岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を語る<後篇>

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第261回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

現在、全国公開中の劇場版アニメーション『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。

本作の原作者でありオリジナルドラマの脚本・監督を務めた岩井俊二さんをゲストに迎え、本作の見どころ、伝説的名作ドラマ、そして書き下ろし小説のさらなる魅力を掘り起こします。
(『岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』<前篇>』はコチラ


子どもが持つ“不変”と向き合う“覚悟” その2

岩井俊二〈以下、岩井〉)子どもを主人公に描いていくのは、実はとても難しい。
なんだろうな…、大人だと意外とストーリーにごまかしが利くというか…。言い訳が立つというか…。

八雲ふみね〈以下、八雲〉)逃げ道がある?

岩井俊二 八雲ふみね

インタビュー中の岩井俊二監督(左)と八雲ふみね(右)

岩井)ありますね。どういうバリエーションでも「こういう話もまぁあるよね」ってなるんだけど、子どもの頃の体験は、みんなが通過しているだけに「合点がいかない」と誰かが言い出したら、オールダメ出しになりそうで…。

八雲)あぁ、確かに。自分の記憶に強く残っていることだけに、嘘が通じない感じがします。

岩井)例えば警察官とかお医者さんとか、その職業をよく知らなくてもなんとなく共通認識となっているパブリックなイメージがありますよね。それが実情と違ったとしても、「これはドラマだから」ということでスルーしてもらえそうだけど、子どもの世界って、ある意味、誰もが経験してみんなが知ってる世界じゃないですか。
それはリアリティだけじゃなくエモーショナルな部分においても同じこと。子どもならではの物事の受け止め方や傷つき方があるわけで。それは時代やシチュエーションは違っても根底にあるものはきっと同じで、だからこそそこに“不変”があるわけですよね。
僕たちが子どもの頃に夢中で読んだジュブナイル小説にも、やはりその“不変”がきちんと落とし込まれている。あとは僕たち作り手がきちんと向かい合っているかどうか。それがこの20年ぐらい、実写映画においては怠りがちだったのかなって。

八雲)なるほど。

岩井)もちろん、子どもが持つ“不変”を描くには、それ相当の覚悟が必要。単純に“良いお話”を作ればいいというものではないと思うんですよね。小学生が主人公のものになると当然、小学生も観るので、彼らにとって忘れ難いものにしなきゃいけないし、どこか容赦ないものじゃないと…。

八雲)それがたとえ後味が悪いものでも…ですか?
あまりにもストーリーが残酷で、脳裏から焼き付いて離れない児童文学とかもありますよね。

奥菜恵

奥菜恵 テレビドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』より

岩井)僕らが子どもの頃、手塚治虫さんって漫画の神様のような人で、子どもたちもその才能を認めているんですけどね。じゃあ、みんなが手塚治虫の漫画がいちばん好きなのかっていうと、男の子の場合、仮面ライダーやサイボーグ007方が好きだったり、女の子はもっと少女的なものの方が好みだったり。僕が思うに、意外と手塚治虫って、子どもにとっては“ど真ん中”ではなかったのかなって。

八雲)あ、私も手塚作品の真の凄さに気付いたのは、大人になってからかもしれません。手塚治虫さんが描く世界観はあまりにリアルでショッキングで、子どもの頃は空恐ろしく感じたんですよね。

岩井)そう、子どもが読むものだから…と手加減をしていない。だからこそ、子どもの頃に体に残った作品というと、やっぱり手塚作品なんですよね。心じゃなくて、体に残る感じ。子どもと相対してモノ作りをするということは、そういうことなんだろうなって。
で、話を元に戻すと、日本にもジュブナイルものの名作って、沢山ありますよね。『時をかける少女』とか「なぞの転校生」(※)とか、少年少女の瑞々しい感性を見事に切り取っています。
「なぞの転校生」は僕たちで復刻しましたが、子どもたちを生き生きと描いている過去の作品から、僕自身、多大な影響を受けたし、そういう過去の名作を再現したいという思いもあるんですよね。
『スタンド・バイ・ミー』や『小さな恋のメロディ』に限らず、日本にも宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」や山中恒さんの「ぼくがぼくであること」のような児童文学の名作は沢山ある。
「打ち上げ花火〜」は『スタンド・バイ・ミー』や『小さな恋のメロディ』と並列されることが多いですが、どちらかと言うと、僕にとっては日本の児童文学へオマージュを捧げた作品なんです。

(※)「なぞの転校生」 1967年刊行の眉村卓のジュブナイル小説。1975年にNHKで連続ドラマ化、2014年にテレビ東京系にて岩井俊二脚本で再び連続ドラマ化された。

岩井俊二 八雲ふみね

話に花が咲く岩井俊二監督(左)と八雲ふみね(右)


「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」に潜む、壮大な“if”

八雲)私、劇場版アニメを観てる時に思ったんです。ひょっとしたら、この『打ち上げ花火〜』というプロジェクトそのものが、壮大な“if もしも”なのかな、と。

岩井)ほぉ…。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』より

八雲)伝説的な名作と言われているオリジナルドラマを、もし、アニメーション化したら…。もしも、岩井俊二というクリエイター以外の人が、これを手がけたら…。岩井さんご自身も、小説を書くなかで、“if もしも”を使わない“if”にチャレンジしてらっしゃる…。
元々「打ち上げ花火〜」という作品が生まれるきっかけとなった「if もしも」というドラマシリーズの定義が、根幹でつながっているように感じて。

岩井)映画も人生も、億万という“if”の中から、ふたつとない道を選ぶわけで。

八雲)そうですよね。

岩井)物語を書いていると、もう無限にあるわけですよ、“if”の選択肢は。じゃあ、どれを選んで、どれを切り捨てるのか。そして、どこで縫い閉じるのか。その作業の中では、勿体なくも捨ててしまう選択肢も沢山あるんですよね。

八雲)そうなんでしょうね。

岩井)我々は“if”の選択肢から、一度も逃れられない宿命にあるわけです。そこにスポットを当てたのが、フジテレビの「if もしも」シリーズだったんじゃないかなと思うんですけど。
その「if もしも」の中で、図らずも20数年の時を経て、また再び楽しませてもらった感はありますね。

八雲)オリジナルドラマ、劇場版アニメ、小説。まるで“三位一体”と言いましょうか、それぞれにアプローチの違うものを観ているようで最終的に到達する世界観は同じという、とても不思議な体験をさせていただきました。

岩井)子どもの頃の夏休みは、誰もが持っている思い出のひとつ。昔の「打ち上げ花火〜」のドラマもそうだったけど、作品というのは何も入ってないアルバムのようなもので。作品を観た人が自分の思い出や記憶を、その中に入れていくことで、自分にしかないオリジナルのアルバムになっていくんじゃないかな。それでようやく、本当の意味で作品が完成するんじゃないかと思います。
この劇場版アニメも、そんな風になってくれればいいですね。

岩井俊二 八雲ふみね

ページをめくる岩井俊二監督(左)と八雲ふみね(右)

小説「少年たちは横から花火を見たかった」をすでに読んだファンの間では、本編のあとに書き下ろされた「短い小説のための長いあとがき」が話題となっています。
しかし、本著にはふたつのあとがきが存在することをご存知でしたか?
角川つばさ文庫刊の同著には、いままさに少年少女時代を過ごす子どもたちに向けたあとがきが著されているのです。
そこには岩井さんが本作を執筆しながら再会した、瑞々しい“岩井少年”の姿が。
是非、こちらもご一読あれ。

岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を語る<後篇>

岩井俊二

1963年生まれ、宮城県出身。
1993年「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で日本監督協会新人賞を受賞。テレビドラマでの受賞者は異例。
初の劇場用長編映画となる『Love Letter』(95年)がアジアで大ブレイク。
その独特な映像美は“岩井美学”と称され、熱狂的な支持を集め多くのクリエイターに影響を与えている。
主な監督作に『スワロウテイル』(96年)、『四月物語』(98年)、『リリイ・シュシュのすべて』(01年)、『花とアリス』(04年)
『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16年)など。
また海外にも活動を広げ『New York, I Love You(3rd episode)』(09年)、『ヴァンパイア』(12年)を監督。
2015年には長編アニメーション作品となる『花とアリス殺人事件』に挑み、国内外で高い評価を得る。
復興支援ソング「花は咲く」の作詞を手がける。

岩井俊二 Twitter @sindyeye
iwai shunji film festival http://iwaiff.com/

岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を語る<後篇>

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

全国東宝系にて大ヒット公開中
原作:岩井俊二
脚本:大根仁
総監督:新房昭之
声の出演:広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、浅沼晋太郎、豊永利行、梶裕貴、三木眞一郎、花澤香菜、櫻井孝宏、根谷美智子、飛田展男、宮本充、立木文彦、松たか子 ほか
©2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
公式サイト http://uchiagehanabi.jp/

花火があがるとき、 恋の奇跡が起きる…。
繰り返す夏休みの1日、中学生たちの青春ファンタジー。

岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を語る<後篇>

少年たちは花火を横から見たかった

岩井俊二 角川文庫
本体480円(税別)
関連サイト http://www.kadokawa.co.jp/product/321701000338/

やがてこの町から消える少女なずなを巡る典道とその仲間の少年たち。
少年から青年になる時期の繊細で瑞々しい時期の友情と初恋の物語。

岩井俊二監督を独占インタビュー『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を語る<後篇>

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」実写豪華版Blu-ray BOX

監督:岩井俊二
主演:山崎裕太・奥菜恵
品番:NNB-0001
発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ
価格:¥7,400(税別)
関連サイト http://www1.enekoshop.jp/shop/iwaiff/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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