政策アナリストの石川和男が5月11日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。物価高の主な要因として指摘される円安について「東日本大震災以降、原発が停止したことによる天然ガスや石炭の輸入額が最大7兆円膨らんでいるのも要因のひとつ」と指摘した。
総務省が10日に発表した昨年1年間の家計調査の結果によると、2人以上の世帯の昨年度の消費支出は、物価変動を除いた実質で前年度から3.2%減少し、3年ぶりのマイナスとなった。内訳では、食料費が1.9%減るなど物価高を受けた買い控えが影響したとみられている。また、9日に厚生労働省が発表した今年3月の毎月勤労統計調査(速報)によると、労働者1人あたりの3月の実質賃金は前年同月比2.5%減となった。名目賃金は0.6%増えたものの、消費者物価指数が3.1%上昇したためで、24か月連続の実質賃金の減少は比較可能な1991年以降で過去最長を更新した。
この物価高の要因について、石川は自らの専門分野であるエネルギーの視点から「ロシアによるウクライナ侵攻で、原油と天然ガス、石炭の価格が上がった。日本は、それらのほとんどを輸入に頼る国であり、結果としてガソリン価格がどかんと上がり、その次にだんだんと天然ガスや石炭を使っている電気代が上がった」と解説。
さらに、他の要因として、ゲスト出演した岩手保健医療大学理事で経済評論家の濵田敏彰氏は「欧州を熱波が襲ったり、エルニーニョ現象やラニーニャ現象などがもたらす世界的な異常気象で、例えばカカオ豆は3倍に値上がりしていたりする。そうすると、チョコレートが値上がりする。また、ウクライナ戦争では、ウクライナが麦やひまわりなど農産物をたくさん輸出している国だったため、それらの価格も上がるなど食べ物の値段も上がっている」と指摘。加えて「コロナ禍では物流網が混乱して、港湾で荷物があがらずモノが不足して、パソコンや自動車の払底を起こした。今もまた、地域紛争の影響でスエズ運河を先進国の船が通らなくなっている。こういった世界的な物流要因もある」と述べた。
また、物価高の背景には、これらの輸入価格自体の上昇に加え円安があるとして、石川は「加工食品の原材料となる小麦や、ガソリン・電気のもととなる原油、天然ガス、石炭などのほぼ全量を日本は輸入に頼っている。ただでさえ原価が上がったうえに、円安になるということは泣きっ面にハチが2匹も3匹もという状態」と言及。
濵田氏は長期的な円安基調の原因について「日本の戦後の貿易は、だいたいGDPの約10%の輸出入だった。それが今、若干、輸出入ともに上がって約15%程度になっている。2011年の東日本大震災の原発事故以降、原発の停止によって火力発電に頼る部分が大きくなり、天然ガスや石炭などエネルギーの輸入依存度が高くなっている。これが跳ね上がって、貿易赤字を起こしている。その結果、これまで以上に海外にお金を払い続けているのも円安要因のひとつ」と分析。
石川は「為替レートや算出方法にもよるが、2011年以降に増えたこれらの輸入額は、2015年頃までは年間約3~4兆円、2016年以降は年間約2兆円程度に落ち着いたが、コロナ禍の反動やウクライナ情勢でここ数年は再び跳ね上がり、今はおそらく2011年の東日本大震災の原発事故前に比べて、最大で6~7兆円膨らんでいる」と指摘。そのうえで「これらの輸入超過額は、日本全体の名目GDP比でみれば1%程度と影響は小さいようにもとれるが、ガソリン代や電気・ガス代など生活必需財、つまり毎月毎月保険料や税金のように必ずかかる料金が高止まりしているということで、ほかの可処分所得を確実に減らし家計を圧迫している」と持論を述べた。
番組情報
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※2024年4月6日(土)までは『石川和男のエネルギーリテラシー』