Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1241回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画・ドラマを発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、3月28日公開の『レイブンズ』と『BETTER MAN/ベター・マン』をご紹介します。

画像を見る(全13枚) (C)Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, The Y House Films
『レイブンズ』伝説の写真家・深瀬昌久、78年にわたる波瀾万丈の人生
1960年代から90年代にかけて活躍し、世界的にも高い評価を受けた写真家・深瀬昌久。彼の波瀾万丈な人生と妻・洋子との50年愛を、大胆なアプローチで描いた異色の伝記映画が誕生しました。
『レイブンズ』のメガホンを取ったのは、作家・写真家・ミュージシャンとしての経歴を持つマーク・ギル監督。2015年に読んだ新聞記事をきっかけに深瀬昌久の作品に魅了されたギル監督は、9年の歳月をかけて映画化を実現。実話とフィクションを織り交ぜて作り上げられた、ダークでシュールなラブストーリーです。
『レイブンズ』のあらすじ
北海道で生まれ育ち、地元の高校を卒業した深瀬昌久は、父が経営する写真館を継がずに上京。彷徨う日々の中で、鰐部洋子と恋に落ちる。彼女のエネルギーに満ちた美しさに魅せられた深瀬は、洋子を被写体に革新的な作品を生み出していく。
その一方で、家族愛に憧れていた深瀬は、洋子のために懸命に働くが、ついには彼女の信頼を裏切ることとなってしまう。洋子が家を出てからは、深瀬の生活は荒んでいくばかり。
そして、彼の心の闇は“鴉(カラス)の化身”へと転生していき……。
『レイブンズ』のみどころ
主演を務めたのは、「SHOGUN 将軍」でゴールデングローブ賞助演男優賞(テレビドラマ部門)を受賞した浅野忠信。マーク・ギル監督は本作の製作当初から「浅野忠信がキャスティング出来なければ、この映画はやめる」と明言していたほど、深瀬役は彼しか考えられなかったとか。そんなギル監督の信頼に応えるかのように、ワイルドかつ繊細に深瀬の生き様を体現。「こんな浅野忠信が観たかった!」と、歓喜する映画ファンも多いことでしょう。
そして深瀬にとって最愛の妻であり、最強の被写体であった鰐部洋子役は、話題の映画・ドラマへの出演が続く瀧内公美。自由奔放で生命力あふれる女性を、圧倒的な存在感で演じ切りました。
さらに古舘寛治、池松壮亮、高岡早紀といった実力派俳優が脇を固め、魔に取り憑かれた写真家の物語に深みを与えているのも必見です。
深瀬が撮影した35mmフィルム作品が多数登場し、「写真家・深瀬昌久」とはいかなる人物かを映し出した本作ですが、語るにおいて外せないのが、ツクヨミこと“ヨミちゃん”の存在です。ヨミちゃんは、背丈8フィート(約2.4m)の“喋るカラスの化身”。深瀬にしか見えず、深瀬の心の闇をシュールに具現化するこのクリーチャーは、マーク・ギル監督が日本の伝承に登場する天狗から着想を得たとのこと。
和テイストの魑魅魍魎のようなビジュアルもインパクト大ですが、「平凡な幸せを捨てろ」「無名の喜びを味わえ」など、ヨミちゃんが放つ哲学的なワードも、これまたパンチが効いてます。本作のダークファンタジーな部分を担う重要なキャラクターとして注目です。
刹那に生きた写真家・深瀬昌久の生涯。写真を撮ることでしか愛を伝えられなかった男の姿を、スクリーンでしっかりと見届けて。
『BETTER MAN/ベター・マン』斬新な映像表現に驚愕のミュージカル・エンタテインメント
1990年代初頭にボーイズグループ「テイク・ザット」のメンバーとしてデビュー。25年にわたるソロミュージシャンとしてのキャリアを通して、イギリス音楽史上、いくつもの記録を打ち立てたポップスター、ロビー・ウィリアムス。彼の波乱に満ちた人生をミュージカル化したのが『BETTER MAN/ベター・マン』です。
特筆すべきは、斬新な映像表現。なんと言っても驚きなのが、主人公であるロビーがサルの姿で描かれていること。何故、猿? どうして、サル? なんのために、モンキー??? あなたの頭の中を駆け巡るクエスチョンマークの数々も、ゴージャスなミュージカルシーンとドラマ性に満ちたストーリーに払拭され、感動と興奮に包まれること間違いなし。
没入感に思い切り浸れる、ミュージカル・エンタテインメント。大きなスクリーンで観ないと後悔しますよ!

(C)Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, The Y House Films
<作品紹介>
レイブンズ
2025年3月28日(金)からTOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国公開
出演:浅野忠信 瀧内公美 ホセ・ルイス・フェラー 古舘寛治 池松壮亮 高岡早紀
監督・脚本:マーク・ギル
撮影:フェルナンド・ルイス
音楽:テオフィル・ムッソーニ、ポール・レイ
原題:RAVENS
日本語字幕:先崎進
製作:VESTAPOL/ARK ENTERTAINMENT/ MINDED FACTORY/ KATSIZE FiILMS/THE Y HOUSE FIILMS
製作協力:Teamo Production HQ LTD/TOWNHOUSE MEDIA FILMWORKS
配給:アークエンタテインメント
助成: 文化芸術振興費補助金(国際共同製作映画)
(C)Vestapol, Ark Entertainment, Minded Factory, The Y House Films
公式サイト https://www.ravens-movie.com/

(C)2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved.
<作品紹介>
BETTER MAN/ベター・マン
出演:ロビー・ウィリアムズ ジョノ・デイヴィス スティーブ・ペンバートン アリソン・ステッドマン デイモン・ヘリマン ほか
監督:マイケル・グレイシー
エグゼクティブ・プロデューサー:ロビー・ウィリアムズ
共同脚本:シモン・グリーソン オリバー・コール マイケル・グレイシー
原題:BETTER MAN
配給:東和ピクチャーズ
(C)2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved.
公式サイト https://betterman-movie.jp/
連載情報

Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/