まさか私が…初めての愛犬から学んだこと【わん!ダフルストーリー】
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初めての愛犬・グーとの出会い
犬との出会いは人それぞれ。どのタイミングでどんな犬と出会うかは、まさに神のみぞ知る運命と言えるかもしれません。都内に住む丸野さんが初めて犬を飼うことになったのは、今から約20年前、結婚してまだ間もないころのことでした。初めて飼った犬の名前はグー。シルバーダップルの毛並みが美しい、オスのミニチュアダックスフントでした。
「子どもの頃から犬は好きでしたが、それまで1度も飼ったことがなかったのです。だから、主人の希望でグーを飼うことになったときは、嬉しい反面、ちょっとだけ不安もありました。一緒に楽しく暮らせるかなって」。
でも、それは全くの杞憂でした。犬の飼育経験があるご主人がサポートしてくれたこともあって、丸野さんとグーの生活はごくスムーズにスタートしたのです。
「犬って想像していたよりもずっと賢くて、優しくて、そして楽しい生き物!グーには本当によく笑わせてもらいました」と懐かしむ丸野さん。今でも思い出すと笑ってしまうのは、いたずらをした後のグーの表情です。
「子犬のころ、グーは段ボール製の小屋を使っていたのですが、お留守番中にそれを噛んでバラバラにしてしまうことがよくありました。帰宅して『こらっ!』と叱ると、鼻の横に噛み切った段ボールをくっつけているくせに、『え?ボクじゃないよ』ってそ知らぬふりをするんですよ。バレバレなのにとぼけている表情がおかしくて、おかしくて。見ていると叱る気も失せてしまって、逆にいとおしさがこみあげてくるんですよね」。
こんな毎日が1日また1日と積み重なるうちに、グーは丸野さんにとってかけがえのない存在になっていきました。
「それまで犬を飼ったことがなかったですし、まさか自分がこんなに犬を好きになるなんて我ながらビックリ。少し遅めでしたが、犬と暮らす楽しみを知ることができて本当に良かったと思います」。
赤ちゃんがやってきた!そのとき、グーは?
こうして穏やかな暮らしを続けていた丸野さんとグーでしたが、グーがやってきて4年ほど経ったころに、大きな変化が訪れました。
丸野さんが最初のお子さんを授かったのです。
「妊娠中は何ともなかったのですが、出産前に私が切迫早産のため入院してしまうと、グーの様子が急変。私の入院中は、寂しさによるストレスだったのか、下痢やおう吐を繰り返していたそうです」。
出産を終えた丸野さんが赤ちゃんを連れて自宅にもどると、グーは嬉しそうに迎えてくれたものの、赤ちゃんに対しては警戒モード。遠巻きにチラチラとみるだけで、しばらくの間は決して近づいてきませんでした。
「やきもち焼いているのかな?とか、ストレスになってしまうのではないかな?と少し心配したのですが、それもほんの少しの間。しばらくすると『赤ちゃん』(長男)が私たち夫婦にとってとても大切なものだということを理解したのでしょう、今度は急にお兄さん気取りで、赤ちゃんを守ってくれるようになりました」。
以来、グーは子守役として大活躍。しっぽや耳をひっぱられても怒りもせず、遊び相手に徹してくれたのです。
「赤ちゃんだった長男も今はもう15歳。グーのおかげで動物好きの優しい子に育ってくれたみたいです」と丸野さん。しかし、グーはその成長を最後まで見届けることはできませんでした。持病もなく元気いっぱいだったグーは、丸野さんの長男が5歳を迎える前に、癌をわずらい、天国に旅立ってしまったのです。
まさかのガン宣告。愛するグーのために下した決断は…
「病気に気づいたきっかけは、グーの鼻の横にできたおできのようなしこりでした。嫌な予感がしてすぐに獣医師に見せると下された診断は『鼻腔腺癌』。病名を聞いて、その深刻さに目の前が真っ暗になりましたが、すぐに手術を受けさせることを決意。癌を治してあげたいというよりも、グーを楽にしてあげたい、元通り楽しく生活させてあげたいという気持ちでした」。
しかし、その手術はグーの身体に深刻なダメージを及ぼしました。手術の後遺症で体内に空気が漏れて、体が風船のように膨れてしまう状態に陥ってしまったのです。癌も完全には取り切ることができず、医師からは再手術を進められました。
しかし、悩んだ末に丸野さん夫妻が出した答えは「もう手術をしない」という決断。「これ以上、無理な手術でグーの身体を痛めつけるのはやめようと思いました。つらい決断でしたが、グーは当時9歳。犬としては立派なシニアです。このまま自然に自宅でのんびり過ごさせてやり、寿命を全うできるようにする方がグーのためになると決断したのです」。
その後は定期的に通院しながら、自宅で大好きな丸野さん一家とのいつもの暮らしを楽しんだグーでしたが、手術から半年たつころには、起き上がれないほどに衰弱してしまいました。
そして、ある朝のこと。ご主人が出勤前にふとグーを見ると、ここ数日間ぐったりと寝てばかりだったグーがぱっちりと目を開け、一心にご主人を見つめているではありませんか。
「もしかしたら、グーは今日、逝ってしまうかもしれないな」。ご主人は、そう直感したそうです。
そしてその直感は、残念ながら現実のものとなってしまいました。
「主人が出勤して、私が子どもを幼稚園に送りに行って帰宅したときも、午後に幼稚園のお迎えから帰ったときも、グーはまだ息をしていました。でもその直後、まるで私と息子が帰宅するのを確認して安心したかのように、グーは眠るように静かに息を引き取ったのです」。
グーが残してくれたギフト
グーの死から11年。今ではグーが子守をしてくれた長男は15歳になり、グーの闘病中に授かった次男は11歳になりました。4年前に迎えた丸野さんにとって2番目の愛犬・パディ(4歳、マルチーズとチワワのミックス、オス)も加わって、丸野家は毎日がにぎやかです。
「息子たちは反抗期といわれる年頃でもありますが、自室ではなくパディのいるリビングで過ごすことが多いですね。次男も長男と同じく動物好きの優しい子。この間も、学校で増えすぎてしまったハムスターを引き取ってきて、大切に育てているんですよ」。
そんな毎日の中、今でも丸野さんはふとした拍子にグーのことを思い出すそうです。
「パディはグーに性格がよく似ているので、パディの様子を見ていると、どうしてもグーが思い出されるんです。あのときグーがあんなことしたよね、こんなことしたねって、今も主人や長男と話しているので、グーに会ったことがない次男もグーのことをよく知っているんですよ。亡くなってもう11年も経つのに、いまだに家族の話題に上るグー。私たちは知らず知らずのうちにグーにたくさんのギフトをもらっていたんだなって実感します」と丸野さん。
「私たち一家の暮らしは、ごく平凡なもの。特にドラマチックな出来事に溢れているわけでもありません。ただ毎日家族で朝ごはんを食べて、仕事や学校に行き、夜も一緒にご飯を食べてリビングでのんびり過ごす…、そんな何でもない毎日です。でも、そんな毎日が過ごせることがとても幸せだということを、時折ハッと気づかせてくれるのが、グーやパディの存在なのです。これ、犬を飼っていらっしゃる方は多かれ少なかれ、実感されているのではないでしょうか」。
丸野さんが今後パディと一緒にやってみたいことは、「ドッグランに行って他の犬と遊ぶこと」。内弁慶のパディが、他のワンちゃんと存分に遊ぶ姿を見てみたいそうです。
「グーと過ごした日々と同じく、パディとの日々もきっと私たち家族にとって何よりの宝ものになるはず。一日一日を大切に過ごしていきたいですね」。