作ができるようになればいいのですが。
佐々木)なかなか難しいところですよね。
「独立はしない」ことがアメリカと台湾の共通認識
飯田)今回の台湾総統選で当選した頼清徳さんは以前、「独立」と言っていました。しかし、最近は蔡英文路線で「現状維持」と言っています。
佐々木)中国としては、「頼さんが総統になったら独立するのではないか」という不安が相当あったと思います。しかし、実際に総統選が見えてきたなかで、「独立と言い続けたら中国を刺激してしまう」と本人もわかったのでしょう。いまは「独立はしない」というのが、アメリカと台湾の間で共通認識になっていると思います。
飯田)台湾の民意も、頼さんを当選させたけれど、国会にあたる立法院の方はどちらも過半数を取らせなかった。
佐々木)「独立もしないが現状維持」というのは、それはそれで危ういバランスです。いったい何十年続けられるのか、という感じもしますけれど。
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