Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1210回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、10月18日公開の『まる』と『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』をご紹介します。
『まる』堂本剛×荻上直子監督、夢のタッグが実現した!
『かもめ食堂』や『彼らが本気で編むときは、』など、国内外で高い評価を受ける荻上直子監督。
最新作となる『まる』は、日常が“◯(まる)”に侵食されていく男の姿を追った奇想天外な物語。
ちょっぴり奇妙だけど愛さずにはいられない人々を、独特の世界観で描いてきた荻上直子監督の作家性が凝縮された珠玉の一作が完成しました。
『まる』のあらすじ
美大を卒業したもののアートで食べていくことが出来ず、人気現代美術家のアシスタントをして暮らしている男、沢田。周囲の人間からハッパをかけられても、独立する気配もなければ、そんな気力さえなし。言われたことを淡々とこなすだけの日々を送っていた。
ある日、通勤途中に事故に遭った彼は、大切な腕を怪我したために職を失ってしまう。部屋に戻ると、床に蟻が1匹。その蟻に導かれるように、◯(まる)を描いた沢田。
その◯が知らぬ間にSNSで拡散されたことを発端に、沢田は正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名人になってしまうが……。
『まる』のみどころ
主人公の沢田を演じたのは、KinKi Kidsとして国民的スターの顔を持ち、クリエイティブプロジェクト「.ENDRECHERI.」としても独自の道を切り開いている堂本剛。
映画単独主演を務めたのは、1997年に公開された『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』以来、27年ぶり。荻上直子監督と企画プロデューサーからの熱烈オファーを受け、本作への出演が実現しました。
沢田役は、荻上監督が堂本剛にアテ書きしたもの。不思議な事態に巻き込まれていくうちに自分自身を見失ってしまうという、これまでには演じたことがないタイプのキャラクターを情感豊かに演じ、新境地を開拓しています。
共演は綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、柄本明、小林聡美など、個性豊かな俳優陣が集結。
主人公・沢田とどんな人間関係を繰り広げていくかにも注目です。
思いがけず社会的立場が上がってしまったことに戸惑いを隠せない沢田と、そんな彼にまとわりつく周囲の人々。そのコントラストが滑稽に映し出されている様子が印象的な本作。好奇の目に晒されたかと思うと、私利私欲のために利用されたり、思わぬ嫉妬を受けたり……。ファンタジックな風合いの作品でありながら、本作が持つテーマ性は現実社会に即した非常にリアルなものであることに驚かされます。
周りの状況に振り回されて、生きづらさを感じている人が少なからずいる世の中。そんな人にとって、ちょっぴり気持ちが楽になって、自分らしく生きるコツのようなものをそっと教えてくれる。優しさと強さに満ちたヒューマンドラマです。
『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』その力強く優しいピアノの音色は永遠
60代後半で鮮烈なデビューを果たして以来、2024年4月に92歳でこの世を去るまで、世界中で演奏活動を続けたピアニスト フジコ・ヘミング。2020年から4年間の足跡を、ピアノの演奏と共に描いたドキュメンタリー映画『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』。
4Kカメラで捉えた演奏シーンの迫力と素晴らしさは言わずもがな。自然体でカメラの前にいるフジコの姿は少女のように愛らしく、彼女の新たな素顔が垣間見えてきます。
いつ、どんな時も自分らしく生きてきたフジコ・ヘミングの姿に、心を揺さぶられる人も多いはず。最良の音が楽しめる映画館でこそ堪能してほしい一作です。
<作品情報>
まる
2024年10月18日(金)から全国ロードショー
出演:堂本剛
綾野剛 / 吉岡里帆 森崎ウィン 戸塚純貴 おいでやす小田 濱田マリ
柄本明 / 早乙女太一 片桐はいり 吉田鋼太郎 / 小林聡美
監督・脚本:荻上直子
音楽:.ENDRECHERI./堂本剛
主題歌:堂本剛 『街(movie ver.)』
制作プロダクション:アスミック・エース、ジョーカーフィルムズ
製作・配給:アスミック・エース
(C)2024 Asmik Ace, Inc.
公式サイト https://maru.asmik-ace.co.jp
<作品情報>
恋するピアニスト フジコ・ヘミング
2024年10月18日(金)から新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演・音楽:フジコ・ヘミング
監督・構成・編集:小松莊一良
プロデューサー:大村英治 佐藤現
撮影監督:藤本誠司
録音・整音:井筒康仁
サウンドエンジニア:坂元達也
カラリスト:林元太郎
演出補:小松上花
企画:スピントーキョー
制作プロダクション:WOWOWエンタテインメント
制作:東映ビデオ、WOWOWエンタテインメント、スピントーキョー、WOWOW
配給:東映ビデオ
(C)2024「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」フィルムパートナーズ
公式サイト https://fuzjko-film.com/
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連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/