わたしはこの半生で、したいことをまことにしたいように生きてきました。
世間の道徳も人の思惑(おもわく)も、ときには人の不幸さえもかえりみず、勝手気ままに自分本位に歩くことを貫いてしまいました。その点においてわたしはおよそ、この世に思い残すことはないのです。わたしは生に対して執着は薄く、生命だけでなく、ほとんどの物品に対しても強い執着は持ちません。
人との愛でも別れなければと決心すると、自分のからだから鱗でもこき落とすように、愛もみれんもひきはがしてしまいました。
そんなわたしが小説を書きつづけるのは自分のしてきたことに対する懺悔なのです。
瀬戸内寂聴
撮影:斉藤ユーリ