頼りになります!もやしの経済学 【ひでたけのやじうま好奇心】

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8月中旬以降に相次いだ台風の影響で、北海道や東北産を中心に野菜の価格が高騰したまま高止まりしています。
タマネギやジャガイモ、ニンジンなどの価格は例年の1.5倍以上。
レタス、キュウリなども高騰。
そんな中、びくともしない安さを誇る野菜があります。そうです、「もやし」です。

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激安だと1袋19円、平均して30円。
ありがたいですが、安すぎですよね。
なぜここまで低価格なのか?
なぜ安定して量が供給できるのか?
いろいろと調べてみました。

どんな天候でも生産量が安定しているのには、「もやしの生産方法」に理由があります。
もやしは、原料となる「豆」を中国などから買って、日本国内の工場で育てています。
輸入はほとんどなくて、国内生産ほぼ100%。
安いですから、輸入したら完全に元はとれません。

もやしに光は必要なく、光の入らない工場で種を「水」だけで育てます。
もやしを育てる部屋のことを「室」(むろ)と呼んでいますが、室の温度は20度から25度に保たれています。
工場の中ですから、台風になろうが、雪が降ろうが、不作はなくて、常に安定して育てられます。

そして1週間から10日ほどで出荷。
もやしは主に3種類ありますが、中でも一番多い9割を占めているのが『緑豆(りょくとう)もやし』。
残り1割は、「ブラックマッペ」と「大豆もやし」。
お隣・韓国では「大豆もやし」が圧倒的で、ナムルにはこの大豆もやしが使われています。

もやしの生産の歴史を振り返ってみますと・・・
戦前から食べられていますが、もやし生産業者が爆発的に増えたのが戦後の1950年代。
一つの町に1つ、というぐらいあらゆるところに小規模の工場が出来て、その数1,000社以上でした。
当時のもやしの売り方は、八百屋さんが店頭で、目方売りでした。

目方売りから袋売りへと形を変えたのが、60年代のスーパーマーケットの誕生。
これによって大量生産時代へと移り、大型工場と機械化へと進んでいきました。

さらにもやしの生産量はここ10年で2割ほど増え、ホウレンソウを抜きました。
もやしが売れるのは景気と大きく関わっていて、リーマンショックの時は売り上げが激増。
家計を助け、多くはないものの栄養もちゃんと取れるもやしは、不景気ほど売れる傾向にあります。
景気が回復してきた今も、生産量はそれほど落ち込まずに推移しています。

生産量2割増、リーマンショックで大売れ、ということなら、
もやし生産業者はさぞかしイイ思いをしているのだろう、と思ったら・・・それは大間違いです。
かつては1,000社以上あった業者は2014年には150社、2016年現在はさらに減って120社と、どんどんと廃業しています。

その理由は2つ。
「もやしの販売価格が安すぎる」ことと、「もやしの原材料の豆が円安によって高騰している」ことが、工場の会計を大きく圧迫しているのです。

では、もやしの販売価格は19円ほどから30円台と、なぜこれほどまでに安いのか?
もやしが売れるのは、中華店などの飲食店が多いかと思ったら、一般家庭に対してが圧倒的。
つまり、スーパーなどの小売店がメインです。

ところが、スーパーは、もやしの値上げにほとんど応じようとしない。
なぜか?「もやしを目玉として安く設定しておかないと、値段の高い店だと思われて客が離れる」との発想がスーパー側にあるからです。

かといって、スーパーがもやしで儲けているのかと言ったら、そうでもない。
普通の食材なら3割から4割の粗利をのっけますが、もともと安いもやしに対しては1~2割しか乗せていないからです。よって、薄利多売もいいところ、の食材なのです。

加えて、原料の豆は円安のあおりを受けて、高騰。
もやし生産業者はせめて40円にしてほしい、と何年も要望を出しているのですが、その願いは全くかなえられないそうです。

消費者調査では、もやし生産業者の窮状に対して、「もやしの価格がもう少し上がってもいい」と理解する声も多いのですが、小売店の抵抗にあって、なかなか実現しない。

そこで、生産業者はなんとか生き残ろうと、そして低価格でも供給を続けようと、様々な涙ぐましい取り組みを行っています。
その一つが、工場の場所。
もやしの生産には「良質な水」が欠かせませんが、普通の工場を建てると、24時間稼働なので水道代が莫大。
ところが、良質な地下水が豊富な栃木県だけは、「地下水の使用」を認めている。
よって、栃木に工場を建てれば、水道代がかなり抑えられる。
そんなわけで、大手4社のうち3社が、栃木県に大工場を持って節約し、かつ質の高いもやしを生産しているのです。

また、世界的な健康ブームで、欧米でも「もやし」を食べる人が増えてきている。
そこで大手2社は、アメリカにも工場を作って、全米にもやしを供給。
アメリカなら1袋100円で売ることが出来るからです。

さらに、「もやし」というのはある意味、不幸な野菜でして、なかなか付加価値がつけづらい。
じゃがいもやレタス、トマトなどなら、品種や生産地、生産方法などで、さまざまなプラスオンが出来て、値段も高く売れる。
それが出来ないのがもやし。
そこで各工場は、「カット野菜にもやしを混ぜる」という方法で、なんとか100円で売るように努力しているのです。

どのもやし工場ももともとは「もやし生産」で事業をスタートしていますが、
この安さのために、今や「もやし」は全生産の半分以下。
「カット野菜」がメインになっている場合が非常に多いのです。

…こうしたもやし生産業者の窮状と企業努力を噛みしめながら、今日も安くて有り難い様々なもやし料理にお世話になるとしましょうか。

9月20日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

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