都議会の‘’ドン”?~‘’ドン”と呼ばれた男たち  【ひでたけのやじうま好奇心】

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最近めっきりと聴かれなくなった言葉…
若い人たちの間では完全に「死語」扱いとなっている言葉のひとつに、絶大な権力を持つヒトのことを意味する‘’ドン”という言葉があります。
ところが先頃、都議会の‘’ドン”の存在がクローズアップされたのをキッカケに、またぞろ「ドン」という言葉が、やたらと使われるようになりました。

そこで今日は、知っているようで知らない‘’ドン”の正体に、とことん迫ってみましょう!

まず… ‘’ドン”という言葉を聴いて、皆さんは、どんなイメージ、どんな顔ぶれを想像しますか?
意味合いとしては、「ボス」と似てますが、もっと貫録があって、「黒幕」的なイメージですよね。

ちなみに、昭和日本において‘’ドン”と呼ばれた有名な人物としては…

竹下登,金丸信

竹下登、金丸信 写真提供:産経新聞社

「政界の‘’ドン”」金丸信さん!
「球界の‘’ドン”」川上哲治さん!
「三越の‘’ドン”」岡田茂さん!
あるいは、「税調の‘’ドン”」山中貞則さん!
… などなど、いずれも一筋縄ではいかないというか、いかにも「影の実力者」という感じです。

しかし否、元をただしますと、この‘’ドン”という言葉、実は黒幕的な意味合いは全くない言葉でした。
そもそも‘’ドン”(don)とは、スペイン語圏、イタリア語圏で使われる言葉で、男性の名前の前につける、単なる「敬称」に過ぎないのです。
ラテン語の王様への敬称である「ドミヌス (dominus)」が「‘’ドン”(don)」に変化したそうでして、中世の時代には、やんごとなき貴族や、教会のエライ人たちに対して使われていたそうです。
まぁ、カンタンに言うと、「○○閣下」とか「○○様」… というような意味合いですね。

たとえば「ドン・キホーテ」という名前を耳にしたことがあるでしょう。
これは15世紀にスペインで発表された小説の主人公の名前。
風車を怪物と間違えて、一騎打ちを行なおうとするシーンで、余りに有名ですが…
この「ドン・キホーテ」とは「キホーテ閣下」とか「キホーテ様」という意味ですね。

17世紀頃には、同じくスペインに‘’ドン”がアタマに付く伝説のプレイボーイが現れます。
誰だか分かりますか?
そう… 「ドン・ファン」です。
「あいつはモテやがるんだよなぁ… 生まれながらのドン・ファンだよ!」などと、いまだに「プレイボーイ」の代名詞として使われていますが、ドン・ファンは名前では無く「ファン閣下」「ファン様」という意味となります。
そんなワケで、中世までは‘’ドン”という言葉に「ボス然とした影の実力者」という意味合いは全く無く、もちろんスペインやイタリアから遠く離れた日本では「ドン」という言葉さえ知りませんでした。

さぁ、ところが… それから何百年という歳月が流れて…ようやく、この日本において、‘’ドン”がアタマに付く、超有名人が現れます。

ちょっと考えてみてください。日本でいちばん最初に、‘’ドン”と呼ばれた有名人とは、いったい誰でしょうか?
その男の名前とは… ズバリ!

「ドン・ガバチョ」です!

ひょっこりひょうたん島,ドン・ガバチョ

ひょっこりひょうたん島 (左)サントラCD (右)絵本

1964年(昭和39年)から5年間に渡って放送されたNHK人形劇『ひょっこりひょうたん島』。
ひょうたん島の初代大統領が、他ならぬ「ドン・ガバチョ」で、番組で1,2の人気を争う人気キャラでした。
「ドン・ガバチョ」もやはり「ガバチョ閣下」とか「ガバチョ様」という意味だったんですね。
…こうして、日本においても「ドン○○」という名前が定着したのですが…
それでもまだ「ドン」という言葉に、今のような「黒幕」的な意味合いは、ありませんでした。

では… ‘’ドン”イコール「黒幕」「影の実力者」というイメージを決定づけたのは、いったい誰か?
それは… ズバリ! 1972年(昭和47年)に公開されたフランシス・フォード・コッポラ監督の代表作、
ご存じ『ゴッドファーザー』の主人公です。

ゴッドファーザー,マーロン・ブランド

アメリカの闇社会に生きるイタリアン・マフィアを描いたこの作品。
当時の興行収入を塗り替える世界的な大ヒットとなりましたが…
この映画で、マフィアの一族「コルレオーネ一家」の頂点に立つボスこそが、マーロン・ブランド演じる「“ドン”・ヴィトー・コルレオーネ」だったんですね。

「ヴィトー・コルレオーネ」は、威厳を保つため、部下たちに‘’ドン”の尊称で呼ばせます。
そして父親の死後、二代目を継いだ「“ドン”・マイケル・コルレオーネ」も同じように。。。

この映画の大ヒットで‘’ドン”=「黒幕」「影の実力者」というイメージが、完全に定着!
要するに、いま使われている‘’ドン”のイメージの元祖は『ゴッドファーザー』の主人公「ドン・コルレオーネ」だったんです。

さらにその後日本では、この‘’ドン”という言葉は、さらなる独自の“進化”を遂げていきます。
それは… 「首領」と書いて‘’ドン”と読ませる… という手法です。

もちろん、大ヒットしたマフィア映画「ゴッドファーザー」の影響を受けてのことなのですが、
1977年からスタートした東映の任侠映画シリーズ『日本の首領‘’ドン”』が、この読ませ方の元祖!
ちなみに、この読み方を「発明」したのは、『仁義なき闘い』の原作者、飯干晃一さんだと言われています。

日本の首領

さらに翌1978年には、アイドル歌手、石野真子さんが、『わたしの首領‘’ドン”』という歌を出しました。作詞は、期を見るに敏な、天才・阿久悠さん

わたしの首領,石野真子

なんと恋人のことを「首領」と書いて‘’ドン”と読ませたのですが、この歌もヒットしまして、お茶の間に、‘’ドン”という言葉が、あまねく広まることになったのです。

以来、はや幾年…。しばらく‘’ドン”という言葉は鳴りを潜めていましたが、このたび、「都議会のドン」のおかげ?で、実に久しぶりに復活を遂げました!!!

いかがでしょうか。
あなたの周りに… ‘’ドン”はいますか?

9月7日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

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