さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
「しゃベルシネマ」では、いよいよ全国公開となった映画『セトウツミ』の大森立嗣監督を、2回にわたってクローズアップ。本作を手がけるにあたってのこだわり、撮影エピソードなどを掘り起こします。
八雲ふみね(以下、八雲):とてもシンプルな会話劇の中に、ごく普通の高校生の日常的な面白みが体現されている映画で楽しく拝見しました。大森監督が原作コミックを読んだときに持った本作の第一印象は?
大森立嗣監督(以下、大森監督):セリフが面白い作品だなと思いました。同時に、これを映画化するのはすごいチャレンジだなとも思いましたね。映画を一本制作する中で、俳優の会話を撮影する分量って意外と少ないんですよ。歩いてるシーン、車を運転するシーン、実景の撮影…というように、映画は様々なシーンで構成されていますから。
でもこの映画の場合、最初から最後まで主人公二人が河原に座って、ひたすら喋ってるだけ。どうなるのかぁ…と、予測がつかない部分もありましたね。ただ監督を引き受けた時点で、池松(壮亮)くんと菅田(将暉)くんの出演が決まっていた。だから彼らの芝居をきちんと撮れば、成立するんじゃないか。そんな思いもありました。
八雲:大森監督にとっては、漫画原作の映画化は初めてですか?
大森監督:そうですね。初めてです。
八雲:原作ものの映画化で、元が小説と漫画とでは違いはあるのでしょうか?
大森監督:漫画はやっぱり絵の力があるから、引っ張られそうになりますね。当初はカット割りを決める時に、どうしても原作の影響を受けてしまって。だから途中で、原作を読むのは止めました(笑)。カット割りは、何をどう見せていくかを決める重要な作業。これはどの作品を手がけるときでも同じですが、僕の場合、前日までにカット割りを決めておきます。もちろん、現場での状況によって変更することもありますよ。でも事前に決めておいた方が、撮影そのものも早く進むんです。
八雲:本作は大阪の堺市にある河原で撮影されました。ロケ場所に選んだ決め手は?
大森監督:原作と同じ場所だからです。何処でもいいけど、だからと言って東京で撮影するのもなぁ…。だったら、原作で描かれている場所が実在するなら其処でやろうと。
八雲:原作と同じ場所なら、ロケ地から受けるインスピレーションもあったのでしょうか…。
大森監督:いやぁ、それが撮影には向かない場所で。奥行きもないし、夕方になると逆光気味になるし(笑)。
八雲:(笑)。原作と同じ場所じゃなかったら使いませんでしたか?
大森監督:使わないですね〜(笑)。だって、ずっと河原にいるんだもん。逃げ道がないですよね(笑)。まぁ、そういう環境も含めて撮ってて面白い部分もありましたけどね。
八雲:主人公二人がほとんど動かずに、河原に座り込んで喋ってるからでしょうか。映画を観ていると、だんだん後方に映り込む通行人の姿や車の動きが気になってくるんです。
大森監督:歩行者はエキストラで、意識的に盛り込みましたね。自動車については、シーンによって(画面に)映り込まないように停まって待ってもらったり。地元の方々には、かなり協力してもらいましたね。特に、朝は交通量が多かったので…。あとは、交通量が少ない時間帯を狙って撮影したりもしました。
八雲:会話の後ろで自動車の走行音が聞こえたりしたので、良い意味で生活感が滲み出た絵だなと思いました。でも、裏側ではいろんなご苦労もあったんですね。池松さん、菅田さんのお芝居についてですが、監督から何かアドバイスされたことはありましたか?
大森監督:う〜ん、何か言ったかなぁ…。例えば菅田くんには、いまの芝居はオーバーだったとか、逆にもっとやってくれとか。でも、まずはやってみろと。二人で作った芝居を見せてもらって、そこから調整するような進め方でしたね。
どんな映画になるかは、なんだかんだ俳優の実力にかかってくる。だから俳優が何を感じてどんな芝居をするか、それを尊重しないことにはいいものは作れないと思います。その点、池松くんも菅田くんも脚本を読む力があって、なおかつ表現力が豊か。そういった意味では、この二人だからこそ撮れたものも多かったのではないかと思います。
つづく…。
映画『セトウツミ』大森立嗣監督インタビュー<後編>では、大森立嗣監督から見た池松壮亮さんと菅田将暉さんの魅力について伺います。お楽しみに。
■大森立嗣プロフィール
1970年東京都出身。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。独特の世界観と圧倒的な映像美でロカルノ国際映画祭コンペティション部門、東京国際映画祭コンペティション部門など、多くの映画祭に出品され、賞賛を浴びた。ほか『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010年)、『まほろ駅前多田便利軒』(2011年)、『まほろ駅前狂騒曲』(2013年)、『ぼっちゃん』(2013年)。『さよなら渓谷』(2013年)ではモスクワ国際映画祭審査員特別賞を受賞。鋭い人間観察と高い演出力で、日本映画界のみならず世界中が注目する実力派監督。父は、前衛舞踏家で俳優でもある麿赤兒。弟は俳優の大森南朋。
<セトウツミ>
新宿ピカデリーほか全国公開中
監督:大森立嗣
原作:此元和津也 (秋田書店「別冊少年チャンピオン」連載)
出演:池松壮亮、菅田将暉、中条あやみ、宇野祥平 ほか
©此元和津也(別冊少年チャンピオン)2013 ©2016映画「セトウツミ」製作委員会
公式サイト http://www.setoutsumi.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/