■セント・バーナードの「永久」がリボンをつける理由とは…?
スイスの雪山遭難救助犬として知られるセント・バーナード犬。
往年の名作アニメ「アルプスの少女ハイジ」で、その存在を知った…という人も多いかもしれません。
セント・バーナードの特徴と言えば、なんといってもその大きな体。大きいものでは体高が100cm、体重が90kg近くになるものもいるそうです。
都内にお住いの鳥居礼子さんご夫妻の愛犬、セント・バーナードの「永久(とわ)」(雌)も、2歳にして体重はすでに75kg!
「体は大きいですが、本当に優しくておっとりした性格なんですよ」と鳥居さん。
そもそもセント・バーナードという犬種自体、温和でおだやかな性格の犬が多いのだそうです。
たしかに永久の目、本当に優しそうな光をたたえています。
「でも見た目が大きいので、怖がられてしまうことも多いんです。特にうちの場合は自宅の近くに幼稚園があるので、園児を驚かせてしまわないよう、工夫しています」
その工夫とは、かわいいリボンや洋服を身に付けさせること。
たしかに小さなリボンを1つつけただけで、印象がぐっとかわいらしくなりますね。
永久だけでなく、永久の妹分・ニューファンドランド犬の望歩(もあ、雌、9か月)も大型犬なので、外出時はいつもリボンとお洋服でおめかしするのだとか。
「以前は通りがかりの見知らぬ人に『うわ!こわっ』!と言われたりすると、ムッとしていました。
『うちのコのこと何もしらない癖に』って。でも、誤解されて怖がられたままだと永久たちのためにならないことに気づいたんです。怖がられるより好かれて可愛がられたほうがいいですものね。飼い主が一歩先を考えて犬を守ってあげないと。犬たちのおかげで私もだいぶ人間が丸くなりました」と目を細める鳥居さん。
鳥居さんと永久との出会いには、ちょっとしたドラマがありました。
■2年間の壮絶介護。そして…
実は永久は鳥居家にとって2頭目のセント・バーナード。
1頭目に飼ったのは今から2年前に13歳で亡くなった凜(りん)でした。
「凜は人の言葉が分かるんじゃないか…?と思うくらい賢くて手のかからない犬でした。当時も我が家には他にも犬がいましたけど、その犬たちの面倒をよく見てくれて、まるで『学級委員長』のように犬たちをまとめてくれました。本当にいい犬でしたね」と懐かしむ鳥居さん。
凜も永久と同じく体重が80kg近くある大きな犬でしたが、その優しい性格でたくさんの人に可愛がられました。
ところが加齢とともに少しずつ体力が衰えていった凜は、11歳から13歳で亡くなるまでの2年間は、歩行が困難になり、介護が必要な体になってしまいました。
そんな凜を、鳥居さん夫妻は力を合わせて24時間体制で介護。
食事や排せつはもちろん、床ずれができてしまわないように体をこまめに動かしてあげたり、退屈しないように話しかけたり…と、献身的な介護を続けました。
そして2年後、ご夫妻に見守られながら眠るように凜は旅立っていったのです。
「セント・バーナードは寿命が10歳に届かないコが多いので、13歳まで生きた凜は大往生。そう自分に言い聞かせました」という鳥居さんですが、凜が亡くなってしばらく経ったある夜、大変な事態に陥ってしまいます。なんと真夜中に意識を失い、救急病院に運ばれてしまったのです!
「凜の生前は数時間おきに排泄の世話をしていて、夜中の3時に起きる習慣でした。だから凜が亡くなってしばらくの間、3時になると目が覚めてしまっていたんです。その夜も3時に目が覚めると、なんだか胸が苦しくて…。『これは変だ』と思って主人を起こし『病院につれていってくれる?』と頼んだところまでは覚えているんですが、その後の記憶はナシ。意識を失ってしまい、気づいたら救急病院に入院していました」。
その後、心療内科で「ペットロス」と診断された鳥居さん。「頭では凜は大往生だったと理解していても、心はまだ凜の死を受け入れられていなかったんだと思います」。
そんな一連の騒動をご主人がFacebookに投稿したところ、全国の犬友達から続々と励ましのメッセージが!
そしてある友人が「ちょうど生まれたばかりのセント・バーナードがいるから、飼ってみない?元気になれるよ!」と声を掛けてくれたのです。
これを聞いて、「もしかしたら、凜の生まれ変わりかもしれない…」と感じた鳥居さん。ご主人と話し合って、もう1度、セント・バーナードと暮らすことを決めたのです。
そして凜の49日を終えたころ、満を持して鳥居家に引き取られたのが、永久(とわ)なのです。
■「犬たちの一生を、どれだけ幸せにできるだろう?」
2頭目のセント・バーナード・永久がやってきてから、鳥居家は再びにぎやかに!
子犬時代の永久は、凜の子犬のころと同じく、イタズラ三昧!
「そんな永久を見ていると、凜のことを思い出します。ああ、あのときヴィトンのバッグをボロボロにされたな~とか、お気に入りのテーブルの脚を噛まれたな~とか(笑)。思い出すうちに少しずつペットロスから立ち直ることができました。凜や永久はじめ、今までうちに来てくれたすべての犬たちに、私は本当にたくさんの愛情をもらって、救われてきたんです」。
そんな犬たちのために「なにかできることをしたい…」という思いから、鳥居さんは保護犬のレスキュー活動に取り組んでいます。
特にセント・バーナードのレスキューには力を入れていて、飼養放棄の現場から自宅に直接引き取った上で、ネットなどで里親を募集。
引き取ってくれる良い飼い主さんがみつかったら、日本中、どこまでも自分の手で届けに出向きます。
また、前足に障害のある柴犬・ひばりちゃんを引き取り、自宅で一緒に暮らしながら治療を続けています。
その他、ニューファンドランドの望歩(もあ)、プチバセットグリフォンバンデーンの柚(ゆず)、ヨークシャーテリアの「ちびら」もあわせると、鳥居家で暮らす犬たちは計5頭になりました。
「犬と暮らすのは本当に楽しいけれど、大変なこともたくさん。だから安易な軽い気持ちで犬を飼うのは絶対にやめてほしいと思っています。医療費もかかりますし、毎日のお散歩も大変です。特に大型犬は4時間に1度、トイレのために外につれて行くようにしているので、長時間の外出もできませんし、夜中も起きなければいけませんから、時間の制約もあります。我が家の場合は、犬たちのためなら大抵のことは我慢できるっていう覚悟をもって一緒に暮らしています」。
そんな鳥居さんが今一番気を付けているのが、永久と望歩の健康管理。
「凜の介護を経験して、大型犬の介護が犬にとっても飼い主にとっても、どんなに大変なことか痛いほどわかりました。だから、永久たちには、寝たきりにならないように、できるだけ長く自分の足で歩けるようにしてあげたい。そのために食事や運動には気を遣っています」とのこと。
暑い時期には運動不足を防ぐために、毎週末、山中湖の施設まで出かけて、2頭を犬用のプールで泳がせているそうです。
「人間に比べて本当に短い犬たちの一生。その一生をどれだけ心穏やかに幸せに過ごさせてあげられるか…、いつも考えています。そうすることで、私自身もとても幸せな気持ちになるんです」。
ご主人のリタイア後には「犬たちと一緒にもっとのびのび過ごせる場所に引っ越すのもいいね」と話しているという鳥居さんご夫妻。
お二人の未来予想図の中には、いつも犬たちの姿が。
「これからもずっと、家族みんなで穏やかに暮らしながら、保護犬のレスキュー活動もできる限り続けていきたいと思っています」。