一筆球論【第4回】3連覇ホークスの強力打線を支えた「トラジ

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一筆球論【第4回】3連覇ホークスの強力打線を支えた「トラジ

ソフトバンクが、前身の南海時代以来となる60年ぶりのリーグ3連覇を達成。優勝した9月18日時点でのチーム打率・260は同2位の日本ハムを1分も上回り、チーム総得点647は、同最下位の楽天が422、同2位の日本ハムも553だから、打線の破壊力に加えての、得点を挙げるその効率性もずば抜けていたことが、数字の上でも証明されている。

その強力打線を作り上げるための〝下支え〟として「トラジェクトアーク」という最新機器の名前が頻出したことに気付いた野球ファンの方々も多いのではないでしょうか。ただ、その性能をはじめ、どんな機械なのか、案外と詳述されてもいないような気がします。

 

実は私、その「トラジェクトアーク」を実際に見せて頂いたことがあります。昨年5月に上梓した「ソフトバンクホークス 4軍制プロジェクトの正体」(光文社新書)の取材で、福岡・筑後市にある練習施設「HAWKSベースボールパーク筑後」を訪問した際、球団スタッフの立会いの下、その〝凄さ〟の解説を受けるという、貴重な機会を得られたのです。

この最新鋭の打撃マシンは、マウンド上にスクリーンが設置され、等身大の相手投手の映像が映し出され、そのリリースポイントに合わせて、球が飛び出してくるスロットも動いて調整されます。さらに相手投手の球速、球種、回転数、リリースの角度といった投球に関する詳細なデータをマシンに入力すると、その投手の映像とともに〝完コピ〟された球が再現されるのです。

一筆球論【第4回】3連覇ホークスの強力打線を支えた「トラジ

トラジェクトアーク(モイネロ投手を再現した映像)

 

これがまず、2024年6月から筑後に導入され、2025年からは1軍の本拠地・みずほpayPayドーム福岡にも設置されました。なので、ソフトバンクの打者陣は普段から相手投手を想定して、より実戦に近い形で練習ができるのです。しかも、打撃練習中の自らのフォーム、スイングスピード、打球方向、打球速度といったあらゆるデータも瞬時に確認ができます。それらの〝取れたての情報〟に基づいて、過去のデータや自分の感覚と照らし合わせれば、その日の調子も読み取れる上に、しっくりこないポイントなどがあれば、そこにフォーカスし、データや動作解析、あるいはコーチ、アナリストたちのアドバイスも受けて、しっかりと軌道修正することもできます。

 

この「トラジェクトアーク」は、メジャーのほとんどすべての球団が導入していると伝えられておりまして、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平も試合前、さらには試合中にもこれを使って精力的に打ち込んでいるそうです。大谷が屋外で打撃練習をするケースが少ないことはよく知られた話ですが、この「トラジェクトアーク」を使えば、打球の角度や飛距離も瞬時にはじき出され、バットとボールのコンタクトした位置、バットの軌道なども即座に解析されるので、屋外でのフリー打撃よりも、室内であっても、1スイングごとにあらゆるデータをチェックできる「トラジェクトアーク」を使った方が、間違いなく試合に生きてくるというわけです。

 

リーグ優勝翌日の9月18日付の日刊スポーツには、今季ソフトバンクの1番打者としてブレークした正木智也の手記が掲載されています。右足の蜂窩織炎のため、1軍合流は5月までずれ込みながら、優勝決定までにキャリアハイを超える27本塁打、初回先頭打者アーチも球団新記録の7本を放つ活躍ぶりを見せた正木は、日刊スポーツの優勝手記の中で「トラジェクトアーク」に言及しています。その一部を抜粋しておきましょう。

「相手を予習するにはとても優秀なマシンです。今年は特に初対戦の投手も多かったので、その時は必ずトラジェクトアークで打って軌道を確かめています。今ではそれをやらないと試合に臨めないくらい信頼しています。映像の投球フォームは全部同じ腕の振りでいろんな球種が出てくるので、すごく練習になります。予習しているので初球から全然いけるし、探っていかなくていいので」(以上抜粋)

 

日本でも、ソフトバンクをはじめ、巨人や日本ハム、楽天、阪神などの複数球団がすでにこの「トラジェクトアーク」を活用しており、月ごとのリース料は約300万円、3年契約のトータルで約1億円とも言われています。もちろんその機能は〝凄い〟の一言なのですが、たかだか野球の練習用の機械に1億円を費やすなんて「稼いでくる事業側からしたら高すぎるのでは、とは思ったりしないのだろうか?」という私のチープな発想から、ソフトバンクの〝稼ぐ部門〟を取り仕切る総責任者、代表取締役専務COO兼事業統括本部長の太田宏昭に、その〝懸念〟をぶつけてみたのですが、それこそ一笑に付されてしまいました。

「え、安いな、みたいな感じですよ。だって、効率いいじゃん、って思いますから。1億円使って、そのマシンを何人も使えるじゃないですか」

確かに、おっしゃる通りです。打撃投手のマンパワーなら、肩やひじの疲労による限界もあります。かといって、実戦に近い練習をするために、現役の投手を使うわけにもいきません。しかし、テクノロジーの力を使えば、当日に先発する相手投手のタマをAIでリアルに再現することができ、しかも機械は全くの〝疲れ知らず〟で、それこそ、何人を相手に投げようが、それこそ一日中であろうとも、ひたすら投げ続けてくれます。

一筆球論【第4回】3連覇ホークスの強力打線を支えた「トラジ

「そうですよ。だから、システムはいろんな人が使えるし、それでシステムが成長すればいいわけです。もちろん、額にもよりますがね」

 

太田本部長がおっしゃるように、こうした新時代に則した発想に基づき、効率よく投資していくことで、機械もシステムもどんどん進化していく時代なのです。野球界も当然、こうした革新の波に乗っていかなければならないのです。

太田本部長はこう続けました。

「この変化が速いですよね。でも、やっぱり時代が速いんですよ。AIが入って来て、ものすごく速くなったんです。我々の営業の仕方でも全然変わっているんです。マーケティングもそう、R&Dもそうですけど、やっぱりITを使って、AIを使ってやるのがもう当たり前になっている。それを僕らが理解してから、ということではなくて、直接分かる人間がそれでやった方がいい。それはチーム側もそうで、それこそ20代、30代くらいのよく知っているメンバーをど真ん中に置く感じにすると、必然的に早く代謝しちゃうんですね」

こうして最新機器を活用すれば、自分自身が考えて、極端な話、一人でも練習に取り組むことができるようになります。そうした自主性を促す環境が生まれることで、かつての〝やらされる練習〟からの脱却も、必然的に進んでいくともいえるのです。

 

「トラジェクトアーク」にまつわる、こんなエピソードもあります。

1軍昇格が決まったある若手選手が「トラジェクトアーク」で対戦相手を想定して打ち込んでから1軍へ合流。実際に1軍の打席で対戦した後、筑後に戻って来ると、R&Dのスタッフに「この機械の方が、本人より凄かったです」と大真面目に振り返ったそうです。

こうした意見は、実は主力組からも出ているそうで、選手たちからは「その投手の調子が悪いときのデータも入れてほしい」という、細かい要望も出たそうです。つまり、最初のデータは、あくまで〝絶好調モード〟になるわけですが、例えば対戦前に相手投手を分析したところ、ここ何試合の傾向がこうなっている、という〝変化〟に対応したデータを入れておけば、それこそ〝不調時の球〟も試合前に確認することができ、さらには試合中にも、その日の対戦で確認したデータを入れれば、即座に対応できるというわけです。

 

孫オーナーは、この「トラジェクトアーク」導入の話を聞いた際に「そんなにいいものなら、10台くらい買ったらいいじゃないの?」とおっしゃったそうで、さらには「こういうものを、ウチでは作れないのかな?」という〝開発指令〟も出しているそうです。ソフトバンクは、こうしたAIを活用した最新機器を扱うスペシャリストたちが集まった会社みたいなものですから、そうした考えに至るのもむしろ当然かもしれません。

もちろん、「トラジェクトアーク」にインプットするセ・リーグの投手のデータも完備されているとお聞きしました。ソフトバンクはクライマックスシリーズから日本シリーズへと続いていく〝秋の陣〟を、この〝最強の相棒〟とともに、突き進んでいくのです。

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