わたしたちは何の役にも立たないでこの世にいるはずはないのです。
子供も大人もひとりひとりに役があります。
阪神大人災に遭われたお年寄りも、
「何のために生きているのか、こんな目に遭ってまで生きていたくない」
とおっしゃいます。
しかし、震災でお年寄りがほんとうに困って苦労しているという、その現実をわたしたちにしらせてくれたからこそ、震災に遭わなかったわたしたちも、震災はいつ来るかわからない、という警戒心を抱くことができるのです。
あんなつらい境遇になるんだな、気の毒だな、いたわらなければいけないな、という気持ちが持てるではありませんか。
簡単に自分を見限ってはいけません。
そこに居てくれるだけで、人に役立ち、慰め、力づけ、だれかを幸せにしているのですから。
瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ